ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

第48回 今からでも間に合う1月クール連ドラ中間決算

さて、今回は恒例の連ドラ中間決算です。ちょっと終盤に差し掛かったけど、ね(笑)。

それはそうと、1年の計は元旦にあり――じゃないけど、1月クールの連ドラって、各テレビ局にとって一番大事な作品が並ぶクールとも言われてるんです。
というのも、どの局も年始からスタートダッシュして、局内の雰囲気を盛り上げて、その勢いのまま1年を乗り切りたいと思ってるから。

普通、テレビの視聴率って、そんなに突然上がるものじゃないんですね。バラエティなんて、最低半年間は様子を見ないといけない。でも、連ドラだけは例外で、上手くハネれば視聴率が前のクールの2倍なんてことも夢じゃない。もっとも3カ月間限定の話だけど――。

とはいえ、3カ月間だけでも局内の空気が変われば、他の番組の士気も上がる。だから、年の初めの1月クールの連ドラに、各局は力を入れるというワケ。そう、1年の計は1月クールの連ドラにありってね。

スタートダッシュに成功した日テレ

単刀直入に行きます。
今クール、とりあえずスタートダッシュに成功したのは日テレでしょう。昨年、とうとう1本も連ドラを平均視聴率二桁に乗せられなかった同局だけど、今年は1月クールから、なんと2本の作品が二桁視聴率で快走中である。

1つは北川景子主演の人気シリーズ『家売るオンナの逆襲』、もう1つは菅田将暉と朝ドラ『半分、青い。』の永野芽郁が共演する異色学園ドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』がそう。まぁ、彼ら両作のメインキャストを見るだけで、日テレ渾身の作品であるのは自ずと分かるというもの。

実は日テレ、今年はかなり気合が入ってるんですね。というのも、前回の本コラム『テレビ局戦国時代』でも触れた通り、2018年は日テレの年間三冠王に黄信号が灯り、テレ朝の猛追を食らったから。
結局、なんとか逃げ切って5年連続年間三冠王を達成したものの、ピンチが続いている(むしろ両局の差は縮まっている)状況に変わりはない。日テレが例年以上にこの1月クールの連ドラに賭けるのは、そういうことなんです。

先行逃げ切り狙う日テレ

ちなみに、今年1月の月間視聴率では、日テレが月間三冠王を達成。しかも、ぶっちぎりだった。先に挙げた連ドラが好調な上に、バラエティや情報番組も比較的安泰。『世界の果てまでイッテQ!』なんて、昨年の終盤はヤラセ騒動もあり、数字が下降気味だったけど、今年に入って平均18%台と、標準運転に回復。まっ、裏のNHK大河の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』の苦戦という敵失もあるんだけど――。

そして、何と言っても驚きが、1月2日・3日恒例の「箱根駅伝」だ。今年は、往路・復路とも視聴率30%超えと、共に歴代最高。断わっておくが、7時間を超える番組の平均視聴率が30%である。こんな番組は他にない。

そうなると、年間視聴率争いも、このまま日テレが先行逃げ切りか――とも思ってしまうが、そう簡単に行かないのがテレビ業界。例年そうだけど、テレ朝が真に怖い(!)のは、年も押し迫った10月クールなんですね。ここで毎年、米倉涼子主演ドラマ(『ドクターX ~外科医・大門未知子~』or『リーガルV〜元弁護士・小鳥遊翔子〜』)と『相棒』のテレ朝二大巨砲が揃うから。2つとも平均視聴率15%超えが必至だから、これだけで相当な底上げになるんです。

そう、日テレは終盤、テレ朝に追い上げられるから、同局が先行逃げ切りを狙うのは定石。それが今年は、特に力が入っているという次第――。

今クール最大の話題作『3年A組』

では、個別のドラマ評に移ります。
まず、今クール最大の話題作と言って過言ではないのが、先に挙げた日テレの『3年A組』でしょう。なんたって初回から視聴率10.2%と、二桁の好発進。同枠の前クール『今日から俺は!!』が、あんなに評判になりながら、なかなかクリアできなかった二桁視聴率を、初回からあっさり達成したのである。

