毎日同じことの繰り返し、退屈な日常、色褪せた視界……弱っている時や疲れている時、たまに現実から逃げだしたくなってしまうのは現代人なら多くの人が感じたことのある感情。
日々のルーチンワークから逃げ出して、新世界に飛び出していきたい……そんな弱気な気分のときに私の目に飛び込んできたのがこちら。
飛び出したいと願うばかりでなく本当に飛び出してしまった「緑のひと」。
これ、何かといいますと、「This is EXIT」というタイトルがついたアート作品。松枝悠希さんという作家さんの作品のひとつなのです。
■作品のテーマは「解放」
松枝さんの作品のコンセプトは、「平面から立体へ、静から動へ、それぞれの取り巻く環境や物質から“解放”させて飛び出す」というもので、その作品を見ていると、自身も解放されていいんだと勇気を与えられるような感想を抱きます。
松枝さんの代表作と言えばこちらの「super egg」
「ものすごいエネルギーを秘めたタマゴは、殻の中でジッとしているはずはないだろう」というキャプションがつくこちらの作品は、卵の黄身がまるでロケットのように勢いよく飛び出していて見ていて小気味よい。目玉焼きを作ろうとして卵を割ってみたら……黄身が逃げ出してしまった?!なんていうシチュエーションを想像して、思わず笑ってしまいます。
■飛び出すアートの生みの親
これらの作品を生み出した松枝悠希さんは、1980年茨城県生まれ。東京芸術大学大学院後期博士課程を修了したのち作家活動をされています。ご実家が印刷会社だということもあり、幼少期から紙とはさみとのりで工作をすることが大好きだったとか。小学生のときに、「月曜から金曜まで、1限から5限までずっと図工の学校があるんだよ」と教えられ、美大進学に憧れを抱いたのだというからまさに生粋のアーティストといった感じ。
作家の松枝悠希さん。さ、さわやかすぎる……!(畏怖)
松枝さんが大切にしていることは、「Wordlessである」ということ。つまり言葉に頼らずとも、いつ誰が見てもわかりやすい作品であると同時に、人によって感じ方、とらえ方が多様であるようにという想いが込められています。
■あれもこれも飛び出す!圧巻の作品たち!
こちらの作品名は「Between」
ヒートプレスという工法で樹脂を加工し、パズルのピースを飛び出させています。仲間のピースとの連結を絶ち切って、ここから飛び出すんだという強い意志を感じる作品です。
こちらは「escape」
キャプションには「もう、この仕事嫌っす…叩かれるし、にらまれるし、嫌な顔されるし…ちゃんとやってるのに…」とあります。毎日自分の仕事をしている目覚まし時計が、わたしたちに理不尽な扱いを受けていることを嘆いてついには盤面を置いて逃げ出してしまう。松枝さんいわく、「ものの気持ちになってそれを実現させている」とのことで、つい「いつも叩いてごめんね」と言いたくなってしまう作品です。
他にも、サイコロが目を置いていってしまう作品「follow me!」や、「Do not touch」「No photography」「No smoking」の三部作など、多様な作品が楽しませてくれます。
「super DARUMA」は、こんなキャプションがついています。
「勝ちたいならば、まずは裸になって自分を見つめ直すことが必要」
派手な装飾を脱ぎ棄てて裸になっただるまが、決意を新たに飛び出してきているように見受けられます。
こちらは重厚感たっぷりの「4 cards」
シンプルなんだけれども気品があり、いつまでも鑑賞していたい一作。私見では、エースの誇りを持ってぐいっと前に主張してくるというニュアンスを感じ取りました。
さて、このように鬼才あふれる松枝さん、来る1月18日(日)22:54〜23:00にテレビ放送での特集が決まっています。
BS朝日 Colors 自分ヲ彩る色(http://www.bs-asahi.co.jp/colors/)
番組では生き生きとした若手のクリエイターに注目。自分のスタイルを持ち、今までにない自分のカラーを表現しようとする人々の「生き方」や「こだわり」を、「色」と掛け合わせて表現します。松枝さんのカラーは「黄色」。解放をテーマに作品について語ります。
常に新作についても考えを巡らせているという松枝さん。今後は何が飛び出してくるのでしょうか?松枝さんのアイディアにインスピレーションを受けて、自らも解放への一歩を踏み出したいと感じる今日この頃なのでした。
(文:ノリコ・ニョキニョキ)
■関連リンク
・松枝悠希公式ブログ「松枝悠希のABC」