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実写映画公開直前!漫画『ピースオブケイク』を読んだら恋の無気力が吹き飛んだ

佐藤由紀奈

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佐藤由紀奈

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大人になるほどに、できるだけ楽な道を選ぶようになるものです。
無意識に身についた経験が、危険や無駄を事前に察知し、回避しようとするからでしょうか。
それでいうと、「恋」ほど危険で無駄なものはないかもしれません。

大人になった女性のリアリティを描く『ピース オブ ケイク』

そんなことを考えさせられるきっかけとなった作品が、「恋の烈しさを描き続ける」漫画家・ジョージ朝倉の『ピース オブ ケイク』(祥伝社)。2009年までに単行本全5巻が発売されており、今も20~30代の女性から大きな支持を集めています。
このたび実写映画化され、来る9月からは全国で公開。(多部未華子・綾野剛主演)。これを機に、久しぶりに原作を読み返してみました。

24歳の主人公・志乃は、自分の性格を「ガンコなくせに主体性がない」と評すほど、とにかく「だらしない女」。大して好きでもない男に言い寄られ、断ることもできずにズルズルと付き合い続ける無気力な日々。そんな自分でいいとは思っていないけれど、半ば諦めてしまってもいる……。

いつの間にか烈しい恋なんてできなくなった大人たち

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この作品を初めて読んだ10代の頃。志乃のだらしなさが妙に大人っぽく感じられ、憧れすら抱いていました。
しかしいつの間にか志乃の年齢を超え、アラサーと呼ばれるようになった今。気づかされたのは、自分もいつの間にか志乃のように「簡単にやり過ごす生き方」が染みついていたこと。そしてそんな生き方に疑問を感じなくなっていたこと。恋とか愛とか、思い焦がれることなど、そうなくなっていること……。

そんな志乃も、引っ越し先で偶然出会ったレンタルビデオ屋の店長・京志郎に烈しい恋をします。初めて会った時から彼の笑顔に惹かれ、次第に、自分でも気持ち悪いと思うほどに好きになってしまうのです。

「おかしいです どうかしてますっ」
「すっごい好きーっ」
「世界中の人に言って回りたい位ですーっ」
「こんな風に思えんの 初めてなんですっ」

志乃が泣き叫びながら京志郎を追いかけ回すこのシーンは、作品のテーマそのものというほどに印象的。
一見、ただの痛い女に思えるかもしれません。でもこんな風に「好き」という感情を、ただ欲望のままに表現する……それって、なんて難しいことでしょう。
子どものような剥きだしの感情を、人に見せるのは恥ずかしいと思ってしまう。それを上手く隠すのが「大人になること」とされているけれど、それって単に逃げるのが上手くなっただけなのでは?

わたしにはこのシーン。逃げ癖がついて退屈な大人になった志乃が、恋の力によって、傷つくことを恐れないファイターになった瞬間に思えるのです。
みっともない。痛々しい。そんなことは自分でわかっているけれど、それでもただ「好き」だと叫びたいだけ!
それはとてもシンプルで、淀みなく美しい感情なのではないでしょうか。

恋をすることは、みっともなくて、だけど美しい!

作品名『ピース オブ ケイク』とは、和訳すると「たやすいこと」という意味。
若い頃は、恋をすることなんて当たり前なくらいお茶の子さいさいだったのに、なんとも難しくなってしまったものです。他のことは、簡単なことが増えていくのに……。

傷つかないように生きてしまいがちな大人の女性に、どうしようもないリアリティを突き付けながらも、恋の痛みと美しさを思い出させてくれる。そんな作品です。

(文:佐藤由紀奈)

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