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女子会撲滅コミック『東京タラレバ娘』を読んで不安になったアラサー女の苦悩

佐藤由紀奈

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佐藤由紀奈

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「いや、あんたらの歳だとチャンスがピンチなんだよ」

これは8月12日に発売された漫画『東京タラレバ娘』(東村アキコ作・講談社)3巻の中で、わたしが最も衝撃的だったシーン。33歳・崖っぷちの主人公に、年下のイケメンから突如向けられた、まるで後ろから鈍器で殴られたような衝撃的なこの言葉。この作品を読んだ多くの独身アラサー女性は、膝から崩れ落ちるような気持ちに襲われたことでしょう……。

痛すぎて笑えない……!独身女性のリアルホラー漫画

『東京タラレバ娘』は、倫子・香・小雪の3人の“女子会”を中心に、30代独身女性の苦悩や生き方を描いた作品。これまで自分なりに精一杯生きてきたはずなのに、仕事も恋愛も順調とは言えない現状。次に打つ手すらわからず、「もし○○して“たら”」「わたしだって○○でき“れば”」……と、生産性のない“タラレバ話”を肴に、男のいない席でベロベロになるまで呑んだくれる日々。

作者の東村アキコさんといえば、日常生活の中でのリアルな心理や情景を劇画調に描くことで人気の漫画家。これまでの作品においては、その表現が痛快なギャグとして受け入れられることが多かったわけですが……この作品については、まったく笑えない! セリフの1つ1つが殺傷能力の高いナイフのように思えます。
筆者を含め、独身のアラサー女性にとって、もはやこれは、ホラー漫画です。

幸せの種類がありすぎて、どうしていいかわからない

この作品を読むと「このまま幸せになれなかったらどうしよう……」という漠然とした不安に襲われます。

そもそも30代女性にとっての“幸せ”とは何なのでしょうか。
現代において“幸せ”の選択肢は多様になり、どれも間違いではなくなりました。
でもだからこそ、わかりにくい。どんな形であっても世の中的には“正解”と言われると、逆に、“わたしにとっての”正解がわからなくなってしまいそうです。
「自分は幸せな道を歩んでいる!」なんて断言できる人が、どれほどいるというのでしょうか。

「男に愛されること」から逃げてはいけない

「女の幸せは結婚」なんて考えは古いと思っていましたが、この漫画を読んで、その考えが少し変わりました。“仕事”や“趣味”に幸せを見出す人もいます。でもそれらに比べて、“恋愛”や“結婚”は、“わかりやすい幸せ”なのです。周りも、それを認めやすい。
30代の独身女性のつらいところは、「他のことで幸せだということを、“周り”に認めてもらいにくい」というところではないでしょうか。“他のこと”の評価軸なんてものは曖昧で、「あなたは幸せね!」なんて、言い切ってくれる人もそういないのが現実。

その点、「1人の男性と愛し合うこと」というのは、自分にとっても周りにとっても、なんてわかりやすい幸せの判断軸なのでしょう。
この物語のように“女子会”のぬるま湯に浸かっていた女性にとってはつらい現実かもしれません。ですが“幸せ”を“実感”したいのであれば、「男に愛されること」から逃げてはいけない。避けては通れない道なのです。

「幸せになれないってことは、死ぬのと同じ」

「女子会やっていれば幸せ」。
その楽しさはよくわかります。女子会の中身は、かいつまんで言えば「わたし達はこれだけ頑張っているのだから、きっと幸せになれるはず!」という、盲目的な自己肯定がほとんどです。そしてそれは皮肉なことに、頑張っている女性であれば、なおさら。

でもそれだけでは、いつか「これって本当に幸せなの?」という疑問にぶち当たってしまうかもしれません。自分が「幸せだ」という確固たる自信が欲しければ、「男性から愛されること」から目を背けてはいけないのです……。
「女性に肯定される女」ではなく、「男性に肯定される女」にならなくてはいけないのです!

そして最後に、この巻でもうひとつ印象的だったセリフがこちら。
「幸せになれないってことは 私達にとって 死ぬのと同じ」

そう。女子会ばっかりやっていないで、男のいる戦場へ出る。そして絶対に、結果を残さなくてはいけない。だってわたし達はもう、チャンスはピンチの歳なのですから。失敗は、許されない……! でなければ、死ぬのと同じ!
『東京タラレバ娘』は、“タラレバ”言って、自分の状況を受け入れてこなかった女性達に、メラメラとした闘争心と覚悟の炎を灯してくれる漫画なのです。たとえその炎の周辺にナイフがあろうとも。グサグサと突き刺さるような痛みを伴ってでも……。

(文:佐藤由紀奈)

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