毎年、夏が近づくと楽しみにしていることがあります。
それが「野外映画祭」。
浜辺や公園、最近では都会の真ん中など、様々な場所で開催される映画祭のことで、日常では体験することが出来ない特別感を求めて頻繁に参加しています。
旅する野外映画フェス 『夜空と交差する森の映画祭』
そんな野外映画祭の中でも、特に胸のわくわくを掻き立てられるのが、『夜空と交差する森の映画祭』。
実際に2016年に開催された映画祭(テーマはゆめうつつ)に参加した際には、美しく作り込まれた世界観に夢中になったのを覚えています。
参加した際に撮影。会場の入り口からすでに可愛い
こんなに素敵な企画、一体どんな人がやっているんだろう……? ということで、今年も10月に開催される『夜空と交差する森の映画祭2018』を前に、森の映画祭実行委員会代表のサトウダイスケさんを取材。映画祭を開催しようと思ったきっかけや、独特の運営方法、今後の展望などを伺ってきました!
代表サトウダイスケに聞く“野外映画フェス”
“偶発性×映画” フェスで叶えたい文化形成
――映画祭を開催しようと思ったきっかけを教えてください。
元々自主映画を作っていて国内の映画祭などにも出していたんですが、正直、映画祭って一般の方があまりいないので、どうやったらもっと多くの方に見てもらえるかをずっと考えていました。
その折に音楽フェスへ出かけ、「フェスは普段自分が興味を持っていないアーティストに出会える」という“偶発性”が魅力だなと思って。この“偶発性”を使えば一般の人にも自主映画を見てもらえると思ったのがきっかけですね。
――確かに音楽フェスって、お目当てのアーティストさんはもちろんですけど、普段聴かない人たちに出会えるのが楽しみなんですよね。フェスきっかけで好きになったアーティストさん、たくさんいます!
ですよね。あとは単純に外で映画が観たかった(笑)。20年ぐらい前は日本でも野外で映画を観る文化が普通にあったようです。最近の野外映画祭は、別の意味を持って復活してきているようで、「体験」が重要視されていますね。
野外にはこだわらない 大切なのは「映画体験」
――確かに最近の野外映画祭は、ただ映画を上映するっていうよりも、イベント感がありますよね。
「森の映画祭」でも大切にしているのは「映画体験」なんです。その中でも[1]拡張[2]文脈[3]共有の3点を大切にしています。
[1]拡張
7月に橋の上で開催する「空の上映会」では、綱渡りの作品である『ザ・ウォーク』を上映するんですが、そういう「拡張性」、スクリーン以外の部分に「体験」としての付加価値をつけることを大事にしていますね。
空の上映会 会場の三島スカイウォーク
だから正直、上映場所は「野外」にはこだわっていなくて、洞窟が印象的な映画だったら会場を洞窟にしてもいいだろうし、その映画に合った場所を選びたいと思っています。
[2]文脈
――なるほど。たとえば電車のシーンが多い映画なら電車の中で上映するのもアリってことですね?
アリだと思います。また、森の映画祭では森の中に色んなカテゴリーでステージを作ることで「文脈」を作っています。
会場内に施された装飾 2016年
去年佐久島で開催した映画祭では、島に行くための船乗り場でパンフレットを渡したんです。
2017年パンフレット
これはパンフレット内の、「追いかけるように海に出た」から始まる部分に対応していて、ストーリーに自分を重ねてもらうのが狙いでした。
[3]共有
――世界観も素敵ですが、「オールナイト上映」というのも非日常的で素敵ですよね。
「大切な人と行きたいオールナイトイベント」を目指せたらなって思っています。
――ああああ、それ、めっちゃいいです……!
オールナイトイベントってクラブとか他にも色々あるけど、誘いづらいじゃないですか。でも映画なら誘いやすいかなって。実際、映画祭に来る方はカップルや女性同士で来る方が多いんです。“誰と見るか”という場の共有を感じてほしいです。
「集まった人たちで何が出来るか」 “能力”よりも“共感”で集めるチームの作り方
――すごくこだわって作られていることが伝わってきました。運営はどのように行っているんですか?
