『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『何者』などで知られ、映画『愛の渦』では門脇麦さんを主演に抜擢し、一躍スターダムにのしあげた三浦大輔監督。
最新作は、石田衣良の小説が原作となる『娼年』。主人公のリョウが“娼夫”となって多くの女性と邂逅を重ねる物語だ。リョウを演じる松坂桃李さんの演技も素晴らしいが、一方で、リョウに次々と対峙する女優たちの心と体を解放した演技も必見。
そこで“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”では三浦大輔監督のインタビューとあわせて、『娼年』で大きく印象を残した女優3名の鼎談を実施。
登場してもらったのは、耳が聞こえない女性・咲良を演じた冨手麻妙さん、リョウに恋する女子大生・恵を演じた桜井ユキさん、リョウの最初の客となる女性・ヒロミを演じた大谷麻衣さん。
チェリーにもそれぞれ、3回目、2回目の登場となり、園子温監督『リアル鬼ごっこ』などで共演経験もある桜井ユキさんと冨手麻妙さん。そして、今回が大規模な作品への出演は初めてとなり、女優として大きく躍進を遂げた大谷麻衣さん。3人全員がオーディションで選ばれたという。そこで、選ばれるまでの経緯や、濡れ場への対峙の仕方、そして性愛には不得手なチェリー読者へのアドバイスなどを伺った。
桜井ユキ・ピュアな女子大生役は意外な配役!?
――お三方の実際の年齢やキャラクターと、演じられた役のそれがバラバラすぎて少し困惑しています(笑)。
桜井「実際の年齢は私が1番上で……」
大谷「その次が私、一番若いのが冨手さんですね」
冨手「私が演じた咲良が1番若いというのだけは、実際と一緒です」
――見る前は、桜井さんと冨手さんは逆の配役だと思っていました。でも実際に見たら、桜井さんがピュアな女子大生を見事に……。
桜井「ええっ!? 失礼な(笑)。桜井にピュアな役はかけ離れすぎているだろう、ということですねっ!?」
――す、すみません! これまでのインタビューから、色々なものを見てこられて人生を重ねられてきた方、というイメージが(笑)。
冨手「たしかに、今までの作品を見てきた方たちからしたら、私もユキちゃんも意外な配役かもしれませんね。それぞれ、これまでのイメージと全然違う役ですし」
――そして、作品の中での年齢の設定は最も上で、色気もあってリョウを翻弄する大人の女性・ヒロミを演じた大谷さんが実際は20代というのもビックリです。
大谷「ヒロミさんは、ちょっと種を蒔いて、思わせぶりな感じでサラッと帰ったりしますもんね。でも、私よりも歳は上ですが、あのヒロミさんの嗜好や性格は理解できる部分が多いんです」
――ええっ、まだ20代なのに、女性はいつから急にあんなにオトナになるんですか?
大谷「ええっ、いつからでしょう……。気づいたら、ですかねえ(笑)」
――ヒロミ同様、色気に満ちたご回答ありがとうございます! 桜井さんは、ああいった大人の駆け引きはわかる感じですか?
桜井「いやいや、私はもう、全然上手じゃないんで(笑)。駆け引きとかじゃなくて、バーっといっちゃうタイプですね」
大谷麻衣「この役を掴めなきゃ、役者人生が終わる」
――それにしてもスクリーンから、3人の役への思い入れの強さと気迫は伝わってきました。
冨手「私は実は、舞台版のオーディションを受けていて、落選してしまっているんです。オーディションを受けるタイミングで原作を読んだときから咲良がやりたかった。映画版でユキちゃんが演じた恵は健康的でスポーティーで脚も長くて……みたいな感じで、ちょっと私とは違いました。咲良はモチモチというか、ふんわりしたイメージなので私に近い(笑)。映画版のオーディションも、咲良をやりたいと思って受けにいったので、咲良を演じることができてよかったです」
――オーディションだったんですね! 大谷さんはどういう経緯で、ヒロミ役に選ばれたんでしょうか?
大谷「私は女優を始めて7年間くすぶってきた期間が長くて。この映画の前には、事務所にも入っていなかったので、オーディションを受けられたこと自体が奇跡のような感じなんです。だから『この役を掴めなきゃ、役者人生が終わるぞ』っていう気持ちで臨みました。オーディションが始まってから、決まるまでの1週間は、不安でどんどんゲッソリしていったようで、周りの俳優仲間に心配されました(笑)」
――じゃあ、実際決まったときは、相当嬉しかったんじゃないですか?
