早いもので、このWEBマガジンの「チェリー」がスタートして、今年の3月9日で10周年を迎えたそーで。霜田明寛編集長、おめでとうございます。俗に「十年一昔」と言うけど、何かと移り変わりの激しい現代にあって、しかも、その最たるネットの世界において――10年続くというのは、想像以上に凄いコトだと思います。
10年と言えば、小1だった坊やが高2になるスパンだ。そう考えると長い。大人にとって、10年前なんて“昨日”だけど(笑)――子どもにしてみれば、自身のアイデンティティを形成する大切な10年とも。事実、かの相対性理論のアインシュタインはこんな言葉を残してます。「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである」――。
そう、10年前に小1だった彼らにしてみたら、この10年間のテレビの歴史だって、自身のアイデンティティの形成に大きな影響を及ぼしたはず。ちなみに、チェリー創刊の翌日に連載が始まった、この「TVコンシェルジュ」も当然10周年。となれば、このタイミングで直近10年間のテレビ史を“テレコン”目線で振り返るのもありかもしれない。この10年――テレビは何を伝え、どう変化してきたか。
そうと決まれば、まずは――国民的グループが大きな節目を迎えた、あの“騒動”から振り返ってみましょうか。
2016年→2017年/テレビの常識が揺らぎ始めた
2016年3月10日――チェリーが創刊された翌日、こちらの連載「TVコンシェルジュ」も始まった。第1回は「テレビはオワコン!?」と題して、あの国民的グループの年始の“騒動”を取り上げたっけ。そう、同年1月18日夜に放送され、世帯視聴率31.2%を叩き出した『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)である。ほら、SMAPのメンバー5人が生出演して、なんとも不可解な謝罪を強いられた、あの回だ。
コトの発端は、同年1月13日早朝に報じられた「SMAP解散へ!木村拓哉以外ジャニーズから独立」なるスポーツ紙の記事だった。その背景には、高齢になったジャニーズ事務所の経営陣の後継者問題があり、カンタンに言えば――SMAPがソレに巻き込まれたカタチだった。国民的グループの“解散報道”はNHKのニュースにも取り上げられ、新聞各紙も社会面で報じた。かくしてお茶の間は、5人が唯一揃うレギュラー番組“スマスマ”で何が語られるのか、翌週の同番組を注視したのである。
その――1月18日の夜がやってきた。前枠の月9ドラマが初回放送で延長したため、番組は15分遅れで始まった。冒頭、“今夜のSMAP×SMAPは一部内容を変更してお送り致します”のテロップ。続いて4分間のVTRが流れ、それが明けて視聴者の目に飛び込んできたのが――例の黒カーテンを背に、黒スーツ姿のSMAP5人が横一列に並ぶ姿だった。右上に「生放送」の文字。皆、表情が暗い。そこから“2分43秒”の異例の謝罪放送が行われた。ソレは一連の騒動に対する謝罪ではあったが、ファンに向けてというより、誰の目にもジャニーズの経営陣に対する謝罪に映った。

(第1回「テレビはオワコン!?」より)
ちなみに、この日の視聴率31.2%は、2016年の年間視聴率で、1位の「NHK紅白歌合戦・2部」の40.2%、2位の同番組・1部の35.1%に次ぐ年間第3位。派手なスタジオセットも、往年のヒット曲が流れるでも、抱腹絶倒のトークが交わされるでもない、至って地味な絵面に――国民の3割がクギヅケになったのである。
まぁ、良くも悪くも――それがテレビだ。突き詰めれば、テレビとは「今この瞬間、世間が一番見たいもの」を見せてくれるメディア。ゆえに、テレビ局には国民の財産たる電波の使用が許されている。もちろん、あの日――お茶の間が望んだのは、5人のウソ偽りのない心の声だった。しかし、もはやソレが許される局面じゃないコトを可視化したのが、あの“2分43秒”の唯一の収穫だったとも――。
その後、一連の騒動は、SMAPのチーフマネージャーの飯島三智サンが退社に追い込まれ、SMAP自身も同年の大晦日をもって解散――それをもって業界的には手打ちとなった。だが、世間はソレで収まるワケがない。結局、この“2016年”という年は、国民的グループや大手芸能事務所という、それまでテレビの常識として君臨してきた存在が、初めてその地位が揺らぎ始めたエポックメーキングな年として記憶されることに――。そして、その“揺らぎ”は今日に至るまで続いている。そう、この直近10年間のテレビ史は、いわば、テレビの常識がガラガラと音を立てて崩れ始めた10年だったとも――。
一方、そんな乱世だからこそ、平時ではありえない番組が登場したり、スポットライトを浴びたりする。思えば、あの2つの番組もそうだった。
『マツコの知らない世界』はテレビの“こちら側”と共鳴
1つは、TBS系の『マツコの知らない世界』である。2011年10月に深夜でスタートして、人気を呼んで14年10月にゴールデンに昇格。その際、画期的だったのが、放送尺こそ30分から60分に拡大したものの、番組フォーマットをまるで変えなかったコト。
普通、深夜からゴールデンに上がると、スタジオセットを豪華にしたり、出演者を増やしたり、新たなコーナーを設けたりと、いわゆる“ゴールデン仕様”に変更しがち。ただ、ソレで成功したのは『トリビアの泉』(フジテレビ系)くらいで、多くは安易な改変が裏目に出る。結果、ゴールデンの新規顧客の開拓に失敗し、更には深夜時代のファンまで失い、あえなく打ち切りに――なんてケースは珍しくない。『アメトーーク!』なんて、その仕様変更が嫌で、同番組で演出を務めるエグゼクティブプロデューサーの加地倫三サンは、今日に至るまでゴールデンに上がるのを固く拒んでいるほど。
そんな風潮の中、『マツコの知らない世界』は、ある分野に詳しい“スペシャリスト”のゲスト(非タレント)と、マツコ・デラックスが1対1でやりとりするフォーマットを頑なに守った。つまり、21時台の番組で、ひたすら地味な2ショットが続く道を選んだのだ。でも――それがよかった。シンプルな絵面は昨今のうるさすぎるバラエティに食傷気味の視聴者の目を癒やし、深夜時代からのファンは変わらないフォーマットに安堵した。何よりお茶の間の心を掴んだのは、マツコがその衣着せぬ発言で“こちら側”の住人と見られたコト。そう、こちら側――。
例えば、マツコはしばしばテレビ的に禁断とされる本音を口にした。ポテトチップスがテーマの回では、山芳製菓のキャビア味のポテトチップスを一口頬張り、思わず、こう叫んだのである――「まずい!」
それは、長年に渡ってテレビで禁句とされてきた表現だった。だが、テレビの“こちら側”にいる視聴者は拍手喝采。マツコを自分たちの仲間と認めたのである。
メインンキャスターが直前で降りた『ユアタイム』
そして、もう一つのありえない番組が――フジテレビ系のニュース番組『ユアタイム〜あなたの時間〜』だった。当初、メインキャスターに就く予定の“ショーンK”ことショーン・マクアードル川上さんが、『週刊文春』に学歴詐称疑惑をすっぱ抜かれ、テレビ界を揺るがす大騒動に発展したのが2016年3月15日。この時点で、番組開始まで20日を切っていた。翌日、ショーンKさんは自ら出演辞退を申し出る。
さて、番組はどうしたか。もはや代わりを見つける時間的猶予はなく、当初サブキャスター(要はアシスタント)の予定だったモデルの市川紗椰サンが、メインキャスターに昇格したのだ。かくして、僕らは“伝説”のニュース番組を目撃する――。
もっとも、アナウンサーやジャーナリスト以外の人物がニュースキャスターに就くことは、過去に例がないワケじゃない。以前、俳優の石田純一サンや星野知子サンがキャスターとしてニュースを読んだことがあった。だが――そこは仮にも役者。カメラが回ると、彼らはドラマの劇中でニュースキャスターを演じるかのごとく、ごく自然にニュースを伝えた。むしろ風格すらあった。
一方、市川紗椰サンの本業はモデルである。一応、『ホウドウキョク』なるフジテレビがネット配信する番組で、若干のキャスター経験はあるものの、予算も視聴者数も桁違いの地上波の番組は、やはり別もの。しかも報道番組ともなれば、彼女がそれまで出演経験のある地上波のバラエティや情報番組とも、スタジオの雰囲気もスタッフの種類も別世界だ。
そこで何が起きたか?――僕ら視聴者は、未だ見たことのないニュース番組を目撃したのである。それは、喋りに長けたアナウンサーでも、報道に通じたジャーナリストでも、演技に長けた役者でもない、ごく普通の女の子がメインを張る画期的なニュース番組。一応、彼女の両脇をベテランの野島卓アナウンサーらが固めているものの、メインキャスターはあくまで市川サン。番組の紅一点でもあり、番組は彼女の比重を下げるワケにはいかなかったのだ。

