今春4月にAKB48グループ及びキャプテンを務めるNGT48を卒業し、女優業を本格始動させる北原里英。ちょうどグループ入りから10周年を迎えての卒業となる。
そんなタイミングでこの2月より公開(2月9日(金)新潟・長岡先行公開/2月17日(土)より全国公開)となるのが、北原にとって卒業発表後、初の主演映画となる映画『サニー/32』。
『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』などで知られる白石和彌が監督を務め、ピエール瀧とリリー・フランキーの“凶悪”コンビに門脇麦らが脇を固める。
“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では、前回の島崎遥香さんに続いて、2人目となるAKB48グループメンバーへのインタビューをおこなった。
『サニー/32』の話はもちろん、10年におよぶAKB48生活を経て感じたグループの変化や、彼女ならではの“1番を目指さない”の生き方など、示唆に富んだ話を聞くことができた。
映画が後押ししてくれた2つの大きな決断
――企画が発表されてから、スケジュールの都合などで3年ほど時間が空いて、このタイミングでの公開になったと伺いました。
「全てが結果オーライというか、まるで卒業に合わせたかのように偶然このタイミングとなりまして(笑)」
――素晴らしいタイミングですね。逆にこの3年間、この映画の存在が、北原さんのAKB48での活動に影響を与えたりもしたんでしょうか?
「NGT48への移籍と、AKB48グループの卒業という2つの大きな決断をこの映画が後押ししてくれた感じですね。『この映画をもって、AKB48グループを卒業しよう』と思えたので、この10周年のタイミングはベストだと思います」
NGT48の経験が活きた教師役
――この2年間の経験が演技に影響を与えた部分はありましたか?
「今回、教師の役なのですが、NGT48では、ほぼ教師のような役割なんですよね(笑)。10コくらい離れているコたちとコミュニケーションをとっていると、言いたいことが全く伝わらないこともありますし、打っても響かないこともあります。それでも、母性を感じますし、このコたちを救いたい、と心から思います。そういった部分が、今振り返るととても重なっていたと思います。前半、蒼波純ちゃん演じる生徒に、私の言葉が全く響かない部分は特にそうですね。白石監督に『特に役作りせずに、北原さんそのままで大丈夫です』と言われたのはそういう意味もあったのかなと思います」
アイドル映画が想像できなかった
――監督は『凶悪』をはじめヒットを飛ばす白石和彌監督です。ご一緒することになっていかがでしたか?
「『牝猫たち』も『日本で一番悪い奴ら』も白石監督の作品は全部面白いですし、今とても勢いのある監督さんなので、その勢いを止めないようにしようと思いました。嬉しい気持ちとともに、ほんのすこし不安というのが最初の印象です」
――日活ロマンポルノ『牝猫たち』まで……!白石作品がお好きなんですね。
「ええ、だから白石監督が『アイドル映画を撮りたい』とおっしゃって、完成した作品を観たら完全に“白石監督のアイドル映画”になっていて。こういう形もあるのだな、と感心しました」
――たしかに『サニー/32』は、“白石監督のアイドル映画”ですね。
「ネットの世界では誰でも有名になれる可能性があるという描写は現代社会に沿った話ですし、きちんとその闇の部分も描かれている。『日本で一番悪い奴ら』もそうでしたが、暗く重いテーマを扱いつつも、それだけにならずにきちんとエンターテインメントに仕上げるのは、さすが白石監督だな、と思いました」
瀧&リリーに感じた“映画の感覚”
――撮影現場ではいかがでしたか。
「現場に入ると、周りのスタッフさんやキャストさんが、私を映画の世界に連れていってくれたような感覚を覚えました。やっぱり、ピエール瀧さんとリリー・フランキーさんのお二人がいらっしゃると、ものすごく“映画の感覚”がするんですよね」
――お二人とはどんなコミュニケーションをされてたんでしょうか。
「新潟でのロケは周りに何も娯楽がなくて、空き時間は密にコミュニケーションできました。しりとりをしたり、白石監督のあだ名をつけようという話になったり。リリーさんは『サディスティックハムスター』とあだ名をつけていました。確かに、ハムスターのような可愛らしい見た目なのに、撮影では極限まで追い込むんですよね(笑)。雪の中を薄着で走るシーンは、人生で初めて寒さがつらくて涙が出てくるほどで……本当に遭難した気分でした」
――AKB48グループは卒業生でも、女優として活躍されている方が多くいらっしゃいます。意識されることはありますか?