大谷「まずは1次のオーディションのあとに、電話がきた段階で、ヒザの下からワーッと熱が上がってくるような感覚を覚えました。そのときはマネージャーさんもいないので、直接私の携帯に連絡がくるんですが、ずーっと電話を待っていて。鳴った瞬間に、直感ですけど、いい方向にいっていることがわかるんですよね」
――なんだか就職活動みたいですね(笑)。
大谷「ええ、就職活動みたいに緊張して待ってました。その電話で『次は脱いでもらいますけど大丈夫ですか? ヒロミ役としては大谷さんしか呼んでいません』って言われて。それで、最終オーディションで演技をして、その場でヒロミ役の決定を言い渡されたときは、その場で泣いてしまいました。 “誰かに選んでもらえた”という感覚が、この7年間をチャラにしても余りあるような歓喜の瞬間でした。三浦監督にも『これで売れてくださいね』と言っていただけて、『娼年』は私の役者人生どころか人生をも大きく変えてくれた作品です」
冨手麻妙「三浦監督にいじめられた」
――三浦さん、優しい言葉ですね。
冨手「私は最初、三浦さんのことが怖くて……」
桜井「ああ、そのとき電話してくれたよね。『私、いじめられた』って言ってた気がする(笑)」
冨手「『何者』のオーディションのときのことなんですけど。ワークショップ形式のオーディションだったので、他の役者さんたちもたくさんいる中で『冨手さんは思ったほど魅力がないですね』って言われてしまって。その場にいた全員が『こいつ、落ちたな』って思ったハズなんですよね」
――あれ、でも『何者』にも出演されてましたよね?
冨手「ええ、『何者』でもワンシーン呼んでいただいて。だから、今思えば、三浦さんなりの愛情表現だったと思うんですけど。だから今回の『娼年』の現場も、三浦さんがのぞむ芝居ができなかったら殺されるんじゃないか、くらいの恐怖で臨みました。三浦さんの演出を受けるということは、裸になることよりもよっぽど勇気のいることでしたね(笑)」
――そして、オーディションの段階からやはり脱ぎはあるんですね。
桜井「そうなんですよー。私、下半身を黒タイツでいっちゃったから、上半身の服を脱いだときに江頭2:50みたいになっちゃって(笑)。三浦さんは絶対笑いをこらえていたと思います」
女優3人 濡れ場への対峙の仕方
――桜井さんは『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』で、冨手さんは『アンチポルノ』で経験されているとはいえ、今回の濡れ場はまた違った勇気が必要だったんじゃないですか?
桜井「三浦さんに料理されているような感覚をおぼえましたね。私自身が『こう見られたい』『こう見せたい』という感覚をもった瞬間に、嘘くさくなってしまう危険性があると思ったので、あえて何も考えずにいきました。だからこそ、ただそこに“いられた”という感覚が残っています。あとは三浦さんに料理してもらうだけ、というか。もちろん、松坂桃李さんが、いい意味でリードしてくださったのも大きかったです」
冨手「私は、『アンチポルノ』とは正反対の作品だ、くらいの感覚でのぞみました。『アンチポルノ』は『脱ぐ映画じゃなくて着る映画』って園監督もおっしゃってたくらいで、男性とのからみのシーンもないですしね」
――大谷さんは濡れ場としては初めてですよね。
大谷「ええ、でも『愛の渦』をはじめ、三浦監督の作品を見てきて、裸を撮るのが上手な監督であると感じていましたし、ましてや相手が松坂桃李さんなので、私自身、脱ぐこと自体は怖くなかったです。ただ、脱ぐことの怖さはなかったのですが、フリーの立場で、ひとりで現場に入っていたので、足を引っ張らないように、監督の求めているものを全てやりきれるようにしなきゃ、という意味での怖さと緊張感はずっとつきまとっていました。もちろん、肉体的にも精神的にも摩耗しましたが、すごく貴重な瞬間の積み重ねでした」
女優たちからチェリーへのアドバイス
――さて、最後に……。僕たちは松坂桃李さん演じた主人公・リョウのように、ピュア性をもったまま、女性を満足させられる男性になりたい男たちなんですが、この『娼年』から学びとるべきアドバイスがあればぜひ、お願いします!
冨手「難しいですね……。実践的なやつがいいですか?(笑)」
――感覚的、概念的な感じなやつで大丈夫です!(笑)
桜井「発信より、受けが上手っていうのは大事かもしれませんね。リョウは、行為自体だけではなく、日常においても、自分を出すことよりも、相手を受けることのほうが上手なんですよね。きっと松坂桃李さんの人間性もそうで、それがリョウに反映されている部分も大きいと思うんですけど。女性は、男性がそういう受け上手でいてくれると、すごくありがたいと思います」
冨手「劇中でも真飛聖さん演じる静香さんが『ふたりですればいいものをひとりでしてる』って言ってるんですけど、そういう意味では会話もセックスも同じようなものだと私は思っていて。一緒にいてもコミュニケーションをとっている感じがしないというか、ひとりで会話をしている人っているじゃないですか。だからセックスもひとりでしちゃってる人が多いと思うので、そこに意識があると違ってくると思います」
大谷「女性が何をして欲しいかを察する能力が、リョウくんはものすごく高いと思うんです。そこを察して、寄り添える男性はすごくモテると思います。自分よがりなセックスをするのではなくて、相手が欲しいものを与えてあげられるのが愛だと思うんですよね」
設定こそ衝撃的だが、そこには3人が語ってくれたように、普遍的な愛や人と人のコミュニケーションの形が描かれている。映画『娼年』は4月6日(金)公開。
(取材・文:霜田明寛)
Photo:yoichi onoda
『娼年』 作品情報
2018年、最も衝撃的で、最もセンセーショナルな“事件”。
娼夫リョウが見つめた、生と性の深奥―
●映画『娼年』 4月6日(金)、TOHOシネマズ 新宿 他 全国ロードショー
主演: 松坂桃李
脚本・監督:三浦大輔 原作:石田衣良「娼年」(集英社文庫刊)
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
企画製作・配給:ファントム・フィルム
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