さらに凄いのが、その後。2話、3話と視聴率を上げ、4話は例の嵐の活動休止報道(フジ『Mr.サンデー』)の真裏に当たって若干数字を落とすも、その後も回を重ねる毎に最高視聴率を更新。ほぼ右肩上がりと言ってもいい。こんな視聴率の推移は、最近では『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)や『義母と娘のブルース』(TBS系)で見られたくらい――。

ベタ×演技力=高視聴率

『3年A組』が好調な要因は何か?
ずばり、ベタな脚本とメイン2人の演技力でしょう。この掛け算が右肩上がりの視聴率を生んでるんです。

脚本を担当するのは武藤将吾サンである。テレビ版の『電車男』や映画『テルマエ・ロマエ』の脚本でも知られるヒットメーカー。同ドラマは彼のオリジナル脚本だけど、巷で言われているように――映画の『バトル・ロワイアル』や『悪の教典』と世界観がよく似ている。また、自殺した女生徒を起点に物語が始まるプロットは、Netflixのドラマ『13の理由』を彷彿とさせる。

そういう話をすると、よくパクリじゃないかって声が聞こえてくるけど、エンタテインメントの世界において、旧作をオマージュして、現代風にアップデートするのは正統なクリエイティブ。逆に言えば、同ドラマは変に奇をてらわず、それら同種のカテゴリーの旧作を踏襲して、“ベタ”に徹したのがよかったと思う。

連ドラにとって一番大切なこと

ここで、あらゆる連ドラにとって一番大切なことをお教えします。
それは――視聴者に「この先、どうなるのか?」と思わせること。これが全て。

ほら、その視点で見ると、同ドラマは極めてドラマ・セオリーに徹した作品だって分かるでしょ? とにかく『3年A組』を見る僕らは、一刻も早く続きを見たい。だから録画やネットなどのタイムシフト視聴じゃなくて、出来る限り生でオンエアを見たい――。そう、そんなシンプルな視聴動機が、右肩上がりの視聴率を生んでるんです。

メイン2人の演技力でドラマとお茶の間が陸続きに

そして、同ドラマが高視聴率を生むもう一つの要素――それがメインの2人、菅田将暉と永野芽郁の卓越した演技力である。

このドラマで、2人に求められたのは、この一見、荒唐無稽な話にリアリティを持たせること。
そこが、お金を払って見る映画との最大の違いなんですね。どんなに面白いドラマでも、どこか遠くの世界で起きている話と思われたら、もうお茶の間の95%の人たちはついて来てくれない。逆に、彼らを惹きつけるには、テレビの中の世界が、ひょっとしたら自分たちと“陸続き”じゃないかって思わせること――。

そこで、“ラウンドキャラクター”の出番である。
ラウンドキャラクターとは、エンタメ界の専門用語だけど、ある一面的な顔しか見せないフラットキャラクターと違い、多面的な顔を見せてくれる深みのあるキャラクターのことだ。

普通の視聴者はラウンドキャラクターに共感する

自分に置き換えたら分かるけど、リアル生活で僕らは多面的な顔を使い分けている。学校や会社で見せる顔と、家で見せる顔とは当然違う。話し相手によっても態度を変える。それが普通の人間だ。そう、テレビドラマの中でそれを担っているのが、まさにラウンドキャラクターなのだ。
そして――大多数の“普通”の視聴者は、そんな風に相手によって態度を変える“普通”の人間=ラウンドキャラクターに共感する。

つまり、同ドラマで菅田将暉演じる教師・柊一颯は、一見サイコパスに見えるが、それは“芝居”。中身はいたって普通の教師だ。だから僕らは、柊がなぜそんな行動を取るのか、その一挙手一投足に惹きつけられる。

同様に、永野芽郁演じる生徒・茅野さくらも、普段はおどおどしつつも、実はオタク気質で、時に饒舌になったりして、こちらも中身は普通の女の子だ。特別な能力やスペックがあるワケじゃない。だから僕らは安心して、2人に感情移入できるんです。

「家売るオンナ」の盤石のフォーマット

さて、続いては、今クールで最も安定した視聴率を見せる北川景子主演の人気シリーズ『家売るオンナの逆襲』である。

ご存知、1stシーズン『家売るオンナ』と、単発スペシャル『帰ってきた家売るオンナ』に続くシリーズ第3弾。視聴率はそれぞれ平均11.6%、単発13.0%と来て、今回が平均11.7%(7話まで)と、相変わらず好調である。

