Twitterフォロワーは12,000人以上。起業家として女性マーケティングやSNSコンサルタントとして活躍する傍ら、ひとりのLGBTとして自身の考えをネット上で発信し、“多様性のある社会”を一貫して追い求める“あやにー”こと加藤綾さん(@ayanie_jp)。
なぜそのような信念を持つに至ったのか、彼女の仕事や社会への向き合い方を聞いてみました。
“ダイバーシティ”って何のこと?
――ご自身の会社の理念として「年齢・性別・国籍などに関わらず 誰もが多様な価値観を認め合い 思い描く人生を生きることができる世の中に」というものを掲げていらっしゃいますが、どのような想いから生まれているのでしょうか?
「実は去年まで明確に企業理念って作ったことがなかったんですけれど、人から指摘されて“そういえば”と気づいて作りました(笑)。でも、今までこういう形で仕事していったら楽しそうだね、こういう仕事で意味を持っていけるっていいねと思っていたものを言語化したのが、今の理念に繋がっています」
「どうして多様性を訴えていくのかといえば、いろんな場面でみんなが“ダイバーシティ”と口にするものの、何がダイバーシティに本当に繋がっていくのか、実際に一人一人の声が聞かれる事って、政治でも社会でもあんまりないのではと感じていました」
――確かに、時代のトレンドのような扱われ方をしていますが、曖昧で、説明しづらいかもしれません。
「でも私はもともとマーケティングに携わっていることもあり、人の本音に触れる機会が多かったように思います。そういった本音が世界を変えていったり、未来を作っていったりすることができるんじゃないかって思っているんです。そういった考えのもと、出来上がった企業理念になっています」
“自分らしい働き方”のイメージをしっかり持とう
――株式会社Queendomでは、現在フリーランスの方とパートナーシップを結んで、他の経営者と人材シェアという珍しい形をとっているとのことですが、そういった従来の考え方に捉われない、自分らしい働き方をしたいなという人にとって、何から始めることが大切だと思われますか?
「自分らしく働きたいって思っている方って多いですけれど、意外とふわっとしていることが多いんですよね。だから、自分がどういう形で働きたいのかっていうのを明確にした方が良いのではないでしょうか。働き方のイメージが明確になると、雇ってくれる人との話し合いやコミュニケーションが変わってくるはず。『なんとなく週4ぐらいで働きたいな』ではなくて、『月間このくらい稼ぎたくて』、『給与をこういうスケジュールでこなしたい』といったように、もう少し明確化することが必要だと私はいつも思います」
――雇う側とのコミュニケーションが、ポジティブな方に変わるということでしょうか?
「会社って家よりも長くいるので、家族と一緒で、どうしたらお互いに許容範囲が広げられるのかといった話し合いが大切だと思うんです。でもたぶん日本の企業ではあまりそういった文化はないんですよね。海外の企業だと『子どもがいるからウィークデーしか働けません』といった交渉をすることは割と普通です。今後そういった話し合いをする会社も増えてくるんじゃないかと思うと、より交渉力が重要になってくる。そのためにも、どういった働き方がしたいかというのは、しっかり持っておいた方がいいと思いますね。
もちろん、何もなくて交渉は難しいので、条件をのんででも働いてほしいと思えるような実力やスキル、キャリアアップは大切ですけどね」
何かを習慣化するには「自分を裏切らないこと」
――あやにーさんはTwitter、ブログ、note、Voicyと、様々な場所で精力的に発信をされています。同じようにしたいと思っても、なかなか続けるのが難しいと感じている人は多いかと思うのですが、何かを習慣づけるために工夫されていることはありますか?