まずは「コンセプト」と「場所」から決めます。今年は「交差」がテーマなんですけど、ここ数年可愛らしい感じだったので今年はカッコよくしたかったんです。そこから場所探しをして、「サーキットってなんか人生っぽいな」と思って会場をサーキットにしました。一方通行だし、なんか速くて、点で見ると刹那的だし。
2018年会場 栃木県 ツインリンクもてぎ
――コンセプトは運営メンバーのみなさんで決めているんですか?
根幹のコンセプト部分については絶対にやらないようにしています。まず全員の意見を聞いていたらまとまらないので。
うちのスタッフはちょっと特殊な仕組みで、イベント終了から2週間ほどで完全に解散するんです。「仕切り直すこと」 を大切にしているので、会場からコンセプト、イベントも一回立て直します。
――なるほど。しかしイベントは同じメンバーで運営したほうが効率的だと思うのですが……?
確かにそうなんですが、毎回をプロジェクトベースで完結させて解散することで、新規の人も参加もしやすかったりするのでこの手法を取っています。
今、メインで一緒に動いているメンバーが4人いるのですが、その4人と一緒に会場やコンセプトを決めて、ある程度サイトも出来た段階でスタッフを募ります。 その時のコンプトに共感してくれたメンバーに集まってほしいので、この順番は守っています。能力とかはこの段階では考えることはなくて、“集まったメンバーで何が出来るか”を考えていますね。
「楽しむ順番を大切に」チームビルディングの大切さ
――でもそれだとやはり能力の偏りなども起きるし、イベントを開催するのは大変だと思うのですが……。
極力自分やらコアメンバーで補ったりしています。また、事前に「現地下見」という名の遠足も行って、チームビルディングもしています。スタッフが楽しんでくれれば、その気持ちは次にお客さんに対して出ると思うので、まずはスタッフに楽しんでもらう、この順番も大切にしていますね。
――確かにイベント自体の雰囲気ももちろんですが、会場のスタッフさんの対応や雰囲気も非常に大切ですよね。お客さんにはどんな風に楽しんで欲しいですか?
毎回舞台を変えているので、そこを楽しんでくれるファンが増えるといいですね。大体3連休で開催するので、映画祭の後にそのまま旅行をしたり、「映画祭が開催される場所を楽しもう」っていう方が増えたりしたら嬉しいなって思っています。
「宇宙でゼログラビティを」 野外映画フェスが目指す先
――最後に今後の展望を教えてください。
宇宙で『ゼログラビティ』が観たいですね。
――それは夢がありますね(笑)。
でも正直、もうありえない時代でもないじゃないですか。だからこれぐらいの目標を持っていた方がいいなって。
あとは文化としてしっかり確立していきたいです。自主映画の監督さんから、「こんなに一般の人に映画を観てもらえるイベントは他にないから、これからも続けてほしい」と熱いメッセージをいただくことも多くて、価値のある場を作れているなと感じています。これは業界に対するミッションだと思っているんですが、これをきっかけにインディーズ映画の知見がカルチャーとして広がってほしいですね。
世界観を支える裏側の想い
ふわふわキラキラとしたイベントの裏側には、インディーズ映画に対する熱い思い、独自のチームビルディングによるスタッフ連携、徹底的な世界観へのこだわり、そしてサトウさん自身の壮大な夢が存在していました。
7月14日(土)~7月16日(月)には「夜空と交差する空の上映会」 、10月6日(土)には「夜空と交差する森の映画祭2018」が開催予定。
普段は出会えない映画を見つけに行くもよし、友人との旅行の一環にするもよし、気になるあの人を誘う口実にするもよし……。
「拡張」「文脈」「共有」から生まれた「映画体験」、今年は一体どんな世界が広がり、どんな体験が出来るのか……。
新たな出会いを探しに、今年も夜空と交差する森へと足を運びたいと思います。
(文:田中七海)
『夜空と交差する空の上映会』
2018年7月14日(土)~16日(月)
静岡県 三島スカイウォーク内特別会場
『夜空と交差する森の映画祭2018』
2018年10月6日(土)
栃木県 ツインリンクもてぎ