2ndシーズンの新しい設定としては、北川景子演ずる三軒家万智が、屋代課長(仲村トオル)と結婚してることや、松田翔太演ずる留守堂謙治(それにしてもスゴイ名前だ)が同業ライバルとして登場することくらいで――基本的なフォーマットは変わらない。

即ち、主人公の三軒家万智が毎回「私に売れない家はない!」と豪語し、人生で最も高い買い物である「家」を売ることを通して、客の悩みを解決するというフォーマット。物語は基本、一話完結で、客としてゲストスターが登場し、ハッピーエンドで終わる。盤石だ。

先に、連ドラで一番大切なことは、視聴者に「この続きを見たい」と思わせることと書いたが、2番目に大切なことは「安心して楽しめる一話完結」であること。そう、同ドラマは後者の成功モデルなのだ。

コメディエンヌ・北川景子の安定感

そして何より、『家売るオンナ』シリーズに抜群の安定感をもたらしているのが、主演・北川景子サンの徹底したコメディエンヌぶりである。

俗に、笑わない喜劇役者の芝居を「ストーン・フェイス」と呼ぶが、それは往年の喜劇王、バスター・キートンを評する言葉から生まれたもの。そう、優れたコメディアンは自分では絶対に笑わない。だから観客を笑わせる。その意味で、北川景子サンは卓越したコメディエンヌと言って間違いない。

元々、彼女は連ドラデビュー作の『モップガール』から、そのコメディエンヌぶりをいかんなく発揮していた。そう、彼女を生かすには喜劇なのだ。このドラマは、北川景子に何をやらせれば最も輝くかを熟知している人が書いたドラマなのだ。

復活の大石静

さもありなん、同ドラマの脚本は、名人・大石静サンである。
前クールでは、TBSで『大恋愛〜僕を忘れる君と』なる禁断のラブストーリーを書いて、好評を博しておきながら――今クールでは一転、ベタベタなコメディと振れ幅の大きさが半端ない。しかも、どちらも傑作なのだから、これが名人たる所以である。

思えば、5~6年前まで、ちょっとスランプ気味だった大石サンだけど、ここ最近は『コントレール〜罪と恋〜』(NHK)とか『トットちゃん!』(テレ朝系)とか、もはや完全復活したと言ってもいいだろう。

大石サンの次回作が、今から楽しみである。

クオリティは今クールトップ

今クール最も話題性の高いドラマが『3年A組』で、最も視聴率が安定しているドラマが『家売るオンナの逆襲』なら――最もクオリティの高いドラマはなんだろう?
ずばりそれは、TBSの『グッドワイフ』と見て、間違いないと思う。

そう、ご存知、米CBSドラマ『The Good Wife』のリメイクである。
2009年から16年まで7シーズンが作られた大ヒット・リーガルドラマ。夫の州検事が汚職で逮捕されたことから、家族を養うために13年ぶりに弁護士に復帰した主婦が主人公である。ほら、この主婦が弁護士というだけで、お茶の間にとっては、ちょっと親近感が湧くでしょ。

ドラマ・セオリーにおける主人公とは

それにしても、この13年ぶりの復帰(日本版は16年ぶり)という時間設定がなかなか上手い。俗に十年一昔と言うが、その間、どの職場もIT化が劇的に進んでるので、まずは浦島太郎のように戸惑う主人公を描けるというワケ。
しかし、その一方で、どんなに時代が変化しても弁護士にとって変わらない大切なものもあり(弁護士に限りませんね)、主人公の持ち前の人間力で難局を乗り越えるカッコいい描写も描ける。そう、変わりゆく世の中における、変わらない主人公の志――これ、ドラマ・セオリーなんですね。

さて、そんな風に一話完結の弁護士ドラマを横軸に、縦軸では裏切られた夫との関係に腐心する主婦としての人間味あふれる横顔も描かれ、物語としてはかなり重層的だ。日本版は基本、オリジナルをトレースしたものだから、脚本自体は問題ない。あとは、この手のリメイクドラマがいつも問われることだけど、どう日本風にローカライズするか、である。