「私はそういう相談をされると、まずは『小さな習慣』という本を読むように言っています。小さなことから習慣化していくと大きな習慣になるという内容なんですが、これはおすすめです」
『小さな習慣』(ダイヤモンド社)/ティーヴン・ガイズ (著), 田口 未和 (翻訳)
「あともう一つは、私は“自分と約束する”というのをすごく大切にしています。自分がやりたくて始めたことのことなんだから、やりなさいって、自分で自分に言い聞かせている感じですね」
「その意識は起業してからより強くなったかもしれません。それまでは自分1人との約束でよかったけれど、働き出すといろんな人と約束しなきゃいけなくなるじゃないですか。そういう中で、約束を守ることが信頼になるっていうのを実感していました。自分との約束は自分への信頼になるし、人との約束は人との信用になる。人との約束が守れるか守れないかは、自分との約束が守れるか守れないかだと思います。だから小さなことから自分としっかり約束して、自分を裏切ることがないように意識していますね。もちろん、無理はしすぎず。適度にお休みもしながらではありますが」
LGBTアクティビストとしての想い
――起業家の他に、“LGBTアクティビスト”という肩書も名乗っていらっしゃいますね。
「そうですね。私はバイセクシャルで、高校生の時に初めて女の子と付き合いました。それからずっと、彼女がいたことがあれば、彼氏がいたこともあります。“LGBT”っていう言葉が生まれるかなり前からそうだったし、周りにセクシャルマイノリティの人たちがすごく多かったから、特別なことでは全くなかったですね」
――近頃は“LGBT”という言葉も浸透して、社会の目が向けれらることも多くなってきていますが、いかがでしょうか。
「でも今みたいに話題になればなるほど、LGBTの子たちが特別であるかのように見られることが増えたように思います。そうではなく、私は普通になっていくことが理想です。“理解する”とか“受け入れる”とか、いろいろな言葉はあるけれど、シンプルに恋人ができたっていうだけなんですよ。そこに過剰に反応するのは違和感があります。
だって世の中、男女で付き合っていたって偏見ってあるじゃないですか。性格や職業を聞いて、『そんな男と付き合うの、やめなよ』って。LGBTだって、そういうものと本来は同じであるべきだと思っているんです。『え、女と?』ではなく、『え、そんな人と?』という反応に。私自身がLGBTであり、そういった言葉が生まれたからこそ、リアルな部分を伝えていければと思っています」
――ご自身がバイセクシャルであることを周りに伝えたのはいつ頃でしょうか?
「私はずっとバイセクシャルであることは公言しているんですね。もともと新宿2丁目のイベントなんかにも出ていましたし、全く隠したりはしていませんでした。ところがTwitterのフォロワーが増えてきたら、ようやくみんなが気づいてくれるようになったんです。『あやにーさんLGBTだったんですね!』と。
いや、ずっと言ってきたんだよと思いましたが、その時、“何を言うかじゃなくて、誰が言うかなんだな”って、思いましたね。ようやく何者かになれて、言える場ができたからこそ、『普通なんだけどLGBT』という考え方をもっと広めていきたい。それでLGBTアクティビストと名乗っています」
――LGBTの言葉とともに、自分の性的指向を告白する“カミングアウト”の言葉も浸透してきました。
「そうですね。でも私自身はカミングアウトという考えは全く持っていませんでした。高校時代に女の子と付き合っていましたが、カップルとして撮ったプリクラを友達と交換しても、誰も何も言わなかったんですよね。『彼女、元気~?』って、普通に話していました。いい意味で他人がどういう恋愛をしているのかに無関心な子が多かったのかもしれないですね。今思えば有り難い。でもそういう子も実は多いんじゃないかな。
だからこそ、あんまり深刻になりすぎないことも大事だと思います。“カミングアウト!!”って言われると、聞く方もすごいことを打ち明けられちゃったんじゃないかって感じるけど、そういう深刻さが自分らしくないと思う人は、する必要はないかなって」
――最近だと、勝間和代さん(@kazuyo_k)が、同性である増原裕子さん(@ataeru_onna)と交際していることをカミングアウトしたことが大きな話題になりました。LGBTの方にとって、カミングアウトはしなくてはいけないという意識はあるのでしょうか?
「勝間さんの場合は、著名人なので他の人からバラされてしまう“アウティング”を恐れてのカミングアウトという部分があるかもしれないですね。確かにLGBTの子たちにとって、アウティングは一番よくないこと。でもその不安がなければ、自分から告白するかは自由でいいと思います。
例えば女性同性のパートナーで子供を引き取って、家族として育てていきますっていうカミングアウトだったら、する必要があるかもしれない。そういう選択ってあまり日本の中でしている人が少ないので、それは確かにカミングアウト、告白になるんじゃないかなと思います。でもそういった事情でもない限り、カミングアウトしたことが“勇気あること”として褒め称えられるかのような空気は、やっぱり違うんじゃないかなと。
だってやっぱり『ただ恋人ができただけじゃん』っていうのが正直な気持ちなんですね。だから私は、カミングアウトも自由だよ、別に無理することないよっていうことをもっと伝えていきたい。そのためにも、LGBTアクティビストとしてSNSやnoteで発信をしています」
――現在の恋人についてもお聞きしてよろしいでしょうか?
「今の恋人はストレートの男性です。有り難いというか、私がバイセクシャルであることはそれほど気にしていなくて、『両方とも恋できる可能性が高いってことでしょ? すごくない?』なんて言ってきます。確かにそうなんですが、私にも好みがあるから、大きな畑の中でもターゲットは1割かもしれない、特別広いわけではないんだよ!っていうのは、バイセクシャルのひとりとしてきちんと言っておきたいですね(笑)」
働き方も恋愛も、自分で選んでいい
“多様性のある社会”に向けて、日々、小さなことから自分と約束するようにしているというあやにーさん。自由な働き方、自由な恋愛。様々なことにフラットな視点を持ち、いろんな価値観をフィーチャーしたいという意志の強さを感じさせる女性でした。
(文:佐藤由紀奈)