今回は、当たり前すぎて、あえて「なぜ好きか」なんて考えたこともないという人が多そう……ちょっとニッチ?なテーマ、「シールヲク」について!
日本人が全体的に、なんとなく好きな「シール」文化
「シール」について少し調べてみたところ、日本では「表面に図柄がプリントされた、糊付きの紙片」という広い意味で使われています。しかしどうやら、英語圏では大きさや用途によって呼び名が分かれていて、日本の「シール」のように“貼る紙”をひとくくりで表す単語はないようです。
そんなことからもわかるように、日本人ってきっと、シールを“嗜好品”として好きなんですよね。
スケジュール帳に貼るのは定番ですし、「ビックリマンシール」とか、収集としての人気も根強い。そういえば、プリクラもシールといえばシールだし……。
LoFtや東急ハンズに行けば、まあまあ広めのシールコーナーが展開され、しかも結構にぎわっています。
なぜ、特に女子たちは、こんなにも「貼ってはがせる紙片」が好きなのでしょう?
「シールヲク」に、聞いてみました。
「シールヲク」に聞いてみた
現在29歳、デザイナーのNさん。いろんな趣味を持っているものの、「シール」については、特にこれまで趣味として公言していなかったようです。
しかしわたしは、友人として傍で見ていて気づいていました。明らかに、シールに対する愛は普通じゃない!昔から淡々と集め続けているのを知っています。そう、言うなれば“ナチュラル・ボーン・シールヲク”。
どうやら本人も、あえて理由なんて考えたこともなさそうです。彼女にとって、「シール」とは一体なんなのか? 聞いてみました!
シールにしかない魅力を語る!
「だって持ち歩けるから」
「シールは物心ついた頃から、ずーーーーーっと集めてます。なのでこの前、引っ越しする時、めちゃめちゃ重かったです……。いい加減捨てようかなとも一瞬思ったんですけど、やっぱり捨てられなくって」
――でもぶっちゃけ、シールって、そんなに使いどころあります?
「だって、シールは持ち歩けるから」
――……えっ? どういうことですか?? 貼らないの?
「わたし、マスキングテープもシールと似ているから、ハマるかなーと思って手を出したことがあるんです。で、かなり集めたんですけど……途中で『あ、わたしこのマスキングテープ、一生かかっても使い切れないな(笑)』って気づいちゃって。それからはマスキングテープを買うのは、ちょっと抑えるようになりましたね。でもシールとかステッカーは、違うんですよ! 持ち歩けるじゃないですか!」
彼女はこの時点で、「好きなものは持ち歩きたい」という感覚が、万人に共通する嗜好ではない、ということに気づいていないのだ! 「マスキングテープは持ち歩けないけど、シールは持ち歩けるから集めてもいい」という、彼女の独自理論を、さも当然のようにキラキラと話すものだから、一瞬、「あ、そういうものだっけ……?」と、ほだされかかった。愛は盲目とは、まさにこのことかもしれない……!
――……いや、ちょっと待ってください! シールだって一生かかっても使い切れなくないですか?
「え、でも。マスキングテープは持ち歩くには重いし、かさばるじゃないですか。でもシールは重くないし、手のひらサイズだから持ち歩けて、いいんですよ~!」
――実際に「貼ること」よりも、「持ち歩くこと」の方が大事だと?
「いや、もちろん貼りもしますよ! でもシールって、貼るのも楽しいけど、眺めているだけでも楽しいんですよね~。お守り的な感じかな。自分が好きなものを持っているという幸福感っていうか。そういうのって、ありません? わたし、昔から、好きなものは持ち歩きたいタイプなんですけど、その点、シールって一番ピッタリなんですよね! スケジュール帳に貼る用と、眺める用とをかばんに入れてるんです。あ、今も入ってますよ!」
――マジすか!! ちょっと見せてください!