(第4回「ニュース戦線異状あり!?」より)
よく進化論で、生物たちは様々な試行錯誤の末に、現在の体系にたどり着いたように語られる。そして僕らは、過去に奇想天外な生物が存在したコトを知らされるが――まさに『ユアタイム』がそう。後年、テレビのニュース番組の歴史を振り返った時、「そう言えば、こんな番組もあったんだよ」とほのぼのと語られる筆頭が、同番組だと思って間違いない。
ちなみに、1年半続いた『ユアタイム』の最終回、オーラスのニュースが“鉄ヲタ”の市川サンに番組側が配慮して、大阪環状線で長年活躍した車両「103系」(※国鉄時代に作られた歴史ある車両)のラストランを伝えるものだった。案の定、この餌に食いついた彼女は、思いの丈を早口で語りまくり、あろうことか肝心の1年半続いた番組の感想の尺がなくなったのだ。伝説のニュース番組に相応しいフィナーレだった。
ただ、僕らは『ユアタイム』を笑えない。本当に笑われるべきは、それ以前、ショーンKさんを番組のコメンテーターに起用し、様々なニュースに対する感想をありがたく拝聴して、メインキャスターの古舘伊知郎サンに大きく頷かせた、テレビ朝日系の『報道ステーション』である。天下の朝日新聞(テレビ朝日の筆頭株主)がショーンKさんの“お芝居”に、まんまと騙されたのである。これを笑わずにいられようか。
ユルい世界観で大ヒットした『逃げ恥』
かと思えば、そんな“テレビ乱世の時代”ゆえに、箸休めというか、あのユルい大ヒットドラマが生まれたとも――。2016年10月、TBS系火曜22時の枠で始まった『逃げるは恥だが役に立つ』である。通称、“逃げ恥”。主演はガッキーこと新垣結衣に、相手役には星野源。そして脚本は、『空飛ぶ広報室』(TBS系)以降、ガッキーとは3度目のタッグとなる野木亜紀子サンである。
同ドラマは海野つなみサンの漫画原作だ。その異色のタイトルは、ハンガリーのことわざで、意味は「恥ずかしい逃げ方だったとしても、生き抜くことが大切」――というコトらしい。要は、あまり勝ちにこだわらない、ユルいヒロインの生き方を肯定するドラマであると。なので、そんな空気感が、時勢的にお茶の間に刺さったのか、ドラマは初回視聴率10.2%から右肩上がりに視聴率を上げ続け、最終回は20.8%と倍増。全11回、一度も前の回から数字を落とさなかった。それは、長い日本の連ドラ史の中でも、『男女7人秋物語』(TBS系/1987年)と『半沢直樹』(TBS系/2013年)しか例がない金字塔だった。
ヒットの要因をもう少し深く分析すると、1つは野木亜紀子サンの脚本だろう。ガッキーとは3作目となる野木サンは、彼女をどう動かすと、その魅力が全開になるかを熟知していた。今作も“コメディエンヌ”ガッキーの魅力をヒロインみくりに憑依させる。みくりには妄想癖があり、ある回では『情熱大陸』や『NEWS23』の出演者を演じてみせたのだ。かと思えば、ある日、星野源演ずる「平匡(ひらまさ)」のパンツを洗うことを任され、「やっと従業員として信頼されたー!」と、パンツを片手に無邪気にガッツポーズも――。
そんな天然みくりに、一見カタブツだけど、ちゃんと距離感を守る“自称プロの独身”平匡(ひらまさ)が雇用主と家政婦の関係ながら、密かに“契約結婚”するのだから、これが面白くないワケがない。更に、石田ゆり子、古田新太、大谷亮平、藤井隆らが演じる、2人を取り巻くココロ優しき仲間たちがブースト効果となり、ドラマはたちまち社会現象になった。
何より、その盛り上がりを可視化したのが、エンディングの「恋ダンス」だった。主題歌『恋』(作詞・作曲:星野源)に合わせて、ガッキーや共演陣らがコミカルなダンス(振付:MIKIKO)を披露すると、初回放送終了後に早くも話題沸騰。急遽、TBSが同局のYouTubeの公式チャンネルで公開したところ――同局の歴代最高の再生数を記録。そこからSNSでは「踊ってみた」とばかりに、職場や学校の仲間たちで「恋ダンス」を踊る動画が爆発的に拡散したのである。

(第12回「コメディエンヌの系譜」より)
怪優・山田孝之の覚醒
さて、年が明けて、話は翌2017年に移ります。この年、まずテレコンが注目したのが、俳優の山田孝之サンでした。お茶の間はもとより、テレビ業界人たちの間でも話題となった異色の番組『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)である。
それは不思議な番組だった。ドキュメンタリーっぽいけど、ドラマのようでもあり、1クール全12話で終了。種を明かせば、フェイクドキュメンタリー(ドキュメンタリーを装ったドラマ)だったんだけど、それが面白いのなんの。
未見の方のためにストーリーをざっくり紹介すると、俳優の山田孝之サンがある日、「カンヌ映画祭でパルムドールが欲しい!」という野望に目覚める。そして、自らプロデューサーとなり、ゼロから映画の企画を立ち上げ、意中の監督を押さえ、役者を揃え、スポンサーを集め、撮影する――そんな一連の映画作り(プロジェクト)の舞台裏がドキュメンタリー風に描かれたのである。

