GINZA 2014年6月号の誌上『Olive』復活ページが話題になった。
『Olive』はマガジンハウスから1982年に創刊された雑誌。当初は男性誌『POPEYE』の姉妹誌で女子大生向けという位置づけだったが、翌年独 立。リセエンヌのファッション、フランス映画や文学、渋谷系の音楽、ヨーロッパの雑貨やカフェ文化など、ライフスタイル全般に独自の価値観を提示し、10 代の少女を中心とした読者がそれを支持。彼女たちは『Olive少女』と呼ばれた。その後、2000年に休刊。リニューアルし復刊されるが、2003年に 再び休刊する。
写真はマガジンハウス刊『GINZA』2014年6月号より
その『Olive』がGINZA6月号の中で特集されていたのだ。当時、スタイリストとして世界観を築いてきた大森伃佑子氏の、2014年版『Olive』を表現したスタイリング、おなじみ「のんちゃんジャーナル」のイラスト、バックナンバーを並べたページ・・・。復活ページに沸いているのは、当時熱心に愛読していた『元Olive少女』たちだ。
だいたい30代から40代。あの頃、ドキドキしながらページを繰った彼女たちは声を揃えて「強い影響を受けた」「青春そのものだった」と話す。
当時のOlive少女たちはどこへ行き、今何をしているのだろうか。
そこで筆者は、30〜40代の女性50人(職種問わず)にアンケートを実施。50人という限られた母数ではあるが、8人の自称・熱狂的な『元Olive少女』たちが熱い回答をくれた。彼女たちは、「あなたは元Olive少女ですか?」という問いに対し、YESに丸をつけた人たちだ。
様々な業種(主婦など無職も含む)の方に回答をお願いしたにも関わらず、雑誌にまつわる仕事に就いた人が比較的多かった。(8人中5人が雑誌・書籍関連、3人は主婦と会社員)
川村友子さんは現在37歳。フルーツヘアメイク企画が印象的だったという彼女は、現在女性誌で活躍するヘアメイクである。
「岡尾美代子さん、カジヒデキさんなどに注目していました。市川実和子&市川実日子姉妹にも憧れましたね。現在は、&Premium、ku:nel、KINFOLKを読んでいます。基本的に、好みは変わっていないです」
よく行くお店はこだわりや温もりを感じるDOWN THE STAIRSやMAKERS COFFEE、ファッションなら当時から今までA.P.C.が好きで、他にはSuper A marketやAcneに行くという。
とは言え、最近ハマっていることは、玄米・日本酒・お蕎麦というから、Olive少女もやはり大人になったのである。
その他に雑誌関連の仕事をしている回答者は、フリーランスPRが2名。そのうちのひとり、栗田綾野さん(35歳)。出産したばかりだが、臨機応変に仕事を続けている。
「現在の愛読誌は、GINZA、クロワッサンあたり。好きだった『Olive』のページは男子校潜入企画(有名男子校の学食などを訪ねてかっこいい子をスナップする企画! 公立共学だったため、有名私立の男子が洗練されて見えました)。実は、私だってオリーブモデルという企画に応募したご縁で、その後Oliveのタイアップページに出演。それをきっかけに雑誌の世界に憧れを抱くようになり、雑誌に近いアタッシェ・ド・プレスになったんです」
『Olive』は、お金も情報もあまりなかったティーンの自分が、“おしゃれ”や“都会”とつながるどこでもドアみたいな存在だったという彼女。
「お金をためてエルベシャプリエのバッグを買ったり、セントジェームスのボーダーTを買ったり。お休みには、キャットストリートをOlive片手にうろうろした」そうで、現在は、同世代のライターやエディターといった業界仲間と“Olive会”を開催しているそうだ。
「ボーダーTを来て、ビストロでOliveについて熱く語る会です(笑)。不定期開催ですが、今でもかなり盛り上がっていますよ」
その会の仲間である神下敬子さん(41歳)はフリーランスのライターで1児の母。
「ひなのちゃんの目に星形のキャッチライトが入っていた表紙が忘れられません。現在もライターとして雑誌などメディアに携わっていますが、影響を受けた人は周りにたくさんいます」
