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古川雄輝に聞く『イニシュマン島のビリー』舞台裏から見えた、芝居に対するプロ意識

佐藤由紀奈

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佐藤由紀奈

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アイルランドの劇作家マーティン・マクドナーの人気ブラックコメディ『イニシュマン島のビリー』が、森新太郎の演出により、世田谷パブリックシアターにて上演される。
出演者には、古川雄輝、鈴木杏、柄本時生、山西惇、江波杏子ら実力派キャストが揃った。

主演を務める俳優・古川雄輝は、ここ最近はドラマ・映画などの映像作品で実力と経験を積んでおり、二年ぶりの舞台出演となる。
今回の舞台で演じるのは、身体にハンディキャップを持ったアイルランドの少年・ビリー。
そこにかける思いや、芝居に対するスタンスなど、彼の真面目さ・まっすぐさが伺えるエピソードを聞かせてもらった。

二年ぶりの舞台出演は「アイルランドのブラックコメディ」だけど……

――二年ぶりの舞台ということで、出演が決まった時は、どう思われましたか?

「嬉しいというよりは、どちらかというと緊張と不安とプレッシャーが一番大きかったですね。
舞台は映像と比べるとあまり多くやっていないですし、共演するメンバーがかなり実力派のみなさんじゃないですか。
自分が座長とはいえ、その人たちになんとか芝居でついていかなくてはいけない、という思いがあったので、最初はプレッシャーが大きかったです」

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――本作はアイルランド戯曲が原作ということですが、役作りのために、アイルランドの歴史的背景に思いを馳せる時間もあったのですか?

「アイルランド人の気持ちを伝えなきゃいけないセリフがあるんですが、そういうのって、あまり日本人には馴染みがありません。なので、演出の森さんが“これは見た方がいい”と言った映画を、合間に観たりはしました。
かといって、僕がいつも思っているのは、そこにこだわりすぎても、観ている人には伝わらないということ。
観にきてくれるのは日本人で、アイルランドのことを詳しい人なんてそういない。知識として持ってはおいても、あまりこだわらない方がいいかなと思っています」

――歴史的背景がわからなくても、観ていて楽しい作品ですよね。

「ブラックコメディで、コミカルなシーンが多いです。今回、たぶん舞台は初めてっていう人もたくさん観にくると思うので、その分、見やすくはなっていると思います」

身体への負担が半端ない……初日直前まで続く猛稽古

――ビリーは身体にハンディキャップを持った役ということで、首を曲げていなければいけなかったりと、かなり無理な体勢ですが、あれを“普通”に見せるのは、大変だったのではないでしょうか?

「大変ですし、森さんから“やっとこれで普通にいける状態になった。この体勢とこのお芝居を崩すな”と、OKをもらったのは、二日くらい前です」
※取材を行ったのは、上演初日から三日前の3月22日(火)。

――どういう過程を経て、OKに至ったのでしょうか?

「筋肉が通常の状態に戻ろうとするのを抑え込んで、ずっと力を入れてなきゃいけないのですが、三時間出っぱなしだと、どうしても戻って来てしまう瞬間があるんです。
でも森さんには“それは素人にはわからないかもしれないけれど、玄人はそこをよく見てる”と言われました。“あそこはリアルに演じてないっていうのがどうしてもわかるから、それはもう、ふんばってでも首は曲げてなきゃダメだ”と。
身体への負担はかなり大きいので、週一でマッサージ通わないと、正直もう、体中が痛くて、やばい感じです」

――OKが出ても、稽古が終わるとその感覚を忘れてしまう……ということはないですか?

「毎日やっていて、稽古時間も通常の演出家さんよりもかなり長いので、それはないですね。家にいる記憶がほとんどないくらい稽古場にいるんです。
家に帰っても、ちゃんとお風呂に入って、ストレッチして、次の日のご飯を作って。で、起きたらもう次の日って感じなので、常にビリーの状態かもしれないです。

ビリーって基本、膝をこう……くっつけて座るんですけれど(実際に膝を内股にしてくっつけながら)。毎日この体勢で座っていますからね。気づいたら僕も、なんとなくこう座っちゃう。だからたまに、電車の中とかでも、こうやって座っちゃってました」

――普通にしていても、その体勢が出るくらい染みついてきているんですね。

「足はそうですね。首はまだ……。首は、二週間くらい前に急に首曲げてって言われたので」

――そうなんですか!? 最初から首が曲がっている設定だったのかと思っていました……!

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(確かに、二週間より前に行われた通し稽古では、首はまだ曲がっていなかった)

実力派共演者たちの中で、
古川雄輝がこだわるのは「みっちりと」

――脇を固める方もすごく達者な方ばかりでしたが、そこに座長としてどう対峙されたのですか?