17年ぶり民放連ドラ主演の常盤貴子

主演の常盤貴子サンは、民放の連ドラ主演は、実に17年ぶりである。
改めて指摘されると、そんなに経つのかと驚くが、ちなみに、同ドラマの前に最後に主演した連ドラが、2002年のフジテレビの『ロング・ラブレター~漂流教室~』というから、相当懐かしい。これ、16年ぶりに弁護士に復帰した主人公と重ねる絶妙なキャスティングでもあるんですね。俗にいう「クリエイティブなキャスティング」とは、こういうこと。

まぁ、僕の見る限り、彼女はいい芝居をしているし、夫役の唐沢寿明サンも相変わらず上手い。この辺りは安心して見ていられる。ただ、視聴率は3話以降、一桁台と若干苦戦しており、正直もう少し取ってもいいと思う。あとは、お茶の間が米国流のシナリオの面白さに慣れることでしょう。

米ドラマのリメイクのメリット

多分、米ドラマのリメイクはこれからもっと増えると思う。元よりドラマのクオリティは保証できる上に、今回の常盤サンのように、長らく民放連ドラから遠のいている大物をキャスティングできるから。

そう、映画や舞台や単発スペシャルやNHKに軸足を移したベテラン俳優たちを――もう一度、民放の連ドラに振り向かせるのに、米ドラマのリメイクは打ってつけなんです。既にドラマの知名度はあるし、クオリティも保証付き。前クールの織田裕二の『SUITS/スーツ』(フジ系)もそういうこと。

あとは、お茶の間が“脚本でドラマを見てくれる”ようになったら、御の字。日本の連ドラ市場がそんな風に成熟したら、出演するスター俳優も今の2倍くらいに増えるかもしれないし、そうなると90年代のような連ドラ黄金時代が訪れるかもしれない。

デリヘルだけど、普通のドラマ

さて、ここからは深夜ドラマの話である。
今クール、僕が最も気になってる深夜ドラマは、テレ東の『フルーツ宅配便』ですね。

このドラマ、東京で務めていた会社が倒産し、あてもなく故郷に戻った主人公・咲田(濱田岳)が、ひょんなことから地方のデリヘル店の雇われ店長になる話。
デリヘルが舞台だから、あぁ、そういうエッチ系の深夜ドラマなのね――と思いがちだが、これが全然違う。たまたま深夜にやっている、普通の人たちの普通のドラマなのだ。

まず、今どきデリヘルは、条例でも認められた普通の職業だし、本番行為は禁止で、法律を遵守しているし、税金も申告している真っ当な会社である。だから、主人公・咲田は拍子抜けするくらい、普通の事務所で、普通の同僚たちと、普通の業務をこなす。

仕事内容はほぼコンビニ

具体的には、お客からかかってきた電話に応じて、派遣先(ホテルや自宅)まで女の子を届ける。チェンジがあれば、女の子を事務所に戻し、代わりの子を届ける。女の子が仕事中は駐車場などで待機して、終われば、再び女の子を乗せて、事務所まで戻る。基本的にはこの繰り返しだ。

あとは、昼間は女の子の募集広告を出したり、新人の面接をしたり、雑務をこなしたり――。まぁ、コンビニの店長が商品の棚卸しをしたり、レジ打ちをしたり、バイトの面接するのと基本、変わらない。

裸やエッチなシーンがない深夜ドラマ

そして、ここが大事なところなんだけど、デリヘル店が舞台ながら、このドラマは基本、エッチなシーンや裸は出てこない。だから、エロな雰囲気は全くない。極端な話、家族でも見られるし、録画したのを昼間見ても、違和感がない。

登場する女の子たちにしても普通だ。事務所奥の待機部屋には出番を待つデリヘル嬢たちが待機してるが、演じるのは、徳永えりに山下リオ、元AKB48の北原里英と、エッチな雰囲気は皆無。まるでアパレル店の休憩室だ。

そうなると何がいいって、同ドラマは毎回、新人デリヘル嬢役で1人のゲストスターが登場するんだけど、割と大物の女優さんをキャスティングできること。内山理名サンや成海璃子サン、筧美和子サンあたりのクラスが普通に出てくれるのだ。これをメリットと言わず、何と言おう。

