三池崇史監督の最新作、市原隼人主演の『極道大戦争』が6月20日から公開中だ。
一足先に観賞した関係者から「こんなぶっ飛んだ映画は観たことない」と噂には聞いていたが、近年稀にみるハチャメチャな内容に筆者自身中毒になり、3回も劇場に足を運んでしまった。
本作は噛まれた人間をヤクザ化させる“ヤクザヴァンパイア”になってしまったヤクザの青年・影山(市原隼人)が、親分のかたきを取るために殺し屋と闘うというストーリー。
6月26日には邦画初となるMX4D版(客席が前後、左右、上下に動き、首元や足元への振動、風、ミストなど約11種の特殊効果が連動して五感を刺激するシアターシステム)が公開されるなど、映画の“ぶっ飛んだ”内容に加えて、画期的な上映形態でも注目を集めている。
カルト×アクションの三池崇史監督がパワーアップして帰ってきた!
この作品を発表するにあたり三池監督は「サヨナラ、軟弱で退屈な日本映画。誰も望んではいませんが、勝手に初心に戻って大暴れです」と宣言。
従来の日本映画に中指をたて、本作で革命を起こそうとしているとも思えるセリフだ。
監督の初期作品には “高校生ヤクザが小学生ヤクザを統率する”『極道戦国志 不動』(1996年)があり、他にも“ヤクザ×ホラー映画”『極道恐怖大劇場 牛頭(ごず)』(2003年)など奇想天外なヤクザ映画を撮っているのが特徴的だ。
本作の公開で、数年ぶりに誰にも真似できないヤクザ映画を世に送り出したこととなる。
出血量は『悪の教典』よりも少ないかも!?
近年の三池崇史監督といえば『悪の教典』(2012年)や『クローズZERO』(2007年)など、ジャンルを問わないエンタメ話題作の監督というイメージ。
しかし本来三池監督が持っている特出した大きな魅力は、“前例のないカルト的な設定”と“倫理観を無視した、人間の動物性がむき出しになった暴力シーン”だ。
しかし今回は“床が見えないほどの血の海が何度も描写される”『殺し屋1』や、“丸腰の高校生が惨殺されまくる”『悪の教典』のように観る人を選ぶカルト×理不尽な暴力映画とは違う。
『極道大戦争』は三池監督の暴力映画にしては、血の量が少ない。刺激に餓えた、映画慣れしていない若者にこそ、観ていただきたいカルト×超絶アクション映画なのだ。
リリー・フランキーにしか“演じられないヤクザ”が沁みる。
また、本作で特筆すべきキャラクターがいる。それは主人公・影山があこがれてやまない親分の神浦。
演じるのはサブカル男子の理想の大人像であり、サブカル女子から抱かれたいという声が常に挙がるリリー・フランキー。
本作ではヤクザの組長として街を守り、一般庶民の強姦や破産による心中の現場にも子分を連れて助けに行く。
“堅気には仏のように穏やかなヤクザ”というキャラクターを作り上げた。
いままで映画出演の際は、走るシーンがなかったそうだが、今回はアクションシーンで見事な立ち回りを演じた点にも注目だ。
特に「リリーさんの日本刀が本当に当たりそうになった」という、ピエール瀧との一騎打ちのシーンでは彼の“ゆるい”雰囲気を全く感じさせない。
すべてを包み込むような優しいオーラをすべて消して、悪党への怒りを露わにするとき、男としての色気がここまで出るものかと驚かされる。
彼以外にも、本作には魅力的なキャラクターが目白押し。全員を紹介していてはきりがないので、それぞれのキャラクターをより楽しむ上で大切なことをお伝えしたい。
弱い者が持つ強い気持ちが美しい
「お前の中には、すげえ強い気持ちがある。それを中じゃなくて外に向けろ」
大切な人を奪われた小学生のマサル(坂口茉琴)を諭す影山のセリフが素晴らしい。
主要キャラクターたちの“強い気持ち”が最後にどんな行動を起こすのか、それぞれの行く末にも注目だ。
1回目は「ハチャメチャだ……」と圧倒された筆者も、3回鑑賞したことで、「本作はハチャメチャでありながら決して物語は崩壊していない!」ということに気がついた。
たしかに全体を通してみると「ごった煮」感が先行してしまうものの、
1つ1つにフォーカスすると、それぞれが持つまっすぐな常識がぶつかり合うために生じた「ごった煮」感であることがわかる。
そんな混在する十人十色な“常識”の線の中、ひときわまっすぐなのが影山だ。
彼はヤクザヴァンパイアとなり、空腹に耐えかねて、親分である神浦の「堅気に手を出すな」という教えに背き、一般人の血を吸ってしまう。
そこで彼らを元の状態に戻すために奮闘するのがよく見られるヒーローだ。しかし彼が起こした行動は真逆のものだった。
影山は弱い者に“ヤクザになる”という強さを与える。それは弱かった者たちへ、体現出来なかった強い気持ちを発揮するきっかけを与えたことと同義なのだ。
彼のまっすぐさは、身勝手に周りをみない愚直さとは異なり、自分の能力をフルに使って最善の方法へ一直線に導いていく。
ジャンルという概念を崩壊させた本作。ハチャメチャでありながらも画面の中のキャラクターたちは本気で生きている。本気だからこそ笑えるし、観た者の心に、鮮やかな色のシミを作る。
冒頭からラストカット、エンドロールにいたるまで“こうあるべき”を裏切り続けた本作。ぜひとも劇場で非日常にトリップしてみて欲しい。
(文:小峰克彦)
【作品情報】
『極道大戦争』
TOHOシネマズ 新宿 ほか全国公開中
(C) 2015「極道大戦争」製作委員会
監督/三池崇史
脚本/山口義高
出演/市原隼人、成海璃子、リリー・フランキー、高島礼子、青柳翔、
渋川清彦、優希美青、ピエール瀧、でんでん、ヤヤン・ルヒアン
配給・宣伝/日活