成長して醜くなることを忌み嫌う、14歳の少年たち。そんな彼らが過ごす秘密クラブで起きる、残酷で切ない顛末を描いた『ライチ☆光クラブ』。
この人気漫画が内藤瑛亮監督によって映画作品となり、2月13日(土)より公開され、27日(土)から拡大公開となる。
日本のホラー・残酷映画の旗手である内藤監督は、意外にも特別支援学校の教員として働いていたことがあるという。
そんなギャップの激しい内藤監督にソーシャルトレンドニュース編集部がインタビューを行った。
特別支援学校の教員時代に学んだ、相手を尊重する伝え方
――『先生を流産させる会』の舞台挨拶を拝見した時に、内藤監督のキャストへの接し方が“担任の先生っぽい”という印象を持っていたのですが、本当に先生として働いていると聞いて驚きました。
教員の経験は監督業に影響しているのでしょうか?
「僕は以前、特別支援学校で正規の教員をしていて、退職して映画監督になりました。今も演劇部の顧問だけはやっていて、たまに講師で行きます。
教員時代に学んで、今も演出の際に心がけていることは“相手に合った伝え方”をするということですね。
特別支援学校には、ダウン症だったり自閉症だったり、さまざまな障害を持った生徒がいます。彼らに指示を出す時、障害の特性に応じた伝え方が求められます。障害特性を考慮せずに接していると、場合によってはパニックになってしまいます。
――生徒さんは具体的にどのようなパニックに陥ってしまうのですか?
「例を挙げると、自閉症の方には“急な予定変更に対応することが苦手”という特徴があります。
例えば、このインタビューが12時半スタートだと聞いていて、『早く集まったから12時から始めようか』と言ったとしますよね。僕らはお互いに対応できますが、『12時半からって言ったのに!』と混乱してしまう自閉症の方はいます。急な予定変更で泣いてしまったり、自傷や他害をしてしまったりってケースもあります。
これを解決する方法としては、『早めに来たら、前倒しで始めるからね』と事前に言っておくということですね。そうすれば受け入れてくれます。『視覚優位』といって、目から入ってくる情報の方が理解しやすいので、文字に書いて説明することもします。また、自閉症といっても、人によって症状は多様です。同じ障害でも生徒によって対応の方法は変わります。
それと同じで、映画の現場でも一方的にこちらの都合を押しつけるのではなく、“相手が納得する方法で伝えなくてはいけない”と思っています。
演出する際も、役者さんのタイプによって求めている言葉や、受け入れやすいシチュエーションってあると思うんです。
スタッフとのコミュニケーションも同様ですが、相手が前向きな気持ちで仕事できることを心がけています。
たとえ上手くいかないことがあっても、相手を責めず、自分の伝え方に問題があったのだと反省しています」
タイプが異なる野村周平、古川雄輝、間宮祥太朗の撮影現場
(上段:右から間宮さん、古川さん、野村さん)
――今回でいうと、野村さん、古川さん、間宮さんにはそれぞれどのように演出されたのでしょうか?
「3人ははっきりタイプが違っていました。古川さんは事前に演技プランをしっかり練ってくるタイプでした。ですからそのプランを元に、「ここに間をとって」「あの動きをここに」みたいに編集していくようなイメージで、「この死体につまずいてみて」と動きを少し足していきました。古川さんには好きに動いてもらって、カット割もそれに応じて直していきました。現場がざわつくくらい面白いアイディアを提案してくれるので、いつも楽しみでした。
一方、間宮さんは、感情を大切に芝居していくタイプでした。強烈な愛情が軸となるキャラクターを演じたので、とてもいいアプローチでした。
芝居の動きをつけて、『それはジャイボの気持ち的にちょっとおかしいんじゃないか』と相談されたら、それを尊重して応じていました。ジャイボの気持ちは間宮さんに聞けば分かるってくらい信頼していました。とはいえ、全体の芝居の流れ上、やってほしい動きや立ち位置などがあるので、『じゃあこういう動きならどう?』『こう捉えたらアリじゃない?』とこちら側から提案をして、“ジャイボの気持ち”と相談しながら進めました。
野村さんは、“その場の直感に基づいて演じる” 動物的なタイプでした。動きのアイディアを具体的に提案しつつ、現場でテイクを重ねていく中で、ブラッシュアップしていくパターンが多かったです。本人が『誉められて伸びるタイプ』と言ってて(笑)、なので否定形じゃなくて、肯定形の言葉遣いで声をかけました。『いい感じ。ここをこうするともっといいよ』みたいな」
――3人ともかなりタイプが違いますね(笑)。演出現場で特に大変だったことはなんですか?