安易なハッピーエンドにしない

え? じゃあ、このドラマは何で面白がらせてるのかって?
ごもっとも。早い話がデリヘルを舞台にした人間ドラマなのだ。

まず、デリヘル店のディテールを描くことで、ある種のお仕事ドラマのハウトゥものとして楽しめる。この辺りは主人公・咲田を演じる濱田岳の見せ場である。

そして、各回のゲストスターのちょっとしょっぱい話――これがメインの話。
例えば、内山理名演ずる「ゆず」は子連れで、前髪で隠した顔の右半分には、別れたDV夫につけられた大きなアザがある。彼の作った借金返済のために、デリヘル嬢として働き始めるが、アザがネックになり、チェンジされる日々――。結局、彼女は指名を得るために「本番」に手を染め、バレて解雇されるが、彼女の不幸な事情を知る咲田は力になろうとする。しかし――逆に借金の保証人を頼まれ、その額の大きさ(2000万円!)に、声もなく身を引くという、身もふたもない話だった。

松尾スズキ演じるオーナーのミスジさんは、落ち込む咲田にこう忠告する。
「働いてる子たちのプライベートに首ツッコむな」
――そう、実際、下手な同情心をかけても、どうなるものでもない。安易なハッピーエンドにしない。これがこのドラマの真骨頂なのだ。

演出は今、日本映画で最も期待されるあの監督

同ドラマ、原作はビッグコミックオリジナルに鈴木良雄サンが連載するコミックで、ドラマのストーリーは基本、原作を踏襲している。原作もエロの要素は少なく、シンプルな絵柄が切ない雰囲気を醸し出している。

演出を務めるのは、映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』や『凶悪』などのアンダーグラウンドな世界を描かせたら随一と言われる白石和彌監督である。近年は『孤狼の血』などで、2年連続ブルーリボン賞の監督賞を受賞するなど、今、日本映画界で最も期待される監督の一人。はっきり言って、テレ東の深夜ドラマには惜しい(!)人材である。

要するに――アンダーグラウンドな世界を描かせたら随一の監督が描くデリヘルの世界だからこそ、そこに安っぽい裸は出てこないし、描かれる話はリアリティに満ちたものになる。デリヘルの世界を表面ではなく、中身で見せてくれるのだ。

深夜だけど、深夜じゃないドラマ

もう、お分かりですね。
名匠・白石和彌監督まで担ぎ出して、作った同ドラマ。要するに――狙いは深夜ドラマじゃなくて、タイムシフト視聴を想定した、面白いドラマを作るということ。

今や、ドラマの視聴者の約半数が、ネットなどでタイムシフト視聴する時代。ぶっちゃけ、そのドラマが何時に放映されているとか、もはや大した意味はない。大事なのは、そのドラマが面白いかどうか。面白ければ、SNSでバズり、視聴者はタイムシフトで自由な時間に見てくれる。

昨年、深夜ドラマの『おっさんずラブ』(テレ朝系)が、毎年、優れたドラマに贈られるコンフィデンスアワード・ドラマ賞を受賞した。深夜ドラマで初めての快挙だ。そう、もはやドラマの世界に、深夜もゴールデンもない。『フルーツ宅配便』は、いち早くその変化の潮流に気付いて、脱・深夜を狙ったドラマというワケ。たまたま深夜に放送されているドラマなのだ。

ネット+テレビのハイブリッド

さて、本コラムで紹介するドラマも、いよいよ最後である。次に挙げるのは、もはや深夜とも言っていられないチャレンジャーもの。
――『新しい王様』だ。

同ドラマ、ちょっと変則的な形でお茶の間に届けられている。シーズン1(全8話)をTBSが放送し、シーズン2(全9話)を動画配信サービスのParaviが配信する異例の試みだ。既にシーズン1は2019年1月8日からウィークデーの深夜に帯で放送され、同月17日に終了。で、その終了直後にシーズン2の配信がParaviで始まり、以後、毎週木曜に一話ずつ配信されている。

シーズン1・2と言っても、放送と配信で便宜上分けているにすぎず、要するに全17話の連ドラだ。つまり、放送と配信のハイブリッド・ドラマ。それにしても――なんでこんな不思議な座組になったのだろう?

