第28回東京国際映画祭にて「アジアの未来」部門に出品された映画『俳優 亀岡拓次』の上映が行われ、横浜聡子監督が登壇。観客との質疑応答が行われた。
あらすじ
本作の主人公は亀岡拓次37歳独身。職業は脇役メインの俳優だ。「残念で地味な人間」を演じさせたら右に出る者がいない“最強の脇役”ぶりで仕事が途切れることはないが、プライベートは安い居酒屋をひとり飲み歩く地味な生活。そんな亀岡がロケ先で出会った居酒屋の女将・安曇に恋をする。
一方、仕事でも世界的巨匠からオーディションの声がかかり、脇役人生に大きな転機が訪れるチャンスが到来!
そんな、不器用だけど愛すべき亀岡を演じたのは人気演劇ユニット「TEAM NACS」の安田顕。
硬軟を演じ分け、映画にドラマ、舞台とひっぱりだこの個性派俳優だ。
本作は他にも、山﨑努、三田佳子ほか豪華キャストが脇を彩る。原作は芥川賞候補に5回選ばれた作家・戌井昭人。監督は独特な着眼点・発想による演出で期待の新鋭・横浜聡子。
『俳優 亀岡拓次』は、松山ケンイチ主演『ウルトラミラクルラブストーリー』以来、6年ぶりとなる長編映画最新作だ。
また、音楽は『あまちゃん』を手掛けた大友良英。いまの日本の喜劇映画ファンにとっては垂涎の布陣となった。
「俳優 安田顕」には華がある
質疑応答の前に監督は「原作の亀岡はうすらハゲで、首は亀みたいに縮こまっているはずなのですが、安田さんはフサフサなので、そこの兼ね合いをどうしようかと思っていました。最初は安田さんも『形から近づけようと思っているんです』と仰ってたんですが、ヅラを被るのも出落ち感があるので……(笑)。逆に近づけるより安田さんの中から生まれる亀岡を大事にしようと思いました」と語り、この作品の制作が始まった頃のことを紹介。
観客から“安田さんを選んだ理由と主演にしてよかったと思ったエピソード”について聞かれると、「安田さんは性格が暗いところが魅力的。バラエティに出演している姿を見ると、お話も上手いし、明るいイメージがあるのですが、実は陰をもっている。でも“明るさ”は周りに照準を合わせたサービスなのに対して、“暗さ”はその人が幼少の頃からもっているもの。安田さんは大人になったいまでも“自分の暗さ”を大切にしているし、隠そうとしていないところがいいなと思いました」と絶賛。
その回答に“安田さんのファン”だという質問者もうれしそうにうなずいていた。
監督は続けて「この映画の画面に映っている亀岡拓次は凛としているんです。私が原作から想像したのは“とことん目立たない”亀岡。そのイメージに安田さんが“地味だけどついつい目で追ってしまう”華を足してくださいました。その華が最後まで映画を引っ張ってくれたんだと思います」と映画版の亀岡ならではの魅力も紹介。
原作者の戌井昭人さんについて聞かれると、「戌井さんの作品は『俳優 亀岡拓次』に限らず、ユーモアがある点が魅力。“一歩足を踏み外したら絶望の穴に落ちてしまいそうなギリギリの人たち”を悲劇として描かず喜劇として描いているんです。日陰にいるといったら言い方が悪いかも知れませんが、そういう人たちを全部肯定しているところが好きです」と答えた。
劇中には他にも、日本映画を代表する名脇役・宇野祥平が意外な役で出演していたり、安田顕の“いつでもオナラを出せる”特技が活かされたりする場面もあるとのこと。
そんな内容に関するこぼれ話が披露されると会場は大いに盛り上がった。
不器用な人は世界のスピードと合わないだけ!
“押す”ドアにも関わらず、ずっと引いてい開かない。
ソフトクリームを持った子どもが、すれちがいざまに自分にぶつかる。
自動ドアが自分の前でだけ開かないことが多い。
そんなどこにでもいる、少し残念で、どこか憎めない人。
横浜聡子監督作、映画『俳優 亀岡拓次』は周囲から「まったくもう……」と言われてしまう人にこそ観てほしい作品だ。
劇中、亀岡が著名な演出家から「あなたの中に流れる時間は……」と指摘をうける、重要なシーンがある。
この映画の主人公が劇中で称賛される“残念で地味”な魅力と、亀岡の中に流れる“人とは違う時間”が生み出す空気は、現実のスピードに疲れた“不器用な人たち”にほっと一息つかせてくれるはずだ。
映画『俳優 亀岡拓次』は2016年1月30日より、テアトル新宿ほかにて全国ロードショー。
(文:小峰克彦)
【関連リンク】
・チェリーボーイズが行く東京国際映画祭
©2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会
123分 日本語 カラー | 2015年 日本 | 配給:日活株式会社
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