▼そして見せていただいた実際のシールがこちら。
右が今、一番お気に入りという“眺める用”で、真ん中が“スケジュールに貼る用”。左は、はっきりとした用途はわからないが、六本木ヒルズで開催されていた『美少女戦士 セーラームーン展』で作ったというお名前シール。
「小学生の時って、女の子同士でシールの見せっことか、交換とかしませんでした? わたし、シール用の手帳を2、3冊持ち歩いてましたよ~。そのせいで、かばんめっちゃ重かったですけど(笑)。かわいいシールを見つけたらその手帳に貼って、『みてみて~! こんなかわいいの見つけたの~!』みたいな感じで、友達に見せてました。シールって持ち歩けるし、人にあげられるのが好きなんです。……え、やりませんでした?」
――人並みにはやったかもしれないですけど……わたしの場合は結構、シールとかって持て余しちゃうんですよねえ~。「そんなに貼るところなくない?」って実用的に考えちゃうんです。そういうのは、ないんですか?
「ないですよ!! 見せ合ったり、交換したりも好きでしたけど、新しいノートの表紙にシールを貼ることに、すごいこだわりを持ってましたもん! 今もメモ帳の表紙とかに貼ります。こんな感じですね」
――は~~~! 確かにすごいこだわりを感じる……でも、かわいいですね! 新しいノートとか手帳になるたびに、テンションあがりそう!
「そうそう! たまに衝動的にノートにシールを貼りたくなる時があるんです(笑)。そのために新しいノートを出したりします。別々のパーツを組み合わせるのが好きなのかもしれないです。あと、シールを貼ったら、そのノートの特別感が増すじゃないですか! 貼ったらもう剥がせない覚悟もいるし。でも、頻繁に使い続けるものにはあんまり貼りたくないんですよね……。本当は貼りたいけど、シールがすれちゃうのが嫌なので。だから、“貼ったシールを保護するためのシール”が欲しいって、ずっと思ってるんですけどね~」
――シールを保護するための、シール!! それは……新しい発想ですね!
最初にも少し書いたが、彼女は美大を卒業後、デザイナーとして働いている。学生時代にもコラージュやシールの作品を多く作っていたが、もしかしたら彼女のデザイナーとしての原点は、こんな風に「いろんなシールを組み合わせて構成する楽しさ」から来ているのかもしれない……!
「自己満なのは自覚してるんですけど、1人でも楽しめるから……ライフワークみたいなものです(笑)。それに、今のシールってどんどん進化してるんですよ~! 昔はイラストものしかなかったけど、今は写真を使ったものとかアンティーク調のものとか、大人の女性でも使えるものも多いですしね!」
▼彼女のシールコレクションの一部。
友達へのプレゼントに使ったり、最近だと結婚式の招待状を返事する時に、シールでデコったりするらしいです。
シールから広がる愛
「最近、わたしがすごく欲しくて買ったのは、“iPhoneの絵文字”シールですね。しかも、Amazonで買ったんですよ! シールをAmazonで買うって、我ながら珍しいんじゃないかとは思いましたけど(笑)。でも、すっごくかわいいんですよ~~!」
――iPhoneの絵文字……!? って、ちょっとシュールなイラストのですよね……?
「そうです! 今、流行ってるんですよ~! 最近はこういう、“ただかわいいだけじゃないシール”とか、後は“実用目的のシール”も好きです」
▼Amazonでわざわざ買ったという、“iPhoneの絵文字”シール。お気に入りすぎて、なかなか使えないらしい。
――実用目的のシール……とは?
「“熊出没”のシールとか」
――!?!?
「あとは、スタバの豆乳ドリンクに貼ってある“SoyMilk”ステッカーとかも、コップから剥がして持って帰ります。ショップバックを留めるシールとか、果物に貼ってある産地を表すシールとか……値札とかでも、“なんかいいな”と思ったものは、剥がして手帳に貼ったりしますね」
――……値札!?
