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自分の女の全裸を見て興奮する男をバカにする喜び 音で不穏を描き続けるエストニア映画

霜田 明寛

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霜田 明寛

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今年の東京国際映画祭には、何本か戦争映画が出品されているが、エストニア映画である『ルクリ』もその一本だ。

「私の中には大勢の死者が生きている」というフレーズで始まるこの作品は、詩的で、難解なもののうちに入るだろう。

塚本晋也『野火』にも近い戦争表現

戦争映画でありながら、激しい戦闘シーンなどはない。戦闘機の轟音や爆弾の音などが、不穏に響き続ける。

日本映画で言えば、キングオブコメディの今野浩喜の表情がスクリーンに大うつしになったレベルの不穏感である。
もう少し真面目な例えをすれば、塚本晋也監督『野火』での戦争シーンに近い。爆撃をしている相手が誰なのかわからないまま、惨状が描かれていく。

並行して描かれる“感情の戦争”

登場人物たちについても、多くの情報が明かされることはない。だが、情報が少ないがゆえに、登場人物同士の関係性は、ヒリヒリするほどの緊張感とともに伝わってくる。

主人公は姉の夫を、バカにしており、姉の夫も「俺が凡人だからいらつくのはわかる」と、自分を下におく。

主人公が前半で最も感情を露わにするシーン。それは、自分の女がシャワーを浴びているところを覗いている、姉の夫を発見するシーンである。

かねてから、姉の夫をバカにしていた彼の感情は、ここで、怒りではない方向に昂ぶりを見せる。そして中盤、登場人物同士の感情のぶつかり合いにつながっていく……。実は音響的にも、このシーンが最も激しく、小さな世界での“感情の戦争”といってもいい、やりとりが続いてゆく。

戦争映画でありながら、人間同士の関係性も恐ろしく描く意欲作となっている。

(文:霜田明寛)

『ルクリ』チケット購入はこちら
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=25

『ルクリ』 コンペティション部門
監督:ヴェイコ・オウンプー
キャスト:ユハン・ウルフサク、ミルテル・ポフラ、エヴァ・クレメッツ、ペーテル・ラウドゥセップ、ラウリ・レーグル、メーリス・ラムメルドゥ、タムベトゥ・トゥイスク、ターヴィ・エルマー
(C)Filmiühistu “Roukli”

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