「熊本地震」から、まもなく3年。現在も復興に向けた動きが活発に行われています。
人々の命や健康を守る医療機関もこの例外ではありません。熊本県では、こういった有事の際にも、より適切でスピーディーな処置ができるよう、新たな取り組みが始まっています。今回は、全国に先駆けて始まったこの取り組みに注目します。
医療現場をつなぐ新たなネットワーク
熊本県、熊本県医師会、熊本大学医学部附属病院が運営している「くまもとメディカルネットワーク」は、医療施設や介護施設など(※)を結ぶネットワークシステム。施設を利用する患者さんや利用者の診療・調剤・介護に関する情報を共有し、医療・介護サービスに活かしています。
参加者(患者さん)の受診時の状況や治療歴、検査データ、画像データ、あるいは生活介護状態などが利用施設に共有されることで、より質の高い医療や介護を受けることができるようになるのです。このネットワークは、地震などの緊急時にも、大いに役立ちます。
2月某日、熊本地震で実際にどんな困ったことがあったのか、家族や親族に震災経験がある方、熊本にゆかりがある方々にお話を伺うことができました。
参加者が震災時に感じたこと
「熊本市にある実家が、震災にあいました。足の悪い祖母が避難生活をしていたのですが、とにかく水の確保が大変だったようです。トイレは、お風呂に水が貯めてあったからなんとかなったという話も聞きました。いつもと勝手の違う暮らしに、不安やストレスを感じていたのではないかと思います」(M・Hさん)
「今は関東に住んでいますが、主人が益城町の出身です。情報発信で被災地の役に立ちたいと思ったのですが、デマもたくさん流れていて、躊躇してしまいました。信頼できる情報がわからなくて、もどかしかったです」(M・Sさん)
「私は九州でお天気キャスターの仕事をしていて、普段はTwitterでお天気や、警報情報などを発信しています。熊本の災害時に感じたことは、避難指示など大切な情報がテレビで伝えられていても、見ている人に当事者意識がないことが多く、全然避難してくれないというジレンマです。どうしたら皆さんに緊急性のある情報を自分ゴトとして受け取ってもらえるのか、日々、他の気象予報士と一緒に伝え方に悩んでいます」(A・Sさん)
専門家が解説する「くまもとメディカルネットワーク」
参加者の方のお話から、災害時は“いつも通り”の日常がなくなることや、信頼できる情報が分からない、緊急性のある情報を自分ゴト化できないといった、問題があることが分かりました。
このような話を受けて、会に参加されていた熊本県医師会の金澤知徳先生から、「くまもとメディカルネットワーク」が緊急時どのように役に立つのか、具体的な活用法について、説明が行われました。
震災時にも県民を守るネットワーク
「皆さんのお話にもあった通り、災害時は正しい情報を共有し合うことが何よりも大切です。有事の際は医療機関が指定できないことが多いですが、『くまもとメディカルネットワーク』で事前につながることで、過去の診察歴が分かります。信頼していた病院のデータを使って診察を受けられるのです」
「2016年の熊本震災当時には、仮の診療所にいる医者の手元にカルテがなく、糖尿病の方にインスリンが打てなかった例もありました。『くまもとメディカルネットワーク』はこのようなケースをなくすために存在しているのです」
熊本県民なら誰でも簡単に参加が可能
「くまもとメディカルネットワーク」は、熊本在住の方であれば、加入施設に「同意書」を提出するだけで参加が可能。申し込みに際して費用も必要ありません。
よりスムーズで安心できる地元医療へ
また、「くまもとメディカルネットワーク」に参加していれば、災害時だけでなく、かかりつけの医者を利用できない事故や救急の際など、いざという時にもスピーディーな対応を期待でき、結果、安心にもつながります。
日頃の診療や入院した際にも、このネットワークを通して、かかりつけ医と専門医とのスムーズな連携が行なわれるのです。
在宅介護の現場では、医師・訪問看護師・ケアマネージャ、介護サービス事業所など……、介護に関わる人が、動画や写真などを交えつつ、その時の状況を報告・共有できるよう活用されているそう。
金澤先生が「医療従事者全体が、患者さん一人ひとりの体のこと、そして、心のことを把握し、サポートできるネットワークにしていきたい」と説明されていたのも印象的でした。
震災を経て、よりネットワークを強化させている熊本県の医療機関。このような自分の医療や健診のデータが残っていくサービスに参加登録して、平時からしっかりと備えをしておきたいものですね。
〈問い合わせ先〉
くまもとメディカルネットワーク サポートセンター
フリーダイヤル 0120-25-3735