1ヶ月間の会期で来場者は3万人超え。飲料メーカーのKIRINが横浜・赤レンガ倉庫で開催した『#カンパイ展』には、主催者たちの想像を上回る数の人たちが、予想以上の熱量を持って来場したといいます。
このイベントは、なぜ大成功をおさめることができたのか? ブランド戦略部に在籍し、『#カンパイ展』を主導したKIRINの近藤さんにお話を伺いました。
開催地、横浜に込められた想い
――『#カンパイ展』を開催しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
「2018年は、KIRINのブランドが始まってからちょうど130周年なんです。このタイミングに、KIRINが生まれた場所である横浜で、お客様と直接コミュニケーションしたいと思ったことがきっかけです」
――このようなリアルイベントは、もともと130周年に向けて企画をしたんですか?
「私たちが骨子を考えはじめたのは昨年の夏頃でしたが、同じような構想は30年くらい前からあったようです。動き出してから資料を見返して知りました。そういった資産も残っていたので、先人たちが叶えられなかった夢を叶えよう、という気持ちもありましたね」
――30年も前から! それを今回ついに、希望通りの横浜で開催することが実現したわけですね。
「横浜で開催することにはかなりこだわっていたので、できて本当によかったと思います。
古いものもちゃんと活かしながら、イノベイティブなこともやっていくのが横浜の魅力。そのDNAを、KIRINブランドも継承できたらいいなと思っているんです。こういう場所で生まれたから、こういうKIRINになれているというのが相通じているといいな、と」
若い世代へのコミュニケーション
――新旧を取り交ぜるということで、ロゴや会場の雰囲気などをポップな印象にしたのでしょうか?
「まず、20代の方々との接点を持ちたいというのがスタートでした。というのも、KIRINの事業の中でビールがかなりのボリュームを占めているのですが、“お酒離れ”が叫ばれる中で、どうしても若い方々との接点が薄れてしまう。そういう人たちにKIRINの存在を知っていただくきっかけになればと思ったんです」
――単純にフォトジェニックなだけではなく、展示物を触ったり、デジタルを駆使したりといった要素も盛り込まれていました。こういった着想はどこから得たのですか?
「ブランドを知っていただくということは、KIRINってどういう人なのか?といったパーソナリティを知っていただくことだと思っています。そうすると、歴史は欠かせないコンテンツのひとつです。
でも、教育的にパネルで展示を行っても、魅力的に感じていただけるのは知りたいと思っている方だけ。大多数の方に積極的に興味を持っていただけるかというと、そうでもないですよね。そこで、 “楽しみながら、実は知れちゃっている”という体験にできないかなと考えたんです」
「一方的なコミュニケーションにならないために、『さわれる歴史』のようなインタラクティブに動く要素を入れました。着想という意味ではこちらが先。全部がインタラクティブになってしまわないよう、視覚的に訴えるものなど、ニュアンスの違う演出を加えていきました。フォトジェニックははじめから狙っていたわけではなく、体験のイントロとなるように、後から入れたんです」
新しい“カンパイ”シーンを伝える
――展示の前半部分を後から作ったんですね。『さわれる歴史』、とても面白かったです。
「ありがとうございます。歴史は過去のものではなく、ここから先KIRINが大事にしていこうと思っているものも伝えられる部分だと思うんです。
それを具現化したものが、最後に広がる『カンパイホール』。今までの飲み会のように、みんながジョッキにビールで乾杯をするのではなく、クラフトビールなどを気分に合わせて選んでいくスタイルが定着した、近未来的なカンパイのシーンをイメージして作りました。テーブルの上にグラスを置くことで光の演出が楽しめたりと、少し先の自分らしい“キレイな世界”です」
――あの場でスタッフさんにオススメを聞きながらクラフトビールを選ぶ人を多く見ました。
「メニュー表とビアスタイルマップを見て、今の気分はこれかな、という感じからはじまっていく飲みの場っていいな、と。ゆっくり考えて選ぶというのも、クラフトビールの魅力ですからね」
目的のひとつでもあった、インナープロモーション
――会期を通して、KIRINとしての満足度はいかがですか?
「率直に、やってよかったです! 特に思ったのが、この活動によって従業員もたくさん来場してくれたことですね。今回はサポートスタッフを社内公募して、かなりの数の従業員が応募・参加してくれました。運営スタッフをやることで、普段は接する機会のないお客様と直接コミュニケーションすることが実現したんです。これがすごく感動するらしくて、自分が働いている場所に戻った後のモチベーションがすごく高くなっていました」
――メーカーの方がお客様と接する場面って、なかなかないですもんね。
「そうなんですよ。みんなすごく楽しんでやってくれていたので、私たちだけでなく、全社的に見ても満足度は相当高かったです」
――社内から公募をしようと思ったのはなぜだったのでしょうか?