「もう、最初から、ただただ不安なだけです。
みなさんすごく上手いので、本読みの時点から上手いですし、演出家に言われたことにすぐ適応できるんですよね。そういうのは、僕にはない。なんとか必死についていかなきゃいけないな、という思いでやっている感じです」

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「演出の森さんは変更点が多いのですが、そうすると景色が変わるんです。さっきまでここで言っていたセリフを、別の場所で言うだけで、セリフが出にくくなるんですよね。
例えば鈴木杏さんは上手いので、どんな変更点をその場で出されても、スラスラッとできる。やっぱりそういう実力は付けなきゃいけないなと思います。
そうやって上手い人に囲まれながらやっているので、勉強にはなりますけれど、非常にプレッシャーでもあります」

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――柄本さんとは、つい先ほどまで生放送に出演されていましたね(※LINE LIVE『さしめし』3月22日放送)。
古川さんは頭の回転が早くて、司会的な立ち位置でも振る舞っていらっしゃいました。
ああいった脳みその使い方と、芝居の時の脳みその使い方というのは違うものなのですか?

「違いますね。でも、僕が目指しているのが頭の回転の早い俳優というだけで、必ずしもそうである必要はないと思います。

例えば柄本くんが、さっきの放送のようにMCがあまり慣れてなくても、その慣れていない素の状態のままでカメラの前にいられるというのは、ひとつの強み。

柄本くんは今回バートリーという役をやっていますけど、常にストーンと、リラックスした状態でお芝居ができている。それって、なかなかできないことなんです。
緊張が出てくると、どこか手がプランプラン動いていたり、セリフを言うたびに体が動いちゃったり。それをせずに落ち着いた状態でいられるというのは、上手い証拠。あれはあれですごいと思います」

――古川さんは、演技ではそうならないように気をつけているのでしょうか?

「映像でもそうですけど、けっこうみっちり決めてやる方ですね。
変更が嫌いなんです。変更が出れば出るほど、その分練習が減ってしまう。
みっちり決めて、みっちり稽古して、お客さんの前で披露したいんです」

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――『ライチ☆光クラブ』で内藤監督にインタビューした際も、“古川さんはちゃんと作ってくる人だから、こっちがテイクを重ねないように気をつけていた”とおっしゃっていました。今作はどうですか?

「今回に関しては、いい意味であまり考えていません。というのも、森さんからの指示がかなり的確に出されるんです。やっぱり映像と違って、稽古が一カ月ありますから。
“ライチ”の時は、5分間ですべてを決めなくてはいけなかった。その5分に勝負をかけるので、みっちり考えました。でも今回は演出家がしっかり教えてくれる状態なので、あんまり深く考えていないですね。
それで、ダメ出しで言われたところは、考えてから次の日入るようにしていました」

――個性的すぎるキャラクター揃いですが、その中でも、古川さんが一番好きなキャラクターは誰ですか?

「僕は、ジョニーパティーンですね。
ジョニーパティーンを演じる山西さんは、前々から俳優さんとしてずっと気になっていた方なんです。今回のジョニーパティーンも、非常に素晴らしくて。
発散する役なので、大声を出したり、やっていて気持ちいいと思うんです。
僕はどちらかというと押さえこまなきゃいけない役柄なので、それは発散するのと比べると、気持ちよさはないというか……自分も、挑戦してみたいとは思います」

地道な下積みで磨いてきた「NGを出さない演技」

――脚本を年明けから頭に入れていたとのことでしたが、早めに準備を開始されたんだな、という印象です。

「事前に準備をしないと、できないタイプなんです。もしその日に台本を渡されて、やれと言われたら、たぶんできませんって言いますね。
でもそれは、俳優として育った環境によって違うと思うんです。

常に主演をはっていた人は、突然台本を渡されて、準備をしていない状態で演技しても、ある程度許される環境で育ってきたんだろうと思うんです。
一方で “主演じゃない立場”で育った人たちは、“主演”の人に比べて、NGを出せないんです。NGを出しても、撮り直してもらえない。
そういう環境下で育っている分、より不安になって、セリフもみっちり覚える。そういう人が多いと思います。

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――最近は主演格で呼ばれることも多いと思いますが、そうなっても、その頃からのクセが抜けないのでしょうか?