テレビ局を買収する話

端的に言おう。
同ドラマは、テレビ局を買収する話だからである。特に、買収話が本筋になるシーズン2は、テレビ局にとっては禁断の話。その部分だけ配信にしたのは、分からぬ話ではない。噂には、当初TBSに同ドラマの企画を持ち込んだところ、激怒されたという。

とはいえ、その後、シーズン1を見た視聴者から、シーズン2も地上波で見たいという声がTBSに多く寄せられ、同局は態度を軟化させたのか、Paraviの配信から5週遅れでシーズン2の放送も始まった。

もっとも、当初TBSがドラマの内容に激怒したという噂すらプロモーションの一環と言えなくもなく、そんな風に虚実入り混じる噂自体が、このドラマらしいとも言える。

元ネタはあの事件

同ドラマ、物語の核となるのは、藤原竜也サン演じるアプリ開発者で自由人のアキバと、香川照之サン演ずる投資家の越中(えっちゅう)の2人である。アキバが旧来のビジネスの慣習や金儲けを否定するのに対し、越中は「金儲けの何が悪い」と次々に企業買収を繰り返す。物語は、この相反する2人がテレビ局の買収を巡り、虚々実々の駆け引きを展開するというものだ。

恐らく、元ネタは2005年のライブドアによるフジテレビ買収騒動だろう。事実、ルールに縛られないアキバの言動はホリエモンを連想するし(容姿は別として)、「もの言う株主」を実践する越中のスタイルは、かつて村上ファンドを率いた村上世彰代表を彷彿とさせる。

とはいえ、似ているのは2人のキャラクターくらいで、ストーリーはドラマオリジナル。あれから14年も経って、テレビやITを取り巻く世界も激変しているし、1つのフックとして、確信犯的にモチーフ(キャラ)だけ近づけたのだと思う。ネットでバズりやすいという意味でね。

神はディテールに宿る

ただ、同ドラマの面白さの肝は、実は買収劇そのものじゃない。その周りで起きるテレビ界・芸能界・セレブ界を舞台にした、数々の嘘みたいな本当の話である。

例えば、越中が愛人関係にあった舞台女優(夏菜)がある日、勝手に大手芸能事務所と契約してしまい、そこの社長から「ウチの商品に手を付けた」と脅されたり、その和解の条件に「ドラマの主役」を提示され、テレビ局の上層部(八嶋智人)に掛け合ったり、すると今度はその男から交換条件として、付き合いのあるスタイリストの事務所に出資してほしいと頼まれたり、結局、ちょい役しかねじ込めず、その結果、玉突きのように弱小事務所の新人が役を外されたり――と、なかなか面白い。

セレブたちのパーティーも頻繁に登場し、そこへ可愛い女の子を派遣する会社が存在したり、そんな会社を経営するコウシロウ(杉野遥亮)が順調に業績を伸ばしたり、コウシロウに思わせぶりな態度を見せる美女(泉里香)が、実はセレブたちのパーティーを渡り歩く玉の輿狙いの“プロ”だったりと、描かれるエピソードも、そこそこリアリティがある。

仕掛け人は、鬼才・山口雅俊P

面白いのはさもありなん、同ドラマのプロデュース・脚本・演出を担当するのは、かつてフジテレビに在籍し、『ギフト』や『きらきらひかる』、『カバチタレ!』など異色作を数多く手掛け、独立してからは『闇金ウシジマくん』シリーズや、映画『カイジ』シリーズなどの話題作に携わる、奇才・山口雅俊サンである。

つまり、エンタメ界のど真ん中にいる人物が描くテレビ界・芸能界・セレブ界の話なので、これが面白くないわけがない。
もちろん、それぞれのエピソードはデフォルメされて、元ネタが分からないようにはしているが、見る人が見れば、分かるワケで――。

ただ、山口サンの仕掛けが上手いのは、このリアリティ渦巻く物語の中に、確信犯的に1つだけファンタジーを入れていること。
それがあるゆえに、この物語全体が「寓話」になるのだ。

武田玲奈というファンタジー

ファンタジーのキーマン――それは、武田玲奈サン演じるエイリだ。
元看護学生の役で、闇金から借りたお金がいつの間にか莫大に膨れ上がり、返済できずに風俗に売られたり、ひょんなことから芸能事務所の社長の目に止まり、スカウトされて女優デビューすると、あれよあれよと主役に上り詰めたり――。エイリだけは、このドラマの中で唯一、その存在が浮世離れしているんです。

