■ 映画賞11冠受賞、中谷美紀、唯川恵ら著名人からも絶賛の声
吉田大八監督の最新作『紙の月』に絶賛の声が鳴りやまない。
著名人、観客問わず、SNSに溢れかえる熱狂的な感想もさることながら、早くも本年度の賞レースでは圧巻の成績を残している。
東京国際映画祭の観客賞など作品自体に贈られたた賞に加え、第28回山路ふみ子女優賞を受賞した主演、宮沢りえをはじめとして、池松壮亮、大島優子、小林聡美……といった俳優陣に贈られたものまでを含めると『紙の月』に贈られた賞は全部で11冠。
これから賞レースが本番を迎えることをふまえると、本作が映画界にいかに大きな衝撃を与えているのかがうかがえる。
松竹配給の大規模公開作品でありながら、そこには「ただの商業・娯楽映画として消費されることを許さない」といったような意思までも、勝手に感じ取ってしまう。
ここまで多くの、人々の心を捉えて離さない背景にはいったい何があるのか。
■ “昨日までの自分”でいられなくなるようなできごとが起きたら、どうするか
年齢を重ね、夫も触れてこない“女としての身体”を若い男が求めてきたら?
大学生でありながら背負ってしまった150万円の借金を返してくれる人が現れたら?
25年も尽くした会社から退職を示唆されたら?
こんな時、あなたは平然と「昨日までの自分」でいられるだろうか。しかしそのマイナスのきっかけにさらされた時、見て見ぬふりをしていた「本当の自分」が姿を見せるのかも知れない。
■“欲望”に向き合い突き進むことで“本当の自分になる”ことへの美しさ
ここで、本作品に著名人の方が寄せた言葉を取り上げたい。
中谷美紀さん(女優)
宮沢りえさん演じる地味で堅実な人妻銀行員が、欲望に身をゆだね、自らを解放
して行く姿に、凡庸な日常を甘受している多くの女性は憧れを抱くことでしょう。
唯川恵さん(小説家)
梨花は自分で自分を追いつめて、自分の中にずっとあるものに向き合った。
駆け出した梨花を観ながら、「走れ!走れ!」と心の中で声援を送っていました。
憧れ、応援と、それぞれ、主人公への距離の取り方は異なるが、宮沢りえ演じる主人公・梨花に心を奪われているのが見て取れる。劇中に描かれる「自分」に向き合い正直になる姿はなかなか現実では見られない女性の姿であり、惹かれていくのだろう。今作と同じく“人間の本質”に迫る表現をされてきたお二人ならではの感想である。
家族、会社……自分を“解放”することが許されない社会。そこに、知らず知らずのうちに私たちが組み込まれていることに本作を観ると再確認させられる。
主人公梨花の行動を現実で実行する人はなかなかいないだろう。しかし映画の中の梨花に自分を投影したり重ねてみたりすることで“欲望のまま”の自分を見つめることができるのかもしれない。
主人公があなたの代わりに“欲がむき出しになった私”が行きつく先を見せてくれるのだ。
このリアリティがあるスリルを映画『紙の月』は味わわせてくれる。映画館を出た後の“平穏な日常”にあなたが戻った時、それがありがたくみえるのか、それともより空虚に感じるのか……。
自分を解放されることが許されない社会の中で、自分自身をどう捉え、どう“解放”したいのか。そんな自分の欲望を、スクリーンの上に炙りだしてくれるような傑作である。
(文:小峰克彦)
『紙の月』作品情報
原作:「紙の月」(角田光代・角川春樹事務所刊/
監督:吉田大八 脚本:早船歌江子/制作プロダクション:ROBOT/ 配給:松竹
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、
主題歌:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ『
(C)2014「紙の月」製作委員会
公式サイト:http://kaminotsuki.jp
公式Twitter:@kamino_tsuki
公式Facebook:www.facebook.com/
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