(第31回「テレビマン・オブ・ザ・イヤー」より)
ところが――世の中、そう、うまくはいかない。原因は「山田プロデューサー」の“圧”だった。とにかく熱い。それゆえ、各所で次々とハレーションを起こしていく。例えば、映画『リンダ リンダ リンダ』や『天然コケッコー』を撮った、旧知の山下敦弘監督を自らのプロジェクトに引き込んだ際には――
山田「賞が欲しい。それも映画界の最高峰のカンヌの賞が」
山下「……」
山田「カンヌ行ったことありますか?」
山下「カンヌはないけど、ナント(三大陸映画祭)やロッテルダム(国際映画祭)は招待されたことはある」
山田「そんなハンパなやつではなく、取るならトップのやつを……」
山下「ハンパではないんだけど……」
ちゃんと実績のある山下監督に対して、かなり失礼な物言いである(笑)。かと思えば、主演女優にオファーした芦田愛菜サンには、突然「カンヌに下見に行きません?」と、既に映画祭が終わってるのにも関わらず強引に誘うも――夏休みのラジオ体操を理由に断られる。
芦田「友だちと(ラジオ体操の)皆勤賞を狙ってて。判子をもらわないと…」
山田「どんな判子? 判子ならこっちで作りますよ」
――(笑)。極めつけは、ヒロイン(芦田)の母親役をオファーした長澤まさみサンに対して、まだ脚本もできていないうちから、山田Pは執拗に「脱ぎ」を強要する。
長澤「昔はヌードもいいかなと思ってましたが、大人になって、見え方とか気になって…」
遠回しに断る長澤サン。だが、山田Pは折れない。
長澤「もし、全裸が出演条件の一番なら、お断りしようかな、と……」
山田「全裸に抵抗あるなら、チラッ、チラッと……片方だけとか」
長澤「片方?」
――(笑)。かくして、山田Pは周囲を散々振り回した挙句、プロジェクトは空中分解する。彼は失意のあまり、故郷の鹿児島に戻り、自分を見つめなおすシーンで番組は終わる。だが、納得しないのはお茶の間である(笑)。この1クール、自分たちは何を見せられたのかと。だが、その疑問は、翌2018年に公開された1本の映画で氷解する。山田孝之サンが初めて“完全裏方”に徹してプロデュースした映画『デイアンドナイト』である。それは、あの『山田孝之のカンヌ映画祭』を反面教師にした作品だった。
そう、一連のフェイクドキュメンタリーは、山田孝之サンが抱く理想の映画作りへのアンチテーゼ。自ら暴走するプロデューサーを演じることで、パロディとして、ダメな映画作りを可視化したんですね。実際、普段の山田孝之サンは心優しき好青年。劇中で仲違いした山下監督とは今も親友で、執拗に脱がそうとした長澤まさみサンとも互いにリスペクトし合う仲。そして山田Pの暴走に呆れ、自ら降板を申し出た芦田愛菜サンは、先のフェイクドキュメンタリーのBlu-ray DVD BOXの告知のナレーションを務めていたのである。
記憶に残る『カルテット』と、記録に残る『ドクターX』
ここで、2017年を代表する2本の連ドラを取り上げたい。1つは“記憶”に残るドラマ、もう1つは“記録”に残るドラマである。
まず、記憶に残るドラマ――これはもう、同年1月クールの連ドラで、そのクオリティが高く評価された、坂元裕二脚本『カルテット』(TBS系)の一択でしょう。松たか子・満島ひかり・高橋一生・松田龍平ら、そうそうたる名優たちが演ずる4人のアマチュア演奏家がカルテットを組み、軽井沢の別荘で共同生活する物語。彼らの「唐揚げにレモンをかけるか?」論争や、中盤以降に松たか子演ずる巻真紀(まき・まき)のダークサイド(闇堕ち)が話題になるなど、リアリティある台詞と、ほのかなコメディテイストが織りなす世界観が最高だった。
極めつけは、元地下アイドルのアルバイト店員ながら、ドラマのオーラスに、白人男性にエスコートされて再登場。指輪を見せつけ「人生チョロかった」と高笑いした吉岡里帆演ずる有朱(ありす)の存在だ。結局、彼女が“すべてを持っていって”ドラマは終幕。お茶の間に強烈な爪あとを残した。
一方、記録に残るドラマと言えば、シリーズを通して安定した高視聴率を誇る『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』を置いて他にないでしょう。2012年に始まったシリーズは、毎シーズン高視聴率を重ね、この2017年にはシーズン5を数えるまでに。ちなみに、同シーズンは平均視聴率20.9%、最高視聴率25.3%と、共に同年の民放連ドラ第1位の記録を残した。
加えて、このシーズン5は、結果的にシリーズ最後の平均20%台となったシーズンとしても知られる。最終回で大門未知子がステージⅢの「後腹膜肉腫」に侵されるドラマチックな展開は、横綱相撲ながら“攻め”を忘れない、同ドラマの強さを印象付けた。主演の米倉涼子サンが過酷な減量に挑んだエピソードも手伝い、内容・数字共に1つのピークに達したシーズンと言えよう。

(第32回「2017連ドラ総決算」より)
「新しい地図」始動。AbemaTVで72時間テレビ
さて――この2017年を飾るテレビ関連のトピックスとして、こちらの番組も語らずにはいられない。前年の2016年末をもって解散したSMAPの元メンバーのうち、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人が、元マネージャーの飯島三智サンと合流して立ち上げた「新しい地図」(ファンサイトであり、3人のブランドネーム)の始動である。それを象徴する番組が、開局2年目のインターネットテレビ「AbemaTV」で、2017年11月2日から5日にかけて配信された『72時間ホンネテレビ』だった。
同番組、何が驚いたって、3日間の総視聴数が実に7,200万人を超えたコト。ネットテレビの視聴者数では前代未聞。しかも偶然とはいえ、番組を象徴する“72”に合わせてくるとは、3人は持っているなぁ…と感心してたら、後日のインタビューでAbemaTVの運営元のサイバーエージェントの藤田晋社長曰く「1億ビュー行くと言ってスポンサーを集めました」(笑)。そう、このナナメ上の自信が、日本を代表する若手経営者になれた所以である。
ともあれ、一度もサーバーダウンをせず72時間、大きな事故もなく配信を乗り切ったのは特筆に値する。ピーク時の同時視聴者数は100万人を超えただろう。そのトラフィックに耐えたのは、ネットテレビとして大いに自信になったはず。ちなみに、この5年後の2022年、AbemaTVは前代未聞のサッカーW杯カタール大会の全64試合の放映権を獲得する。
そんな72時間テレビをざっと振り返りたい。番組は11月2日の夜9時、稲垣・草彅・香取の3人が、前述の藤田晋社長の豪華別荘に招かれるところから始まる。まずは、3人による番組のテーマソング『72』のお披露目だ。作詞・作曲は元・ピチカート・ファイヴの小西康陽サン。これがお世辞抜きに名曲だった。それから「世界のヤザワ」こと矢沢永吉サンのビデオメッセージ。「新しい扉を開けて進む人、大好きだから」と、顔をクシャクシャにして3人の門出を祝福した。
そう、小西サンのハイ・クオリティな音楽に、「世界のヤザワ」からのメッセージ。恐らく、「新しい地図」を仕掛けるCULENの飯島三智社長のアイデアだろう。番組冒頭から3人を囲む“ブレーン”は超一流であると示したカタチ。この辺りの演出は見事である。
続いて、同番組の通し企画、視聴者参加の「スクショ選手権」が発表された。それは、72時間の配信中、気に入った場面をスマホで“スクショ”(スクリーンショット)して、タグをつけてSNS上に投稿してもらう――というもの。元来、テレビの世界は著作権にうるさい。その真逆を行く企画は画期的だった。結果的に、これが72時間を通して、同番組の最大の“番宣”となる。
それから、3人の門出を祝うホームパーティが始まった。このパートの見どころは、祝福に訪れたゲストたち――ずばり、誰が来たか。伊達公子、橋下徹、カンニング竹山、メイプル超合金、織田信成、矢口真里、フォーリンラブ・バービー、みちょぱ(池田美優)、岡本夏美、柳ゆり菜、爆笑問題等々。事務所で言えば、タイタン、サンミュージック、アップフロント、ナベプロ、エヴァーグリーン・エンタテイメント(バーニング系)――要は、それらの事務所は「新しい地図」に協力しますよ、というスタンスである。
ちなみに、この「72時間」には、これ以降も各所で様々なゲストが登場するが(ex.三谷幸喜、山﨑賢人、山田孝之、市川海老蔵⦅現・市川團十郎⦆、堺正章、森且行ら総勢132組)、事務所的には、先に加えて――浅井企画、人力舎、マセキ芸能社、スターダスト、オスカー等々。逆に一組もゲストを派遣しなかったのが――ジャニーズ事務所(※当時)、吉本興業、ホリプロ、アミューズ、レプロ・エンタテインメント、そしてエイベックス。そう、誰が来なかったか。ある意味、その線引きが可視化されたのも、この番組の収穫だった。
そして番組は2日目を迎える。3人は午前中から外出して、様々な人に会いに行く。まず稲垣サンと草彅サンの母校の堀越高校を訪れると――教室で待っていたのは三谷幸喜サン。曰く、3人の新たな門出にミニドラマを一緒に撮りたいと。そこから一行は2時間をかけ、教室を舞台に自らが出演する5分間のミニドラマを作る。企画を0から立ち上げ、脚本を練り、リハーサルを重ね、本番――生放送ゆえの贅沢な時間の使い方だった。