▼こちらが彼女が言う“実用目的のシール”コレクションの一部。
「これまでは、いわゆる世間一般が“かわいい”と思う大衆的なシール……つまり、“ムダでしかないけど、かわいいシール”を夢中で集めてたんです。でもある程度そこをやってきて満足したから、次のステージというか、“実用的だけど、かわいくないシール”に興味が出てきて。それって、本当に“貼って剥がされるためだけ”に生み出されたシールじゃないですか。剥がされた途端に実用性を失って、“何?このシール”ってなっちゃう。そういうのが媚びてないっていうか、潔さみたいなものを感じて……かっこいい!って思うんです。それを今度はわたしが“かわいいコレクション”に入れるという」
わたしは(というかおそらく大多数の人が)シールに「潔さ」なんて感じたことはないですが、彼女はシールに対して、どこか人間的に見ているところがあるようです。そこで気づいたのですが、彼女にとってシールとは、もはやただの物質ではなく、「その時の自己を投影できるモノ」なのかもしれませんね! 例えば「こんな視点も持てるようになった自分」とか「人の役に立つために、まっすぐ生きたい自分」とか。彼女自身が、そういう“実用的で、潔のいい人間”になってきた、ということなのかも。
――つまり、「媚びてないシール」が、Nさんの今のシールトレンドということですかね?
「そうそう、今のシールトレンド(笑)! その時その時で好きなシールの傾向も違うから、いつか集めた順に並べたりしてみたらおもしろいかも~とか思いますね。あ、でも……わたしにとってシールって、そういう存在なのかもしれないです。後で見返した時に、その時、そのシールに感じた気持ちや感情を、とっておけるモノっていうか……。だから“熊出没”シールとか、値札とかも、それを見て“ダサい”とか“おもしろい”と感じた、今のわたしの記録的な感じなのかな」
――は~~~! なるほど~~。今の記録……そういう視点でシールを捉えたことなかったけど、そう思うと確かに世の中ってシールで溢れているし、お手軽でいいのかも……!
でも、ということは、いつどこで手に入れたシールかっていうのは、だいたい覚えてるのですか?
「たぶん、ほぼ全部覚えてると思いますよ! シールって、一期一会なんですよね。その時にしか出会えないシールがいっぱいあるから、旅先でもだいたいシールを買ったり手に入れたりするし……」
「シールとは、一期一会」。なんか、それっぽくてかっこいい……! しかしこの言葉にも、彼女がシールに対して「今現在の自分自身」を投影しているような部分を感じられます。そういう、「いろんなシール(人)と出会いたい」というのも、またひとつ、今のNさんの“自分らしさ”だとすれば……。
――つまりNさんは、世の中にまだまだあるはずの、見たことのないシールを発掘したい、と?
「そう……そうなのーーーーーーーーー!!! なんていうか……シールシールしてないシールと、出会いたい!」
(シールシールしてないシール)
(シールシールしてないシール)
※二度目
……て、どんなんやって感じですが、名言っぽいのキターーーーーーーーーー!!!
――いや~、正直なところ、シールにそこまでのストーリー性があるなんて考えていなかったので、今日は新たな可能性を見た気がします……!
「それにしても、わたしって何でこんなにシールが好きなんでしょうね……? みんなも自分が好きなのと同じようにシールが好きだと思ってたんですけど、違うのかな?」
やっぱり、自分の愛の形が、みんなにも当たり前だと思っていたのですね……! いえ、そういう、自分を客観視できないところもまた、広がってしまう愛というか、「オクウ」らしいところだと思います。
――値札まで愛せるのは、かなりの「シールヲク」だと思いますけどね(笑)。
「シールヲク」の愛をまとめてみる
と、いうことで! 今回のヲクのケースをまとめてみます。
・シールとは、一期一会であり、今現在の自分自身。
・シールが好きすぎると、値札まで愛せる。それもまた、今の自分。
女子の“好き”は果てしない――。
次はどんな○○ヲクの心の中が明らかになるのか!?
こうご期待!
(文・イラスト:佐藤由紀奈)