ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

中国のエリート映画『少年班』を見て、東大専門塾「鉄緑会」の日々を思い出した

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東大受験専門エリート塾での日々

中学校1年生から、高校2年生までの5年間、東京大学受験指導専門塾・鉄緑会という塾に通っていた。1998年から2002年のことだ。

東大現役合格を目的としたその塾は、偏差値が一定以上ある指定の中学校に通っていないと、基本的には入塾が認められない。開成・麻布・武蔵、桜蔭・女子学院・雙葉……といった中高一貫の男子校&女子校の生徒たちが集っていた。

中学校の最初1年で中学校3年分、中学の3年間で中高6年間分の勉強をしてしまうというカリキュラムの驚異の進学塾。
ときくと、なんだか非人格な勉強マシーン養成所のような感じがしてしまうかもしれない。

だが、そこで何が起きていたかというと……たくさんの恋が生まれていた。
“勉強の合間に恋をしていた”つもりが“恋の合間に勉強をするようになっていた”ような人も多数いた。

何かに秀でると、何かに欠けてしまう

と、そんな、僕の中では、ほぼ封印していた個人的なエピソードをいきなり語りだしてしまったのは東京国際映画祭で『少年班』という中国映画を見たからだ。

少年班とは、全国からIQの高い子どもを集めて、大学で教育を受けさせるという、中国の制度のこと。この映画ではその少年班に入れられた少年少女たちが描かれる。
だが、何かが秀でていると、何かが欠けているもの。その“欠けたもの同士”が色々な問題を起こしていき……という展開の物語だ。

エリートだって恋もするし、童貞だ

鉄緑会での自分たちと比べるのはおこがましいが、どこの国でも、起きていることは同じなんだなあ、と感じた。勉強をしなくちゃいけない中だけど、恋がしたい。恋をしてしまう。

劇中の先生は「知識との戦いに集中しなければ君たちの才能は開花しない」と生徒を煽るが、そんな正論通りにみんなが動けたら、世の中はエリートで溢れるはずだ。

だが、正論通りに動けないからこそ、人は面白い。この映画でも、勉強以外の部分の描写にかなりの時間を割いている。勉強ができるのは基本の土台。それ以外の部分が、彼らの個性を生み出し、それぞれを魅力的なキャラクターにしている。

そして、当然恋もする。小・中学生の年齢で大学に放り込まれると、たくさんの誘惑が周りに存在する。そこでの細かな感情の揺れ、女子を見る視線、好きな女子に“女”を見てしまった時の悲しさの描写は、童貞映画としても素晴らしい。

東大卒の塾講師は落第者か?

鉄緑会の先生は、全員が東大生もしくは東大卒業生、というのがひとつのウリだった。だが、ある日、生徒のうちのひとりが授業前にこんなことを言っていたのを、今でも深く覚えている。

「現役の東大生の先生はいいけどさ、卒業して塾講師してるって、東大ではダメだったってことじゃね? 医者とか弁護士になれなかったってことだろ!」

これを先生が聞いてしまったらどう感じるんだろう、というのが、とても怖かった。一方、確かにそうかもな……と思ってしまった自分もいた。だが、やはりというか不思議と、と言うべきか、いい先生は卒業して塾講師という職業を選んでいる人に多かった。
そのからくりが、あれから15年以上経った今、この映画を見てわかった気がした。

「出来そこないです。だから理解できるのです」

この映画で登場する少年班を率いる先生は、自身も少年班の出身だ。問題を起こす生徒たちにも大きな理解を示すが、校長には「お前は少年班の中では出来そこないなんだ」と批難される。

その時、先生はこんな答えを返した。

「出来そこないです。だから理解できるのです」

正論通りに動けなかったからこそ、根っからのエリートになれなかったからこそ、“ちゃんとは生きられない”少年たちの理解者になれる。
欠けている部分の大きさは、他者への理解を示せる心の大きさにつながっているのだ。

誰もが何かの出来そこない、と言ったら言いすぎかもしれない。でも、勉強じゃなくたっていい。完璧な人間よりも、そうじゃない人間のほうが、この世界には多いはずだ。そんな“正論通りに生きられなかった人”には、とっておきの一本になるに違いない。

(文:霜田明寛)

【関連リンク】
チェリーボーイズが行く東京国際映画祭

『少年班』東京国際映画祭作品ページ

<作品情報>
製作 : チェン・クオフー
監督/脚本 : シャオ・ヤン
キャスト:スン・ホンレイ、チョウ・トンユイ、トン・ツージエン、ワン・ユエシン、リウ・シーロン、リー・ジアチー、シアティエン★
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105分 北京語 カラー | 2015年 中国 | 

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