(第30回「AbemaTV『72時間ホンネテレビ』を検証する」より)
午後――今度は3人、あの山田孝之サンに会いに指定された待ち合わせ場所へと向かう。その前に、ここに至るまでの当日の山田サンの行動が面白いので記しておく。午前中は自身がプロデュースする映画『デイアンドナイト』(※前述の映画である!)のクランクインで秋田を訪れ、お昼に藤田晋社長が所有するプライベートジェット(!)で急ぎ帰京。そして3人に待ち合わせ場所を指定するが――それが人々でごった返す原宿の超人気スポット、スティーブン・パワーズの巨大なストリートアート『NOW IS FOREVER』の前だったと(笑)。普通に騒々しい(しかも祝日である!)場所に、普通にたたずむ山田孝之サンがおかしかった。
さて、夜も更け、3人は六本木のある場所へ向かう。そこは、2016年12月31日のSMAP解散の日にメンバーで集まり食事した「炭火焼肉An」。待ち受けていたのは、芸能界のドン――堺正章サンだった。同店は堺サンがプロデュースした店なのだ。

(第30回「AbemaTV『72時間ホンネテレビ』を検証する」より)
草彅「やっぱり、緊張しちゃいます」
堺「よそうよ、よそうよ。今日は無礼講……無礼講にも限度があるけどね」
――これだ。これぞマチャアキ節(笑)。まぁ、その笑顔の裏には、田辺エージェンシーをはじめ、芸能界に強い影響力を持つ人脈が連なるのは確か。この日、飯島サンが3人を堺サンに引き合わせたのは、いわば“芸能界のドン”のお墨付きをもらうため。例えて言えば、3人の転校生がクラスメート全員から無視されようとしていたところ、「あれは俺のダチだから」とクラスの番長が味方をしてくれるようなもの。この夜の堺サンの笑顔を見るに――そのミッションは成功したと見ていいだろう。
そして3日目――番組は最大のクライマックスを迎える。その日、3人が向かった先は、浜松オートレース場。そう、SMAPからオートレーサーに転じた、かつての仲間、森クンこと森且行選手に会うためである。この日は「日本選手権オートレース」が開催中。森選手も出場するという。
お昼過ぎ、レース場に到着した3人は控室に通される。そこで関係者からオートレースの講習を受けたり、車券の購入方法を学んだりして、実際に車券を買う。もちろん全員、森クンの単勝狙いだ。午後2時過ぎ、森選手がレース場に顔を見せる。この時、彼が3人のいる観覧席を一瞬、チラッと眺める。感極まった香取サンが目頭を押さえる。
草彅「お前、泣いてるの?」
香取「泣いてない、泣いてない……」
午後2時20分、レースがスタート。森選手は最初こそ4番手だったが、3周目で最後尾になると、そのまま追い抜けずにゴール。最下位に終わった。現実はドラマのようにはいかない。観覧席で森選手の健闘を称える3人――。
それから3人はバックヤードに案内された。通常、レース期間中は不正防止のために選手は外部との接触は禁じられるが、特別な許可を得たという。午後3時5分、遠目に森且行選手の姿が見える。小走りで3人の元へ駆け寄る森クン。ごく自然に4人で輪になって抱擁を交わす。この4ショットは“スクショ”され、Twitterのタイムラインを席捲する。その瞬間、「森クン」がTwitterの世界トレンド1位になったのは言うまでもない。

(第30回「AbemaTV『72時間ホンネテレビ』を検証する」より)
森「緊張したよ……」
草彅「焦った?」
森「あぁ、焦った、焦った(笑)」
冗談を言い合う4人の姿は、昔と変わらない。感極まって再度森クンに抱きつく香取サン。「デカいな」と笑いながら抱きしめ返す森クン――。
最終日――この日の3人は朝から別々に行動する。そして夕刻にスタジオに一堂に会すと、フィナーレとして3人で72曲(※大人の事情でSMAP以外の他のアーティストの曲)をメドレーで歌った。かくして、新しい地図の3人は72時間を完走した――。
同番組は2つの爪あとを残した。1つは、新しいメディアに相応しい、新たな「視聴の動機づけ」である。従来のテレビは、事前に番組内容が予告され、視聴者は見たい番組を見る構図だが――対してAbemaTVは、今この瞬間、バズっている番組をSNSが可視化して、それに触発された他のユーザーがスマホやPCを開いて見る流れ。つまり、「テレビを見る→何かが起きる」が従来のテレビなら、「何かが起きる→テレビを見る」がAbemaTVであると。
そして、もう1つの爪あとが「大きな時間の使い方」だった。地上波テレビは、それこそ1秒単位でテロップやナレーション、SEなどの編集を施すが、AbemaTVは2時間なら2時間、大きな設定だけを決め、その中で起こる化学反応を生で追う。だから当然、何も起きない時間帯もあるが、それゆえ何か起きた時の感動が半端ない。先の例で言えば、“森クンとの再会”がそう。地上波テレビなら3人の再会までのくだりを15分程度に編集するところ、AbemaTVは3時間かけて彼らを生で映し続け、ゆえに森クンと再会した時の感動がひとしおだった。
2018年→2019年/テレビ界に起きた地殻変動
話は2018年に移ります。この年といえば、まずは、あの伝説の2つのお笑い番組が、その長い歴史に幕を下ろした年として記憶されるでしょう。そう、フジテレビ系の『とんねるずのみなさんのおかげでした』(以下/『みなおか』)と、同『めちゃ×2イケてるッ!』(以下/『めちゃイケ』)の終焉である。
思い返せば、『みなおか』は、前身番組の『~おかげです』を含めると30年半、『めちゃイケ』も22年半続き、番組最高視聴率は『みなおか』が29.5%、『めちゃイケ』が33.2%と、共にフジテレビの三冠王に貢献するなど、長く同局の屋台骨を支えたレジェンドだ。それゆえ功労賞というか、近年、同局の視聴率低下で様々な番組が改編を迫られる中にあっても、アンタッチャブルな(触ってはいけない)領域として残されてきた。
――とはいえ、近年は両番組とも視聴率が一桁台に低迷。フジもいよいよ民放4位まで下がったとなっては、そろそろ世代交代を……という声があがっても致し方ない。2014年に一足先に同局の『笑っていいとも』が終了したことも影響しただろう。気が付けば、とんねるずの2人は50代後半、ナインティナインも40代後半と、お笑いの現役プレイヤーとしては年齢を重ね過ぎた感もある。あとは、本人たちの決断だった。
そう、2つの番組が終わったのは、今や絶滅危惧種の、純粋なお笑い番組だからとも。『みなおか』は楽屋オチや業界ネタなどのパロディがベース。一方の『めちゃイケ』はドキュメントタッチのお笑い番組(実はすべて台本)である。ぶっちゃけ、今の時代――純粋なお笑い番組は数字を取りにくい。一方、VTRを見て、スタジオでタレントがコメントする類いの広義のバラエティなら、ある程度の数字は見込める。仮に両番組が、そんなバラエティ番組に衣替えするなら、とんねるずもナイナイも“MC”として番組を延命できたかもしれない。でも、それは彼ら“笑いのプロフェッショナル”のプライドが許さなかっただろう。
ちなみに、2つの番組の終了発表は、各々のカラーを反映したものだった。『みなおか』はとんねるずの2人がお馴染みの「ダーイシ」と「小港」に扮して、初代プロデューサーの港浩一サンの前で「番組が終わっちまうんだよぉ」と終了発表。最後まで楽屋オチなところも彼ららしかった。

(第33回「2017-2018バラエティおさらいと展望」より)
一方の『めちゃイケ』は、これまた番組の最高責任者である片岡飛鳥総監督から突然、ナイナイ岡村に「『めちゃイケ』、終わります」と告げられ、岡村が「……リアルなやつですか?」と返し、そこからメンバー全員に岡村自ら終了を伝える様子をドキュメントタッチで見せた。こちらもお馴染みのスタイルだった。