「昔のほうが意識していましたね。もともと私は女優になりたくて夢へのきっかけになれればと思いAKB48に入ったので、加入当時から卒業後が勝負だと思ってやってきました。
だから、卒業しても女優として活躍している人のことはすごく意識してきました。でも最近は、自分は新潟に行ったり、AKB48の中でも他のメンバーが経験できない道を歩んできたという自負がでてきて。他の人と違う道を歩んできた自分は、この先も人と違って当然だ、とある意味で他のメンバーの活躍も素直に見られるようになりました。いち視聴者として素直に応援できる感じです」
――逆に、今回の『サニー/32』を観て、他のメンバーに刺激を受けて欲しい、みたいな願望はあるんでしょうか?
「実はそんなにありません。強いて言うなら、峯岸みなみちゃんと仲のいいリリーさんはよく『本当は北原のサニー、うらやましいんでしょ?』なんて煽っているようなので(笑)、同世代のメンバーの反応は気になりますね」
2番を目指して生きていく
――たしかに他のAKB48 メンバーにも、うらやましがられるかもしれない映画単独主演ですね。実際に経験してみていかがでしたか?
「実は私はAKB48でいうセンター願望のあまりないタイプで。女優としても、脇役として輝く女優になりたいとずっと思っていました。ただ、今回主演をやってみて、主演というのは、こんなにも周りに助けていただくものか、と実感して、学ばせていただきました。逆に私は、脇役がこんなにも助ける側であるということを実感せずに、曖昧に考えてしまっていたなあ、と今後の活動を考える上でも、とても気が引き締まりました」
――センター願望がなかったというのは意外でした。
「1番を目指せない複雑な性格で(笑)。自分に持っていないものはどう頑張っても持てないじゃないですか。それなら、持っているものを伸ばすしかない。小学校3・4年生の頃から、ドラマや芸人さんのネタを再現するのが好きな私は、女優が生きる道なのだと思って生きてきて。好きなことを仕事にしたいという意識は強いものの、同時に、現実主義で客観的に『私が行ける位置は、どう頑張っても2番だ』とも思ったんです。これからも2番を目指して頑張っていきたいです」
優しさを抱えて、生きていく
――1番を目指さない生き方、とても響きました。チェリーの読者にも多いと思うので、最後にそういう人たちが幸せに生きていくためのメッセージをお願いします。
「きっと、1番を目指せない人は意外といらっしゃると思うんです。私は自分に誇れるものが何もないと思って生きてきましたが、この10年を振り返って、唯一誇ってもいいかなと思えることがあります。それは、AKB48という競争社会の中で、愛をもって生きてこられたこと。僻まずに優しく接してこられたこと。『自分の持っているものを伸ばす』という意識になれば、自分にないものを持っている人に、変な劣等感を抱くこともなく、優しく生きられると思うんです。だから、私も優しさを抱えて生きていきたいですし、チェリーの皆さんにも常に、優しさを持って、楽しく生きていって欲しいです」
(取材・文:霜田明寛)
(photo:yoichi onoda)
映画『サニー/32』
北原里英
ピエール瀧 ・ 門脇 麦 ・ リリー・フランキー駿河太郎 音尾琢真(特別出演)
山崎銀之丞 カトウ シンスケ 奥村佳恵 大津尋葵 加部亜門 松永拓野 蔵下穂波 蒼波 純監督:白石和彌企画・製作幹事:日活 製作:日活・東映ビデオ・ポニーキャニオン 制作プロダクション:オフィス・シロウズ 配給:日活
協力:新潟県フィルム・コミッション協議会 ・ 長岡フィルムコミッション Ⓒ2018『サニー/32』製作委員会 PG12