その兆候は、早くもシーズン1の第1話の開始2分20秒に訪れる。闇金事務所から逃亡するナースのコスプレ姿のエイリが、追っ手が迫る中、思い余ってビルの非常階段からパンチラも厭わず、飛び降りる。高さにして20メートルほど。普通なら死ぬ。だが――地上に降りたエイリは膝を少し擦りむいただけで、再び立ち上がって走り始めたのだ。

地球によく似た星の話

そう、この瞬間、このドラマは以降、何が起きてもファンタジーになった。
かつて村上春樹サンがエッセイの中で、読者から小説の中に登場するクルマの装備の間違いを指摘され、「地球によく似た星の話です」とシャレで返していたが、そういうことである。

このドラマも、どこかの誰かから文句が来たら、「地球によく似た星の話」と言い逃れできる。「だって、ビルの上から飛び降りて、膝を擦りむいただけで済む女の子が、この地球上に存在するワケがないでしょう?」――って。

その他ドラマの雑感

最後に、その他のドラマについても、簡単に雑感を記しておきたい。

フジの月9の『トレース~科捜研の男~』は、やはり特筆すべきは船越英一郎サンの存在感である。「歩く土ワイ」と言われるだけあって、2時間ドラマ感が強いものの、スター俳優であるのは確か。アクが強すぎるなど色々言われるが、彼が出てくるだけで、50代以上の視聴者にとっては安心できて、それが二桁視聴率に繋がっているとも。錦戸クンだけではこうはいかない。それにしても、新木優子サンのアシスタント感は異常である。

カンテレ枠の『後妻業』は、実は難しいドラマだ。映画版でヒロイン・小夜子を演じたのは大竹しのぶサンだったが、彼女は心底、憎たらしい女だった。それに比べて、ドラマ版で小夜子を演じる木村佳乃サンは、憎たらしい女を演じているように見える。そう、大事なのは観客に嫌われることであり、嫌われる女に見えることじゃない。これは彼女の演技力云々というより、プロデューサーのキャスティングミスでしょう。コメディほど難しいのです。

『刑事ゼロ』は驚きである。よくあるテレ朝・東映制作の刑事ドラマなんだけど、視聴率は『相棒』に次いで今クール2位。いかにテレビの視聴者が高齢化・保守化しているかということ。申し訳ないが、個人的に全く興味がない。

テレ朝木9の『ハケン占い師アタル』は遊川和彦サンの脚本だけど、視聴率は今のところ平均10%そこそこと、可もなく不可もなく。多分、遊川サン自身が一番分かってると思うけど、ちょっと話の展開に無理がある。要は『女王の教室』(日テレ系)とか『家政婦のミタ』(日テレ系)とかと同じ路線を狙っているんだけど、今ひとつフォーマットが作れてない。杉咲花サン始め、役者陣はよくやってるけどね。

TBS火10の『初めて恋をした日に読む話』は正直、ちょっとイタい。深キョン36歳は驚きだし、全然そうは見えないが、なんだろう、魔法が切れた感じ。今回の深キョンはメイクが完璧だったり、髪型が決まりすぎたりして、隙が見えない。でも、逆にそこに、役者としての“隙”が見える。例えば今回、『アンナチュラル』(TBS系)の石原さとみサンみたいに、ナチュラル路線にイメチェンするチャンスだったかも――。

『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)は金ドラにしては珍しい、安定の刑事モノ。比較的、作家性の強い作品が多い同枠だけど、いよいよ背に腹は代えられなくなったか。

さて、本コラムのオーラスは、フジ木10の『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』である。実に不思議なドラマだ。昨今流行りの弁護士ドラマの触れ込みだが、弁護士感は皆無。それより気になるのは脚本である。出演者の一人にバカリズムさんがいるが、今回は彼の脚本ではない。なのに、妙にバカリズム脚本に近づけようとする意図が見え、しかも全く、面白くない。実に不思議なドラマである。

――とはいえ、まっ、いろいろあるから、連ドラの世界は面白いワケで。4月クールも乞うご期待。
またお会いしましょう。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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