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今の10代はBUMP OF CHICKENを聴かない?ゆとり世代の世紀末思想も終焉か

佐藤由紀奈

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佐藤由紀奈

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“世紀の中二病バンド「BUMP OF CHICKEN」が紅白初出場”

こんな見出しをネットで見かけました。
そしてわたしは『天体観測』が発売された当時14歳の頃を思い出し、未だ癒えない中二病の古傷がズクズクと疼くのを感じているのです……。ああ、痛い!

今こそ中二病的に「バンプ」を語りたい!

先日発表された「第66回NHK紅白歌合戦」の出演者の中でも、一際話題を集めたBUMP OF CHICKEN。
メジャーデビューから約15年間、ロックシーンを代表するバンドでありながら、これまでほとんど地上波のテレビ番組には出演してこなかったBUMP OF CHICKEN。

今回の紅白出演のニュースには、青春時代にバンプの曲を少しくらいは耳にしたであろうアラサー世代ならば、「おっ」と思ったのではないでしょうか。

14歳で『天体観測』を聴いた世代が28歳になった

筆者は現在28歳。かの名曲『天体観測』が発売された2001年当時は14歳でした。
つまりもう、それはそれは……リアルに“中二病”を患っていたのです
ちなみに、“中二病”という言葉が世の中に浸透しだしたのもその頃から。ブレイクのタイミングといい、詩的な歌詞といい、バンプは“中二病バンドの代表格”のように言われることが多いようです。

14歳の頃に『天体観測』を聴き、午前二時、フミキリに望遠鏡を担いで行ってみたかったわたしも、いつの間にかダブルスコアの28歳になっておりました。

えっ!
(これは文章にしてみると、なかなかズッシリ来る事実……)

いや、しかし。大人になった今だからこそ! あらためて、BUMP OF CHICKENというバンドの存在を振り返ってみたいと思うのです。

バンプはずっと、「弱い僕ら」の味方だった

以前、音楽業界に勤める知人が「バンプは本当にモンスターバンドだ」といったようなことを話していました。
何が“モンスター”かというと、「ファン層がずっと10代中心」だからとのこと。

一般的に、どんなに人気なバンドでも、ファンの年齢層は時と共に上がっていくものです。常に新規の10代ファンを取り込むというのは、狙っても、なかなかできるものではありません。もちろん、アーティスト自身も年をとるわけで、音楽自体も変化していくことが多いわけです。

しかしバンプは15年以上もの間、“10代”をターゲットにした音楽を提供し続け、そして事実、その時代の“10代”の心を掴んできました。
その音楽はずっと10代……もとい、“弱い僕ら”の味方だったのです。

今の10代はバンプを聴かなくなってきている?

ところがそんな10代に異変が起こったようなのです。

というのも、『オリ☆スタ』が毎年行っている『音楽ファン2万人が選ぶ好きなアーティストランキング』の10代部門TOP10に、今年はバンプの名前がなかったから。2010年から2014年までは、連続でTOP10入りしていたのに!

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どういうこと? バンプの人気が落ちてきているの?

いや、決してそうではないのです。なぜなら同ランキングの総合部門を見ると、2013年まではTOP10入りしていなかったのが、2014年は8位、2015年は9位と、むしろジャンプアップしているのです!

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つまりバンプの全体的な人気は上がっているけれど、10代からの支持に変化が表れている、ということ。バンプの音楽は相変わらず“弱い僕らの味方”でいてくれているのに、なぜこのような変化が起こったのでしょう?

ゼロ年代生まれは、弱さを肯定する必要がない世代?

バンプの歌詞に多いのは、“弱くてダメな自分”をそのまま慰めてくれるような歌詞。「頑張れ」とも言わず、ただ「泣いてもいいんだよ」というスタイル。“何者にもなれない虚無感”を抱えた若者たちは、そうやって肯定されることで癒やされてきたはずです。

しかしその考え方は、今の10代はあまり持ち合せていないのかもしれません。

「世紀末生まれ」と「ゼロ年代生まれ」

評論家・宇野常寛氏の著書『ゼロ年代の想像力』(早川書房)によると、1990年代後半と2001年以降の“ゼロ年代”とでは、想像力の質が違うのだと言います。

前者はまさしく“世紀末”で、社会情勢的にも、“お先真っ暗な時代”。生きる意味や価値を見出すことが難しく、“引きこもり的な想像力”になる。だからこそ『新世紀エヴァンゲリオン』があれほどヒットしたのではないか、というのです。

「エヴァ」に乗ることを拒否して、その内面に引きこもり、社会的自己実現ではなく、自己像を無条件に承認してくれる存在を求めるようになる。(同書より引用)

対して後者の世代は“決断主義的な想像力”だと書かれています。ゼロ年代以降は、「引きこもっていては生き残れない」という感覚が社会に広がってきたというのです。

そう、この時期から社会が「何もしてくれない」ことは徐々に当たり前のこと、前提として受け入れられるようになり、その前提の上でどう生きていくのかという問題に物語の想像力は傾き始めたのだ。(同書より引用)

宇野氏の説をバンプの歌詞に当てはめてみると、彼らは“世紀末生まれ”の想像力を持っていると言えます。引きこもりがちで、弱い自分を肯定したがっている。

バンプがブレイクしたのはゼロ年代以降だけれど、その頃の“中二”たちは、子どもの頃を世紀末の世界で過ごした世代です。
今となってはバカらしいですが、ノストラダムスの予言に本気で怯えていたし、2000年の1月1日なんて来ないんじゃないかとすら思っていました。

いやもう本当、あの「抵抗しても無駄」な感じ、なんだったんでしょう……。
でもだからこそ、明るい未来を語る音楽よりも、今の自分を受け入れてくれる音楽に、心を掴まれたように思います。

しかし“ゼロ年代生まれ”は、世紀末の絶望感を知らない。
2015年。今の14歳たちは2001年生まれです。

……って、ガチ21世紀生まれじゃないですか!!

これはやはり、“想像力の世代交代”が起こり始めている気がしてなりません。

それでもやっぱり、バンプの音楽に慰められたい

でも、やっぱりバンプには変わらずに「弱い僕らを肯定する歌」を発信し続けてほしい。

だって世紀末に生まれたわたしは、28歳になった今でも大して強くなれていないのです。
10代の時くらい、とびきり弱くいさせてくれよっていうのが本音です。そんな弱さも肯定してほしい……というのは、やっぱり世紀末的考えでしょうか。

とりあえず古傷が疼いてしまったからには、今年の大晦日。わたしは紅白でバンプを観た後、新年を迎えた午前二時、フミキリに望遠鏡を担いで行ってしまうのでしょう。

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結局、大人になっても望遠鏡なんて持ってないしなあ。

(文・イラスト:佐藤由紀奈)

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