「クセがというか、芝居が上手くない分、セリフくらいはちゃんと言えたほうがいいなっていう風に思っているんです。上手い人は別に間違えていても、次に絶対できますからね。下手な分、セリフくらいはちゃんと言えるようにしておかないとな……っていうことなんです」

本人は「芝居が上手くない」と話していたが、通し稽古を見学した際、実力派キャストの中でも、しっかり主演としての存在感を放っていた。
しかし、22歳という役者としては遅めの年齢からキャリアをスタートし、ほぼオーディションで役を得てきたという努力家。着実に一歩ずつステップアップしてきたからこその、芝居に対する真面目さがうかがえた。

「役者人見知り」の古川雄輝が仲良くなる人のタイプとは?

“役者人見知り”だという古川さんの、パーソナルな部分が垣間見えるエピソードについても聞かせてもらった。

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――元々、役者として山西さんが気になっていたということですが、舞台裏では何か話されたのですか?

「話したことは、ないです」

――他の共演者ともでしょうか?

「ほぼ……そうですね。それは役者人見知りだから、です」

――違う現場でも、そうなのですか?

「みんな自分の目標がある中で勝負している世界なので、和気あいあいとやるような関係性ではないというか……。仲良くなる人もいますが、ほぼほぼ、ならないですね」

――役者以外の友達と遊ぶことが多いのでしょうか。

「やっぱり高校・大学の頃からの友達が多いですね……。こっちの職業のこともあまりわからないので、リラックスして遊べます」

――相当なプロ意識を持ってお仕事をされていると思いますが、そうすると、友達と話が合わなくなってくる、ということはないですか?

「いわゆる“サラリーマン”の方の仕事と、僕の仕事とを比べないので、そういう風に感じることはないですが、同業者同士で感じることはありますね」

――芸能界って、挨拶とか、体育会系のイメージがあります。

「そうですね。基本、僕があんまり“せんぱーい!”みたいに行くタイプじゃないので、難しいですね」

――実年齢と芸歴が、ここまで逆転する業界も少ないですよね。

「特に僕は22歳から始めたので、逆転しちゃっているんです。それこそ鈴木さんも柄本くんも、同い年と年下だけど、先輩。それを気にする人、気にしない人でまた分かれますし……」

――相手がそういうのを気にするかどうかで、出方を変えるのですか?

「だから最初は、喋らない。見ているんです。
見ていると、“あ、この人は、たぶんこうなんだろうな”っていうのがわかってくる」

――では役者さんに関して言えば、古川さんが仲良くなる人の条件というのは?

「自分のためだけではなく、誰かのために頑張っている人。しっかり、真面目に仕事に取り組んでいる人。
柄本くんもそうだし、“ライチ”で言ったら、池田くんがそうですね。どういうスタンスで仕事をやっているか、というのが気になるタイプなので、そこが一致すると仲良くなれますね」

――それはすごく大人な考えに思えます。さきほど『さしめし』では、「精神年齢が15歳から変わってない」とおっしゃっていましたが……。

「いや……大人じゃないですね。
仕事中は極力出さないようにしていますが、出ちゃう時もあります。特に、怒っちゃうのは、やっぱりまだ子どもだなって思いますね。

適当にこの仕事をすることが嫌いなんです。なので、そういう“適当”になってしまう場面だと、自分にも周りにも怒ってしまうことがありますね。
そういう部分が子どもだなと思うので、直さなきゃいけないなと……」

――いえ。そういったことをなかなか言えない大人もいるので、逆にかっこいいと思います!

演劇界注目の若き演出家とのタッグで、さらに広げる役者の幅

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――以前のインタビューで、役者の幅を広げたいとおっしゃっていました。今回もいわゆる“イケメン”ではない役ですけども、いかがでしょうか。

「これもまた、出会えてよかった作品だなと思っています。
一風ちょっと変わった役をやったっていうのもそうですが、森さんとやったっていうのも、またひとつのポイントですね。
これからおそらく舞台界で頂点を極めていく演出家のひとりと、この時期に会えているっていうのは、嬉しいですよね。

次、『太陽』という映画も公開されますが、その入江悠さんも若い監督ですし、“ライチ”の内藤瑛亮さんも若い監督でした。
そういう若い方とご一緒できるっていうのは、同じ時代を歩んでいく監督や演出家さんと出会えているということなんですよね。今回も森さんとやれるということで、僕にとって、非常に貴重な作品になると思います」

(取材:霜田明寛・佐藤由紀奈 文:佐藤由紀奈 写真:浅野まき)

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『イニシュマン島のビリー』
作:マーティン・マクドナー
翻訳:目黒条 演出:森新太郎
出演:古川雄輝/鈴木杏/柄本時生/山西惇/峯村リエ/平田敦子/小林正寛/藤木孝/江波杏子

■世田谷パブリックシアター (東京都)
16/3/25(金)~16/4/10(日)
■梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ (大阪府)
16/4/23(土)~16/4/24(日)

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