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初長編で大阪アジアン映画祭満員!夢を捨てられない人を導く『見栄を張る』

ソーシャルトレンドニュース編集部

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2016年3月4日(金)〜3月13日(日)に開催されていた第11回大阪アジアン映画祭。
この映画祭で、石井裕也(『舟を編む』)、横浜聡子(『俳優 亀岡拓次』)らを輩出した若手監督育成プロジェクト『CO2』によって制作された映画が3本公開された。
3本の中でも、唯一、上映券が前売りの時点で完売した作品が藤村明世監督の『見栄を張る』だ。
藤村明世監督は現在25歳。2014年に『彼は月へ行った』でぴあフィルムフェスティバルに入選した後、商業映画の助監督をしながら、脚本のプロットで選考される『CO2』に応募し、このチャンスをつかんだ。
撮影に選んだテーマは監督自身「いつか映画にしたい」と温めてきた“泣き屋”の話だ。
絶滅寸前の職業をテーマにした本作は決して古い慣習の話ではなく、体裁を気にしがちな現代人を浄化する、2016年の日本社会に放たれるべき傑作だった。

夢を追う若者をチクリと刺す『見栄を張る』とは

作成者:FUJIMURA AKIYO

CMに出演するなど、活躍はしていたものの、最近はパッとしない女優・吉岡絵梨子。惰性でオーディションに通い続けるほぼフリーターのような生活を送っていた。
そんな彼女の元に、疎遠だった姉の訃報が飛び込んでくる。
葬儀のために地元へと戻った絵梨子を待ちうけていたのは、“東京で浮ついて故郷に顔を出さない絵梨子”に対して冷たい親戚と、姉が女手一つで育てていた甥っ子の和馬だった。
姉の代わりに和馬の引き取り手になろうとする絵梨子だったが、料理といえば、カップ焼きそばしか作れない。
その様子を見た親戚に「綺麗な女優さんに子供の世話は無理なんじゃないか」と責められてしまう。
そこで絵梨子は生活のために姉が働いていたという“葬儀で参列者の涙を誘う”泣き屋の仕事をはじめる。
「葬儀の時まで見栄を張る」この仕事の大義が理解できずにいた絵梨子だったが、“死者の道を作るために泣く”という生と死を繋ぐ仕事に触れるにつれ、見栄によって表の皮だけつっぱった自堕落な自分を捨て、本来の“なりたい自分”を取り戻していく。

『見栄を張る』が炙り出した“夢を追う人間”の落とし穴

タイトルの通り、絵梨子は冒頭から絶妙に見栄を張り続ける。
オーディションの帰り、かつて事務所が同じだった女優に会い、「オーディションですか?」と聞かれると「ううん。違うよ。別の映画のことで相談に来ただけ」ととっさに嘘をつく。友人に「(今回の現場)もしかして主役?」と聞かれると「まあ……そんなとこ」とごまかす。
その様は滑稽だが、笑えない。“自分の肩書き”に他人が期待するイメージに合わせて、見栄を張ることは誰にでもあることだ。
他にもその場の空気を壊したくないという思いや、自分が傷つかないために、小さい嘘を重ねることもあるだろう。
表面を作って演じるのはそう難しいことではない、いつも頭に描いている理想を少し切りだして演じるだけでいいのだから。
しかし表面を固めるだけの行為は、確実に現実から目を逸らさせてしまう。

特に俳優やミュージシャンなど世間からきらびやかに思われる夢を追いながら、生活のためにフリーターを続ける人にとっては、大きく“見栄”を固めやすい分、“現実”の差が開いている虚しさを実感することが多いかもしれない。
表面だけを固めれば固めるほど、音楽や芝居自体の面白さに没入していた頃の自分が腐っていってしまう気がするのではないだろか。

“見栄っ張りの主人公”モデルは監督自身!?

筆者が訪れた3月5日、初回の上映では監督、キャストが揃って会場の第七芸術劇場で舞台挨拶が行われた。
満員の客席に向かって、藤村監督は「映画監督という夢を追いかけて、日々頑張っているんですけれど、まだ、自分の映画だけでは生活できないのに、友達には『今映画撮っているんだよ』とか『職業は映画監督です』と言ってしまう、見栄っ張りな気持ちを映画の中に投影しました」と語り、“見栄を張らない”コメントが印象的だった。
12日も会場は満員、大阪アジアン映画祭での上映を大盛況に終えた『見栄を張る』。
この作品は「世間体や常識は置いておいて、あなたが本当に大切にしたいものは何ですか?」と問いかけてくれる。
“夢を抱え、本当の自分に迷う若者にあふれる”東京での上映を切に願いたい。
(文:小峰克彦)

■作品情報
『見栄を張る』
キャスト 久保陽香 岡田篤哉 似鳥美貴 辰寿広美 真弓
齋藤雅弘 時光陸 小栁圭子(特別出演)
監督・脚本 藤村明世
プロデューサー 今井太郎
エグゼクティブプロデューサー Aldo Andriani
撮影監督 長田勇市
録音・整音 杉本崇志
助監督 永井和男・磯部鉄平
美術 塩川節子
衣装・ヘアメイク 霜野由佳
小道具 加賀谷静
制作 山口理沙・水取拓也
編集 磯部鉄平
音楽 佐藤太樹・大石峰生・伊藤智恵

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