(第33回「2017-2018バラエティおさらいと展望」より)
片や楽屋オチ、片やドキュメントタッチ――終了発表すら番組のネタにしてしまうところが、両番組ともお笑い番組を自負するゆえの矜持だった。
“世界標準”を意識した『コンフィデンスマンJP』
俗に、時代の変革期を表すコトバとして「スクラップ&ビルド」なるワードがある。ソレで言えば、まさに2018年のテレビ界がそうだった。先の“去り行くレジェンド番組”がある一方、この年――3つのパラダイムシフトと呼ぶべき、日本のテレビの地殻変動が起きる。
1つ目は、海外市場へ向けた、連ドラの“世界標準化”の動きである。その扉を開けたのが、フジテレビの名門「月9」枠だった。4月クールに放映されたドラマ『コンフィデンスマンJP』がそう。主演は長澤まさみ、共演に小日向文世と東出昌大。脚本は『リーガル・ハイ』や『デート~恋とはどんなものかしら~』で知られるヒットメーカー・古沢良太サン。座組は盤石だ。

(第38回「まだ間に合う4月クール連ドラ」より)
長らく日本の連ドラは、国内市場向けに作られてきた。それは、世界一の民放大国と言われる日本(本当)では、広告主から支払われる莫大な広告料で番組を作り、それに見合う高視聴率を獲得するビジネスモデルが完璧に機能していたから。ところが、2010年代に入ると、スマホの台頭でテレビの視聴時間が削られ、更に2015年にアメリカから動画配信サービス「Netflix」が上陸して、多種多様な海外ドラマが“黒船”のごとく一気に日本に押し寄せると――相対的に日本の連ドラの視聴率が下がり始めた。
そこで、日本も逆に積極的に海外へ打って出よう――と方針転換したのが、先の『コンフィデンスマンJP』だったと。海外へ配信したり、あるいはリメイク権を海外のテレビ局や制作会社に販売したり――。そのためには、海外でも通用する“世界標準”のドラマ作りがマストになる。具体的には、普遍的で面白い脚本や画面映えのする大胆な演出、それに卓越した役者たちの演技だ。となると、それなりの制作費も必要になる。実際、同ドラマは制作費が比較的高い枠として知られるTBS日曜劇場の『ブラックペアン』を上回り、クール最高だったという。
ドラマのジャンルは、アニメ『ルパン三世』や、往年の米テレビドラマ『スパイ大作戦』にも通ずるアンチヒーローものである。要はコンフィデンスマン(詐欺師)たちが活躍する“コンゲーム”もの。主人公のダー子(長澤まさみ)は天才的な頭脳と、どんな専門知識も短期間でマスターする集中力を持ち、加えて変装の達人だが――ハニートラップの才能はない。相棒はベテラン詐欺師のリチャード(小日向文世)。彼も変装の名人で、言葉巧みにターゲットに近づく。この2人に翻弄されつつ、チームの一員として奔走するのが、正直者のボクちゃん(東出昌大)である。いつも最後は、彼も騙されていたことが発覚するのがお約束。そして2話で登場して、いつの間にかチームに加わっていた神出鬼没の五十嵐。演ずるは小手伸也サンだ。
ストーリーの基本フォーマットは、世の悪党たちをダー子たちが「詐欺」で懲らしめるが、いつの間にか詐欺の実行役のボクちゃんも騙され、ついでにお茶の間も騙さているという二重、三重の構造になっている。普通、海外ではこの手の脚本力が問われるドラマは複数の脚本家によるチーム制で書かれるが、それを古沢良太サン一人で書いているのが凄い。『古畑任三郎』における三谷幸喜サンと同じ立ち位置だ。
まぁ、視聴率的には一度も二桁に乗らず、全10話の平均8.9%で終わったけど――お茶の間の反応を見る限り、内容への満足度はかなり高かったと思う。例えば、5話の「スーパードクター編」では、大胆にもダー子が外科医に扮して、かたせ梨乃演ずる病院理事長を騙して手術する展開に。当然、医師免許のない無免許手術だ。いくらなんでもやりすぎ…と思っていたら、開腹した臓器はハリウッドの特殊造形師ジョージ松原の手によるもの。これを演じたのがカメオ出演の山田孝之サンで、出演時間はわずか30秒――。かくして、視聴率こそ9.3%だったものの、同回はネットで大バズりしたのである。
実際、同ドラマは放映後、1本のスペシャルドラマと、海外を舞台にした3本の映画が製作され、映画の興行収入は3本合わせて100億円弱と大ヒット。更に、ドラマと映画はNetflixなどを通じて海外へも配信され、2025年には『コンフィデンスマンKR』のタイトルで韓国でもリメイクされた。日本国内では視聴率が今ひとつハネなかったが、その後の映画化や海外展開を見ると、日本の連ドラが“世界標準”に近づく足掛かりとして、同ドラマが果たした役割は決して小さくない。
タイムシフト視聴が注目された『おっさんずラブ』
さて、2018年に起きた、テレビ界の3つの地殻変動――2つ目は、「タイムシフト視聴の重視」である。それは、同年4月からテレビ局と広告主との間で交わされた「タイムシフト視聴率もCM料金に反映させる」なる改訂だった。要は、これまではリアルタイムの視聴率だけが番組の評価基準だったのを――タイムシフト視聴率も評価の数値に組み入れると。まぁ、時間の使い方が多様化する現代にあって、至極妥当な措置だろう。というより、リアルタイムで“ながら視聴”するより、わざわざ録画してまで見るタイムシフトのほうが、むしろ番組に対する“熱量”は高いとも――。
で、そのタイミングで登場した連ドラが、まさに、その熱量を可視化した作品だった。同年4月からテレビ朝日系の「土曜ナイトドラマ」枠で放映された『おっさんずラブ』である。女好きだけど全くモテない主人公・春田(はるたん:田中圭)が、ある日突然、乙女な部長(黒澤:吉田鋼太郎)とイケメンな同僚(牧:林遣都)から愛の告白を受け、混乱しながらも“人を愛すること”に向き合う物語だ。

(第49回「3回目の視聴率の正体」)
同ドラマは放送中から熱狂的なファンを生んだ。インスタグラムでは部長が「はるたんを隠し撮りしている」設定で『武蔵の部屋』を公開すると――“公式裏アカ”と呼ばれ、“表”の公式アカウントのフォロワー数を大幅に上回った。また、ラスト2話(6・7回)はツイッターで世界トレンド1位になり、SNSが大いにバズった。その熱量は数字にも表れ、例えば第5話はリアルタイム視聴率が3.9%だった一方、タイムシフト視聴率は4.0%――そう、わざわざ録画して見るタイムシフトが、リアルタイムを上回ったのだ。
なぜ、『おっさんずラブ』はかくも視聴者を惹きつけたのか。プロデューサーの貴島彩理サン曰く「現代の男女の恋愛観を切り取ろうとした企画が、たまたまおっさん同士の純愛ドラマになっただけ。“王道の恋愛ドラマ”として、老若男女だれもが経験したことがある“恋する気持ち”をまっすぐ描くということを掲げて作ってきました」(出典:第12回「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」作品賞受賞コメント)
――これだ。同ドラマはいわゆる「BLドラマ」といったクローズドなマーケットを狙ったものじゃない。あくまで普遍的な純愛ドラマを描きつつ、たまたま登場人物がおっさん同士だったと。ゆえに、ごく普通のOLたちが夢中になった。物語は王道(普遍的で面白い)だけど、そのギミック(見せ方)が新しく、多くの熱狂的なファンを生んだのである。
10代に届いた『今日から俺は!!』
さて、2018年に起きたテレビ界の3つの地殻変動――「世界標準化」、「タイムシフト視聴の重視」と来て、最後の3つ目は「個人視聴率」のクローズアップである。事実、同年4月から関東地区におけるテレビ局と広告主との間の取引仕様が、それまでの世帯視聴率から“個人視聴率”へシフトしたんですね。要は、もはや幻想と化した“家族揃って1つの番組を見る”という昭和の仕様から、“誰が見たか”を重視する21世紀の仕様へ――。
――で、いち早くその対応に踏み出した局が、日本テレビだったと。実は日テレ、2018年は視聴率が平均2桁の連ドラを1作も輩出できなかったんだけど――意外にも広告収入は前年比で横ばい。その背景に、若者をターゲットにした番組作りへの転換があったんです。要は、世帯視聴率はもう一つだったけど、個人視聴率(若者の可視化)に広告主が一定の評価を示してくれたと。で、その番組が、同年10月クールに放映された日曜ドラマ『今日から俺は!!』だったんです。