「さとなおラボ(*)で『ファンを大切にする』ということを学んだ影響が大きいかもしれません。本企画のPRを担当した同じラボの卒業生で、デジタルマーケティング部の髙柳が着想し、私もすぐに賛同しました。プロジェクト自体はアウターコミュニケーションなんですけど、『#カンパイ展』をやる意図や意味を、従業員に共感してほしかった。KIRINブランドを大事にしていこうという見直しを、色々な部署の人にやってほしかったんです」
(*)さとなおラボ……コミュニケーション・ディレクターである佐藤尚之さん主宰のプランニングセミナー。
――ブランドを強化していく上で、やっぱりインナーの結束は必要だと思いますか?
「そう思います。みんな部署が違うので、横で繋がり続けるのは難しいとは思いますが、だからこそこういう機会を大切にしていきたいですね」
これからのデジタルマーケティング施策
ブランド戦略部とデジタルマーケティング部が密接に関わって実現したという『#カンパイ展』。ここにも成功のカギが隠されていそう……!
ということで、ここからはデジタルマーケティング部の島袋さんにも入っていただき、お話を伺うことに。今回のイベント成功で見えたデジタルマーケティング施策のこれからとは?
――今回はかなりデジタルミックスの施策だったと思いますが、今後の方針は決まっていますでしょうか?
島袋さん「僕は『#カンパイ展』には直接関わってはいないのですが……。デジタル×リアルのコミュニケーション施策を丁寧に設計していた印象です。これをきっかけに、さらにブランドとデジタルの二人三脚が進む好事例になると思います」
近藤さん「ブランド戦略部としては、デジタルを別物だとは考えていないんです。ベースとしてあって、そのうえで我々のブランド戦略部として何ができるか?という考え方だと思っています。今後は特にコミュニケーションしたい相手がデジタルネイティブ世代になっていくので、注力というより、もはや基盤ですよね」
島袋さん「KIRINとしては、今まで何かプロモーションするとなった時に、テレビや雑誌、新聞などの、いわゆるマスメディアを起点に設計することが多かった。そこを今回は来訪いただきたいお客様に合わせて、情報発信をデジタルファーストでプランしています。アプローチとしてもチームビルディングとしても非常に上手くいったのではないでしょうか」
近藤さん「当初は赤レンガ倉庫に遊びに来た人がふらっと展示を見てくださるということを想定していたのですが、思っていた以上にお客様の投稿によるSNSで『#カンパイ展』を知って、これ目当てで来場してくれた方が多かったんです。
もちろんエリアや世代によってはマスメディアの方が力を持つこともあります。だけど、今回はやっぱりターゲットを考えると、接点はココだよなと感じられました」
――そうなると、今後はSNSなどでも積極的にユーザーとの接点を持って行くのでしょうか?
島袋さん「この数年、『これからは“お客様主語のマーケティング”をしていこう』という話をしていました。KIRINをはじめとしたブランド企業は、どうしても“企業主語”になりがちなのですが、これからはソーシャルも含めて“お客様主語”であるべきだろう、と。企業からのメッセージが伝わりにくい中でも、友だち同士のメッセージやコミュニケーションは伝わっていく。その媒介が、SNSなんじゃないかと思うんです。僕たちもブランドとしてFacebook、Instagram、Twitter、LINEをやっているけれど、これらのメディアは“企業のもの”というよりも“お客様のもの”。ユーザーのコミュニティの中に入って会話のきっかけとなるスパイスを垂らす、ユーザーの声が自発的に生まれるようなトリガーを作って置いていく、そうすることで、ユーザーが自然に発信してくれると思っています」
――場の提供をするのが、企業の役割ということですね。
島袋さん「今回は『#カンパイ展』というタイトルだったことも奏功し、ハッシュタグをつけてSNSに投稿してくれた人は多かったと思うんです。そんな風に、今後は企業からの押し付けじゃなくてユーザーが自発的に発信したくなるようなちょっとした仕組み・きっかけ作りが重要になる。コミュニケーションのイニシアチブをユーザーにゆだねる、というか。そもそも僕らがお願いしなくても発信してくれることが価値だと思うので、背中を押すきっかけや場の提供というところを、飲み物を通じてやっていけたらいいなと思います」
あふれる“ブランド愛”が成功のカギ!
『#カンパイ展』は、お客様にKIRINの価値を伝えたい!という強い想いがあったからこそ実現したことが、近藤さんのお話から伝わってきました。そこに、髙柳さんや島袋さんをはじめとするデジタルマーケティングのプロの“得意”が合わさったことで、今回の大成功に繋がったといえそうです。
今後KIRINが用意してくれるであろう、「ユーザーの声が自発的に生まれるようなトリガー」からも目が離せませんね!
(文:あまの さき)