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実話ベースの映画『地雷と少年兵』が教えてくれる「くくる」ことで見えなくなるもの

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1945年5月。終戦後、戦争中にドイツ軍がデンマークの海岸に埋めた200万個ともいわれる地雷を撤去する作業が行われた。その作業にあたったのは、多くのドイツ人の少年兵たちだった……。という実際に起きた出来事をもとにした映画が『地雷と少年兵』である。ロケは、実際に70年前に少年たちが地雷撤去をし、多くの命を落としていった海岸で行われた。

復讐の負の連鎖

この映画では、ヒトラーのような髭を生やした鬼軍曹・カールが登場するが、彼はデンマーク人だ。ナチス・ドイツによって占領されていたデンマークの人たちの多くは、ドイツ人に対して憎しみを持っている。
つまり、デンマーク人の彼らはナチス・ドイツへの復讐を、ドイツの少年たちに過酷な作業を課すことで、おこなっているということになる。憎しみが憎しみを呼び、復讐の連鎖を起こしているのだ。
それは、例えば現代に置き換えれば「ビン・ラディンにニューヨークのビルをやられたんだから、イラクを空爆してもいい」というような論理である。

“くくる”ことで見えなくなるもの

となると、誰かがその連鎖の無意味さに気づかないと、この連鎖は止まらない。この映画の中では、無意味さに気づき始めたのが、主人公のカールだ。少年兵たちと接するうちに、カールの中に、彼らを助けようとする気持ちが芽生えてくるようになる。

しかし、当然のことながら、それは彼が所属する軍の意図とは異なる。「彼らは母親の名前を泣き叫ぶような少年なんだ」と、少年たちの解放を主張するカールに対し、彼の上官にあたるエッべは「彼らは兵士だ」と返す。ここに、“くくる”ことの怖さが垣間見える。
「兵士だ」と、くくることは事実としては間違ってはいない。だが、そう、くくってしまうことで、彼らひとりひとりが、感情を持った少年である、ということが見えなくなってしまうのである。
エッべはこうも言う。「ドイツ人は何をしでかすかわからない」と。ここでも、“ドイツ人”というくくりかたがされている。ヒトラーのようなドイツ人を、ドイツ人全体と捉えてしまい、個々が見えなくなっている、ということになってしまっているのである。

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人を代表するカール、体制を代表するエッべ

監督・脚本のマーチン・ピータ・サンフリトは、カールは人を代表し、エッべは体制を代表している」と言う。人をくくると、組織ができる。組織には体制が存在する。そして、体制に染まりすぎたときに見えなくなるものが存在する。

では、カールはなぜ、それを見失わずにすんだのだろうか。それを聞くとマーチンは「食べ物だったり、愛だったり、求めているものが少年も自分も同じだと気づけたから」だと答えてくれた。

少年キャストはほぼ全員が演技未経験

内容面にばかり話が及んでしまったが、出演者たちの演技も素晴らしい。特に、少年たちはほぼ全員が、演技未経験だったという。マーチンは「クリスマス映画に出ているような俳優は嫌だった」と笑って語った。
内容は違うが、極限状態での少年たちの緊張感を描く点では、少年たちが無人島でサバイバルを繰り広げる映画『蝿の王』にも近い雰囲気を感じた。
しかし、これは『蝿の王』のような小説原作の物語ではない。実際におこなわれた少年兵たちの地雷撤去の話をベースに作られている。

(文:霜田明寛)

【関連リンク】
チェリーボーイズが行く東京国際映画祭
http://social-trend.jp/cherryboys/

東京国際映画祭 コンペティション部門『地雷と少年兵』作品ページ

<作品情報>
マーチン・ピータ・サンフリト(監督/脚本)、マイケル・クリスチヤン・ライクス(プロデューサー)、ローラン・モラー(俳優)
© Danish Film Institute
106分 デンマーク語、ドイツ語 カラー | 2015年 デンマーク=ドイツ |

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