「大変だったのはタイプが真逆の古川さんと野村さんが対峙する場面です。
プランをきっちり決めてくる古川さんは最初から完成度が高い。一方で野村さんはテイクを重ねていった方がいい芝居をするので、彼がどんどん良くなると、古川さんがどんどん疲れていって……(笑)。その双方のバランスがうまく重なるところを見つけるのが大変でしたね」
内藤瑛亮監督「演出で怒鳴りたくない」
――登場人物のキャラクターがそれぞれ立っていましたが、演出をする上で心がけていたことはありますか?
「衣装合わせの時に、それぞれ20分~30分くらい話す時間があったので、その際に一人一人の演出方針を固めました。
僕は演出する際に怒鳴ったり、イメージを押し付けたりする方法は好きではないので、どういうコミュニケーションをしたら、彼らの感情や動作を引き出せるのかを考えましたね。
役者も自分の中から出てきた感情に基づいて、納得してお芝居をしないと演じる本人の生きた芝居にならないと思うんです。
特に今回は本人が持ってきたイメージを広げるために、9人それぞれとできるだけ長い話し合いをして、しっかり性格を理解した上で声掛けを行いました」
――役作りにおいて現場で印象的だったことはありましたか?
「リハーサルをしていく中で一番難しかったのが、彼らが演じる“フィクション性の高い世界の住人”のレベル設定です。
やりすぎるとコントになってしまい、ただ『ライチ☆光クラブ』のコスプレをしているような印象になってしまいます。とはいえ、自然体に演じても、この世界観から浮いてしまいます。
“漫画的な佇まいなんだけど、そこにたしかに生きている”という実感を持たせるお芝居を演出するのに苦労しました」
――“フィクション性の高い世界の住人”にすぐハマれた役者さんはいらっしゃいましたか?
「キャストの中では古川さんが最初からかなり役を掴んでいましたね。リハーサル会場に来た時点で古川さんの“ゼラ”は仕上がっていました。
僕自身、古川さんを見て、『これが映画ライチの住人だ』と教えてもらった感じです。
彼を基準にしてそれぞれの芝居のトーンを作っていきました」
映画監督というと、“怒鳴って演出をする”といったイメージを持つ人が多いかもしれない。
しかし、過激な作風として知られる内藤監督は、怒鳴るといった方法とは程遠く、役者が自発的に芝居をできるように丁寧な演出をしていた。
また、取材中は、まるで先生に絵本の読み聞かせをしてもらっているかのような、穏やかな口調が印象的だった。
さて、次回は監督の代表作『先生を流産させる会』も絡めて、“コミュニティ内で君臨するカリスマ”についてなどを伺う。
(取材:小峰克彦・霜田明寛 文:小峰克彦 写真:浅野まき)
【作品情報】
主演:野村周平、古川雄輝、中条あやみ、間宮祥太朗、池田純矢、松田凌、戸塚純貴、柾木玲弥、藤原季節、岡山天音
監督:内藤瑛亮
脚本:冨永圭祐、内藤瑛亮
原作:古屋兎丸『ライチ☆光クラブ』(太田出版)
配給・宣伝:日活 制作:マーブルフィルム
©2016『ライチ☆光クラブ』製作委員会
公式HP:http://litchi-movie.com/