(第49回「3回目の視聴率の正体」より)
同ドラマ、80年代に連載された西森博之先生のヤンキー漫画が原作である。ドラマ化にあたり、時代設定は昭和のまま、実写化はムリと思われた主人公の一人(伊藤健太郎)の“トゲトゲ頭”を役者自身の地毛で忠実に再現したり、主題歌を80年代のツッパリソング――嶋大輔の『男の勲章』をリメイクして当てたり――。そんな風に、随所に原作や昭和へのリスペクトが見られた結果、まず、昭和世代の信頼を勝ち取った。
続いて、 若い世代には、そんな昭和のファッションやコテコテのギャグが一周回って新鮮に感じられ、主題歌もTikTokで出演者らによる振り付けで公開されると――女子高生たちが真似して踊った。何より、平凡な高校生だった主人公(賀来賢人)が転校を機に「今日からツッパリとして生きる!」と決意し、金髪パーマにイメチェンする“転校デビュー”の設定が、「わかる(笑)」と若者世代にリアルな共感として刺さったのだ。
そう、原作をリスペクトしつつも、面白さのエッセンスを上手に現代へアップデートした結果、昭和世代も今の若者も、幅広い世代に共感できるドラマに仕上がったのだ。また、福田雄一監督も、いつものサブカル臭をやや抑え、わかりやすいエンタメ演出に徹した点も、ドラマの間口を広げた。更に、福田監督を慕う大物俳優陣――小栗旬、山田孝之、山崎賢人、浜辺美波、柳楽優弥、堤真一らがカメオ出演してくれたのも、ドラマのメジャー感に拍車をかけた。かくして、最終回は12.6%と自己最高を更新。平均視聴率も9.9%と二桁まであと一歩。そう、日テレの“個人視聴率”を意識した戦略で、同ドラマは若者世代も取り込めたのである。
ドラマ『今日から俺は!!』が教えてくれたこと――若者を取り込むには、単に若者向けのドラマを作ればいいというものではない。間口を広げ、幅広い世代に届く工夫をして、要はホンモノを作る――つまり、ヒットの定石を踏まえたメジャーな作品に仕立てる。それが叶えば、結果的に若者層も見てくれるというワケ。
ちなみに、若者層を含む現役世代に対する“呼び方”は各局様々で、日テレはストレートに「コアターゲット」(13歳~49歳)、TBSはちょい年齢層が上がって「ファミリーコア」(13歳~59歳)、フジは「キー特性」(13歳~49歳)という具合。要は、スポンサーが最も商品を売りたいターゲット(購買力が高い層)である。
『ポプテピピック』が起こした奇跡
ここで、一風変わったアニメの話もしたい。時に、2018年1月6日深夜25時――1本のアニメが世界を制した。タイトルは『ポプテピピック』。奇妙奇天烈な名前だが、特段の意味はないという。要はその日、“ポプテピピック”なるワードがツイッターの世界トレンド1位に輝いたのである。
同アニメの主人公は、ポプ子(背が低いほう)とピピ美(背が高いほう)の女子中学生コンビ。無邪気ですぐ暴走するのがポプ子で、達観してクールなのがピピ美である。2人のコスチュームはセーラー服だが、学園シーンは一切登場しない。作品は2人を中心に、ひたすらシュールやパロディ、スラップスティックな世界観が展開する。

(第35回「ポプテピピックはお祭りである」より)
原作は、竹書房が配信するウェブマガジン『まんがライフWIN』(現・竹コミ!)で連載中の同名の4コマ漫画(ちなみに無料で読める)である。作者は大川ぶくぶ先生。2014年11月から連載を始め、数度の休載(インターバル)を挟んで、現在はシーズン9が配信中。版元の竹書房を罵倒する描写も多く、キャッチコピーは「とびっきりのクソ4コマ!!」――。
基本、不条理マンガなので、マーケットは広くないと思われがちだが――意外にも連載開始1年でブレイクする。火をつけたのはLINEのスタンプだった。「おこった?」「完全に理解した」「二度とやらんわこんなクソゲー」「そういうの一番きらい」「クソリプ」「さてはアンチだなオメー」「サブカルクソ女」「私が最初に言いだした事になんねーかな」etc.――それらエッジの立った言葉とは裏腹に、主人公2人の絵柄はポップで可愛い。そのギャップが若者層にウケたのだ。その後、更に人気が加速して、アニメ化が決定。かくして――前述の第1回放送で、お茶の間はとんでもないものを目撃したのである。
そう、原作も掟破りだが、アニメもそれを凌ぐ掟破りっぷりだった。まず冒頭から『星色ガールドロップ』なるフェイクアニメが始まったり、事前に告知された女性声優(小松未可子、上坂すみれ)とまるで違う渋い男性声優の声でポプ子とピピ美が喋り始めたり(ベテラン声優の江原正士サンと大塚芳忠サン)――中でも最大のサプライズが、30分の放送枠の前後編で2本の新作を放映する予定が、後編はポプ子とピピ美の声優だけ変えて(三ツ矢雄二、日髙のり子)、全く同じ内容の15分アニメを再放送したコト――。おかげで、ツイッターのタイムラインには「やっぱりクソアニメ!」「人類には早すぎる!」などのコメントが並び、世界トレンド1位に輝いたのである。
――となると、それだけ多くの人が同時に同アニメを見たことになるが、地上波で放送したのは、東京ローカルのTOKYO MXのみ。これでは多くの視聴者は望めない。じゃあ、どうやって? ここからが同アニメの凄いトコロ。オンエアに合わせて複数の媒体で同時に流す、掟破りのサイマル放送(配信)を仕掛けたのだ。
まず、アニメ番組に力を入れるBS11でも同時放送した。加えてネットも、あにてれ、AbemaTV、Amazonビデオ、GYAO!、dTV、ニコニコ動画、ビデオマーケット、Hulu、FOD、Rakuten TV――と、実に9つのサイトで同時配信。これだけ揃えば、地上波キー局で放送するのと同等か、それ以上のリーチ(※お茶の間に届くコト)が期待できる。
ここで注目されるのが、それらはオンエアと“同時配信”されたこと。普通、地上波で放送するスポンサーに配慮して、配信はオンエア後に解禁するのが業界のルールである。だが、同アニメはその常識すら破った。なぜ、それができたのか――?
答えは、同アニメが昨今主流の製作委員会方式でも、番組に複数のスポンサーが付くでもなく、キングレコードの一社制作・提供体制だったから。つまり、全ての制作費をキングレコードが出す代わりに、二次利用その他の版権も全て同社が手中にすると。これならキング一社がOKすれば、同時配信も可能になる。元来、アニメ制作はコストがかかるし、一社負担だと、コケた時のリスクも大きい。だが――キングレコードは敢えてそのリスクを冒してまでも、単独出資にこだわったのだ。それには理由があった。
――クリエイティブの自由度だ。製作委員会方式だと、どうしても合議制になって、作品内容も無難になる。一方、単独出資だと、キングがいいと言えば、OKになる。そう、これこそが『ポプテピピック』の生命線。同アニメは先にも述べたように、その内容が掟破り。リミッターの針を振り切っている。だからこそ祭りになって、世界トレンド1位になれたのだ。
ちなみに、前後編と同じ内容を流す構成は最終回(全12回)まで続き(笑)、声優も毎回、前後編で変わった。ここで絶妙なのは、毎回、何かしら縁のある2人をキャスティングしたコト。その理由を、プロデューサーを務めるキングレコードの須藤孝太郎サンはこう語る。「アドリブも含めて、役作りを全てご本人たちにお任せしています。そうなると、ごく親しい声優さん同士のほうが盛り上がるので」――つまり、良く知った仲ならアドリブも出やすいと。結果、前後編で作風が変わり、毎回、声優たちの個性がさく裂して、バズり続けたのである。
2クールの賭けに勝った『あな番』
話は翌2019年に進みます。この年、話題になったドラマと言えば――なんと言っても、4月クールの日テレの日曜ドラマ『あなたの番です』でしょう。同枠と言えば、前年の10月クールが『今日から俺は!!』、そして年が明けて1月クールが菅田将暉主演の『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』と、連続スマッシュヒット。満を持して投入されたのが同ドラマだった。