その他、書店員の石田祥子さん(42歳)は現在、天然生活や&Premium、Brutusを愛読。代官山蔦屋書店、SALON adam et ropeが行きつけという。
(ちなみに、回答者はファッションの嗜好で2つに分かれた。1つはモードなスタイルを支持している人。オーガニックなど、ビューティやライフスタイルのトレンドにも関心が高い。もう1つはいわゆる赤文字系に転向し、コンサバティブなスタイルの人。森ガールっぽいファッションが多いのではないかと予想していたので意外だった。雑貨やインテリア、料理、アートなど幅広くこだわりがあるのは共通し、揃ってOlive愛読の影響を感じると回答した)
彼女たちは『Olive』に没頭したがために、雑貨、音楽、映画などにのめりこみ、とにかくマニアックになったという。それは今で言う「こじらせ」に近い状態で、モテとは無縁だった。しかし、自分の核はこの時代に出来たと回答する人が多かった。
しかし、リニューアルや休刊によって彼女たちは教科書を失い、行き場も失った。「Oliveっぽい雑誌を期待して、長いこと、雑誌ジプシーをしていました」(川村さん)
アンケートを見ると、筆者も含め、今、現役で雑誌をつくっている人は、ちょうどOlive少女世代なのだと実感する。最近創刊された雑誌はファッションだけでなくライフスタイル、カルチャーまで独自の価値観でキュレートしたものが多いが『Olive』の影響は少なからずあるのではなかろうか。
今回のアンケートの回答の中で、現在の愛読誌として目立った雑誌があった。それは、『&Premium』(マガジンハウス刊・クロワッサンPremiumより2014年1月リニューアル創刊)だ。
実は、この『&Premium』でExecutive Directorを務める柴田隆寛氏は、元Olive少年だったと言うのだ。
「中学生の頃、いわゆる思春期ですね。自我の芽生えとともにファッションに目覚め『POPEYE』を愛読するように。その流れで対の存在であった『Olive』を読めば、ちょっとは女の子の心理が分かるようになるかもという、ヨコシマなキモチでページをめくったのが最初の出会いだったような気が。ニキビ顔の冴えないホールデン・コールフィールドのような少年時代の僕にとって、例えるなら『チープシック』を地でいく押しつけがましくないスタイル提案や、『WHOLE EARTH CATALOG』的なDIYマインドが色濃く反映された誌面は、あまりに衝撃的でした」
見てくれのオシャレは『POPEYE』から教わり、内面を磨くこと、生活を豊かにする方法論は『Olive』から教わったという柴田氏。この2誌がなかったら、「編集者になりたい!」とは思わなかったと振り返る。
現在は、当時の『Olive』を作っていた諸先輩方と仕事しているという柴田氏。
「エディターやスタイリストと言った、『Olive』で活躍されてきた先輩方は、衣食住そのものをファッション(=生活)として捉えている方が多いと思います。もちろん、当時の手法でいま『Olive』を作っても有効に機能しないということも分かっているから、ただノスタルジーに浸るのではなく、『Olive』で培った経験と感性を武器に、今の時代にフィットするステイトメントを携えたオリジナリティのある誌面を作ろう!とみんな奮闘しています」
一番刺激を受けたのは、彼らの不器用なほど丁寧で誠実な本作りに対する姿勢だという。
「ですから、いま自分が『& Premium』ですべきことは偉大な雑誌の亡霊に怯えたり、過去の成功事例をトレースすることでなく、今の読者に喜んでもらえて、記憶に残る雑誌を作ること。それが、編集者としての自分の礎を作ってくれた愛して止まない『Olive』への恩返しになるのかなと、思っています」
雑誌の勢いが失われたと言われる現在でも、Olive少女やOlive少年は、今も変わらず「センスよく、丁寧に暮らす」あの世界観を夢見ている。そしてやっぱり雑誌というメディアが大好きだと語る。
彼らが今度は作り手となり、伝説となる雑誌が生まれるのかもしれない。
(文:吉田瑞穂)