(第50回「4月クール連ドラ反省会」より)
その意気込みは、同ドラマが2クールだったコトからも読み取れる。なぜ1クールが定番の日本の連ドラで、2クール?――同ドラマの仕掛け人は、企画・原案を手掛ける秋元康サンであるのがその答え。今や世界の連ドラ市場は、Netflixが火を点けた空前の巨大マーケットへ成長した。1シリーズの制作費が100億円なんてことも珍しくない(日本は1クール3~4億円)。それだけ投資しても、ちゃんと回収できる巨大市場なんですね。要は海外への配信を考えた時、世界で売りやすいのは2クールドラマ。つまり、秋元サン曰く――バスに乗り遅れるな、と。
ドラマ『あなたの番です』は、とあるマンションを舞台に繰り広げられる新手のミステリーである。脚本は、劇作家で脚本・演出家の顔も持つ福原充則サン。物語は、15歳の年の差新婚カップル、手塚菜奈(原田知世)と翔太(田中圭)が引っ越してくるところから始まる。挨拶のために、マンションの住民会に参加する菜奈。そこで、ひょんなことから「交換殺人ゲーム」が始まる。「交換殺人」とは、ミステリー用語で、互いに殺したい相手を交換して殺害する手法。犯人に動機がないので、容疑者として疑われにくいメリットがある。
もちろん、ゲームはジョークだ。会の参加者13人は「誰だって一人くらいは殺したい人物がいる」と、投票用紙にターゲットの名前を書いて、無記名で投票して、シャッフルして1人一枚ずつ引いた。本来なら、それで終わるはずの些細なユーモアだった。ところが――その夜、ゲームの参加者の一人だった管理人が不可解な死を遂げる。そして例の投票用紙が一枚、マンションの掲示板に貼られていたのだ。そこには「管理人さん」の文字――。
かくして、ソレを起点に不可解な殺害事件が次々と起こる。そして住民たちの間で「本当に交換殺人が行われているのか?」「次は誰が殺される?」「犯人は誰?」と、疑心暗鬼が渦巻く――というプロットである。
映画好きの人なら、ここであの作品を思い出すだろう。アルフレッド・ヒッチコック監督の不朽の名作『見知らぬ乗客』だ。かの作品、まさに「交換殺人」を描いたもの。ストーリーを説明すると――有名テニスプレイヤーの主人公ガイは、かねてより奥さんと上手くいっておらず、離婚したがっている。ある日、彼は列車で移動中に、ファンと称するブルーノと出会う。そして雑談するうち、ブルーノから「自分も父親を憎んでいる」と交換殺人を持ちかけられる――という話だ。
もちろん、ガイはこの提案を冗談と解釈し、「完璧なアイデアだ」なんておどけて返し、2人は別れる。しかし後日――本当にブルーノはガイの奥さんを殺してしまい、ガイに「次は君の番だ」と、ストーカーのように付きまとい始める。犯人が次第にサイコパス化するのがこの映画の肝で、ヒッチコック流のゾクゾクする怖さが見られる。
そう、「交換殺人」の面白さの肝は、冗談で話していたことが本当に実行され、「次はあなたの番だ」と主人公が脅されるところにある。ドラマ『あなたの番です』もそう。ゲームの参加者の一人、藤井(片桐仁)は殺したい人物に、ほんの出来心から知人でタレントとして活躍する医師の山際の名前を書いたところ――本当に殺害される。それから連日、正体不明の何者かに「あなたの番です」と書かれたメッセージが届いて、遂にノイローゼになる。
とはいえ、『あなたの番です』が秀逸なのは、単にヒッチコックの名作をオマージュしただけに止まらず、そこに“連続殺人”というアイデアを付加した点。結果的に、もっと面白くなった。『見知らぬ~』は2人の「交換殺人」なので脅迫相手は分かっている。一方、『あなたの~』はゲームの参加者が13人もいるので、誰から脅迫を受けているのか分からないのだ。
――これだ。そして、お茶の間も脅迫者が誰かという「恐怖」に怯え、ソコに「謎解き」の要素も加わる。いわば1+1が3になる面白さ。ちなみに、ミステリーの世界で、外界から切り離された舞台(吹雪に取り残された山荘など)で殺人事件が起きて、犯人が身内に限定される状況を「クローズド・サークル」と呼ぶが、同ドラマもその類型の1つ。加えて、ターゲットが一人ずつ消されていくくだりは、クローズド・サークル劇の傑作、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせる。
そんな次第で、『あなたの番です』は、ミステリーの傑作の匂い満載だったけど――残念ながら、視聴率は第1章(1クール目)が一桁続きと、もう一つ。ところが、第1章のラストで主人公の1人である菜奈(原田知世)が、自宅の寝室で遺体となって発見される“掟破り”の展開に――。すると、第2章(2クール目)は視聴率を一気に2桁へ上げ、SNSは黒幕を考察する書き込みであふれ、最終回は同枠最高の19.4%と、堂々の結果を残したのである。
勝因は――やはりドラマの中盤(第1章のラスト)に主人公の一人、それも原田知世サンというレジェンドクラスの役者が亡くなる(途中退場する)掟破りのストーリーだろう。普通の連ドラではありえない展開がSNSを賑わし(ツイッターで世界トレンド1位に)、それがブーストになった。普通、芸能事務所の強い日本では、大御所クラスの俳優に、その種のオファーはありえない。しかし、そのありえないことが起きたのだ(※知世サンが個人事務所なのも幸いした)。結果、「ひょっとしたら、このドラマは本気かも…」とお茶の間の見る目が変わったのである。
ちなみに、『あなたの番です』はHuluなどを通じて海外へも配信され、案の定、海外の視聴者たちも第1章のラストでバズった。そして第2章になると、各国の視聴者間で「黒幕推理」が盛り上がった。2クール作戦、大成功だ。
チャレンジングだった『新しい王様』
おっと、2019年といえば――こちらもチャレンジングなドラマとして忘れられない。TBS系の深夜ドラマ『新しい王様』である。
同ドラマ、ちょっと変則的な形でお茶の間に届けられた。シーズン1(全8話)をTBSが平日帯で放送して、つづくシーズン2(全9話)を動画配信サービスのParavi(現・U-NEXT)が週一で更新(配信)と。まぁ、シーズン1・2と言っても、放送と配信で便宜上分けているにすぎず、要は全17話の連ドラだった。つまり、放送と配信のハイブリッド。なぜ、こんな不思議な座組になったのか?
端的に言おう。同ドラマは、テレビ局を買収する話だからである。特に、買収話が本筋になるシーズン2は、テレビ局にとって禁断の話。その部分だけ配信にしたのは、分からぬ話ではない。噂には、当初TBSに同ドラマの企画を持ち込んだところ、激怒されたという。とはいえ、その後、シーズン1を見た視聴者から、シーズン2も地上波で見たいという声がTBSに殺到し、同局は態度を軟化させる。結局、Paraviの配信から5週遅れでシーズン2もテレビで放送されることに――。
もっとも、当初TBSがドラマの内容に激怒したという噂すらプロモーションの一環と言えなくもなく、そんな風に虚実入り混じる噂自体が、このドラマらしいとも言える。
同ドラマ、物語の核となるのは、藤原竜也サン演じるアプリ開発者で自由人のアキバと、香川照之サン演ずる投資家の越中(えっちゅう)の2人。アキバが旧来のビジネスの慣習や金儲けを否定するのに対し、越中は「金儲けの何が悪い」と企業買収を繰り返す。物語は、この相反する2人がテレビ局の買収を巡って、虚々実々の駆け引きを展開する。恐らく――元ネタは2005年のライブドアによるフジテレビ買収騒動だろう。
まぁ、ルールに縛られないアキバの言動はホリエモンを連想させるし(容姿は別として)、「もの言う株主」を実践する越中のスタイルは、かつて村上ファンドを率いた村上世彰氏を彷彿とさせる。ただ、似ているのは2人のキャラクターくらいで、ストーリーはドラマオリジナル。だから元ネタというよりは“インスパイア”(ヒントをもらった)の方が近いかも。あの騒動から時間も経ち、テレビやITを取り巻く世界も激変し――1つのフックとして、確信犯的にキャラクターのみ近づけたのだろう。ネットでバズりやすいという意味で。
ただ、同ドラマの面白さの肝は、実は買収劇そのものじゃない。その周りで起きるテレビ界・芸能界・セレブ界を舞台にした、嘘みたいな本当の話である。例えば、越中が愛人関係にあった舞台女優(夏菜)がある日、勝手に大手芸能事務所と契約してしまい、ソコの社長から「ウチの商品に手を付けた」と脅されたり、その和解の条件に「ドラマの主役」を提示され、テレビ局の上層部の男(八嶋智人)に掛け合ったり、するとその男から交換条件として、付き合いのある美人スタイリストの事務所にカネの融通を頼まれたり、結局、ちょい役しかねじ込めず、その結果、玉突きのように弱小事務所の新人が役を外されたり――と、なかなか面白い。
セレブたちのパーティーも頻繁に登場する。そこへ可愛い女の子を派遣する会社が存在したり、そんな会社を経営するコウシロウ(杉野遥亮)が順調に業績を伸ばしたり、コウシロウに思わせぶりな態度を見せる美女(泉里香)が、実はセレブたちのパーティーを渡り歩く玉の輿狙いの“プロ”(今で言う港区女子)だったり――と、描かれるエピソードも、そこそこリアリティがあって面白い。
さもありなん、同ドラマのプロデュース・脚本・演出を手掛けたのは、かつてフジテレビに在籍し、『ギフト』や『きらきらひかる』、『カバチタレ!』など異色作を数多く作り、独立後は『闇金ウシジマくん』シリーズや映画『カイジ』シリーズなどの話題作に携わる、奇才・山口雅俊サン。つまり、エンタメ界のど真ん中にいる人物が描くテレビ界・芸能界・セレブ界の話なので、これが面白くないわけがない。もちろん、それぞれのエピソードはデフォルメされ、元ネタが分からないようにはしているが――。
もっとも、山口サンが上手いのは、このリアリティ渦巻く物語の中に、1つだけファンタジーを入れたこと。それが――武田玲奈サン演じるエイリの存在だ。元看護学生で、闇金から借りたお金がいつの間にか莫大に膨れ上がり、返済できずに風俗に売られたり、ひょんなことから芸能事務所の社長の目に止まり、女優デビューすると、あれよあれよと主役に上り詰めたり――。

(第48回「今からでも間に合う1月クール連ドラ中間決算」より)
そんな彼女は第1話の冒頭、闇金事務所から逃亡する際、高さ20mもあるビルの非常階段から飛び降り、膝をほんの少し擦りむいただけで、すぐに立ち上がって走り出す。そう、これはファンタジーなのだ。これ以降、同ドラマで何が起きても、それはファンタジーになった。かつて村上春樹サンが、読者から小説に登場するクルマの装備の間違いを指摘され、「地球によく似た星の話です」とシャレで返したが、そういうコト――。
『クランメゾン東京』で“王道”木村拓哉が帰ってきた
さて、ここまで数々のパラダイムシフト(地殻変動)が起きた2018年から2019年のテレビ界を振り返ってきたが、最後にその逆――“変わらないゆえの王道”の話もさせてもらおう。2019年10月クールに登場した、木村拓哉主演の『グランメゾン東京』(TBS系)である。視聴率は平均12.9%で、最高が最終回の16.4%。さすがキムタクの安定感。やはりスターは王道ドラマが一番似合う。
物語は、かつて天才と呼ばれたシェフ・尾花夏樹(木村拓哉)が、とある事件がキッカケで失脚。再起をかけて、自分を救ってくれたオーナー・早見倫子(鈴木京香)に三つ星を獲らせるべく、レストランを開業する話である。とはいえ、かつてスキャンダルを起こした彼に味方する者は少ない。そこで、まずは仲間集めから始めるが――もう、この展開からして、黒澤明監督の往年の名作『七人の侍』なんですね。そうして個性豊かなパティシエやギャルソンらが集う。
脚本は、かつて江口洋介主演の『dinner』(フジテレビ系)を書いた黒岩勉サン。同ドラマは数字こそ伸び悩んだが、今でも僕はレストランドラマ史に残る傑作だと思っている。その黒岩サンが再び同じ題材で筆をとったのだから、これが面白くないワケがない。ちなみに、『グランメゾン東京』の後、彼は『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(TBS系)や『ラストマン-全盲の捜査官-』(同)、そして直近では『リブート』(同)を手掛けるなど、今や連ドラ界で最も脂が乗った脚本家と呼ばれる。
そして、意外と忘れがちだけど――レストランドラマにとって大切なのは、作る料理が本当に美味しそうに見えること。その点もぬかりない。同ドラマの料理の監修は、かのミシュランの三ツ星を現役最年少(33歳)で獲得した「カンテサンス」の岸田周三シェフ。彼の作る料理は、見てくれだけじゃなく、ちゃんとビジュアル通りに美味しく、嘘がない(本当)。
あと、これも忘れちゃいけない、キムタク自身の料理の腕。思えば、あの「BISTRO SMAP」で20年に渡り、腕を振るってきたのだから、その辺の料理人より、よほどキャリアがある。同ドラマは料理シーンもふんだんにあるが、全てキムタク自身が演じている。
そして、そして何より――そんな主人公・尾花夏樹の肩書は“スーシェフ”(副料理長)なのだ。あくまで、オーナーシェフ・倫子のサブ。だが、ソレがいい。かつて『あすなろ白書』(フジテレビ系)でフラれ役の取手クンを演じた昔から、キムタクはど真ん中に立つより、ちょい脇でアシスト役に徹するほうが、その魅力が格段に増す。思えば、『GOOD LUCK!!』(TBS系)の新海元もコーパイ(副操縦士)だった。そう、一流の腕を持ちながら、自らはオーナーシェフのサブとして、控えめに振舞う。これぞ王道のキムタクドラマである。
思い返せば2010年代――連ドラの立ち位置で、一時期迷走した感のあるキムタクだったが、少々回り道をして“王道”に戻ってきてくれた感がある。1つだけ確かなことがある。どんなに時代が変わろうとも、お茶の間を惹きつけるのに、“スターのハマり役”に勝る定石はない。『グランメゾン東京』とは、そんなドラマである。
2020年/コロナ戦争開戦!その時、テレビは…
さて――ここからは、この10年のテレビ史において、最も過酷だった“2020年”の話といきましょう。そう、いわずもがな「コロナ」が始まった年である。
思えば、コロナ禍って3年3ヶ月も続いたんですね。一応、WHO(世界保健機関)の公式発表的には、2020年1月30日に新型コロナを「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言して、そこから世界的なコロナ禍に入って――2023年5月5日に先の宣言を終了している。この間、3年と3ヶ月――。
それにしても、ほんの数年前まで、世界中で海外旅行が止まり、各国が鎖国状態に陥ってたなんて、改めて僕らは凄い時代を経験したと思う。店という店は閉まり、不要不急の外出も制限された。となると、これはもう戦時下と変わりない。第一次世界大戦は4年、第二次世界大戦は6年続いたけど、コロナ戦争は3年3ヶ月続いたというコト。
そんな“戦時下”にテレビは何を見せてくれたのか。特に変化が顕著だったのが、コロナ1年目の2020年だった。まだ、コロナが未知のウイルスで、高い致死率を持つと恐れられていた時期。ワクチンも治療薬もなく、僕らはマスク(それすら手に入らなかった時期も)をして、先の見えない日々を過ごすしかなかった。そんな民衆の“不安”の扉を開けたのが――あの1本のニュースだった。
(後編に続く)





