今回は、歌って踊る“女の子の”アイドルを愛する女子たち、「アイドルヲク」について!
意外と多い「“歌って踊るかわいい女の子たち”を愛する女の子」たち
日本独特と言われる「アイドル」文化。2010年頃から激化したと言われる女子アイドル戦国時代も、さすがにもう終焉を迎えつつある……という意見もあるようですが、メジャーアイドルだけでなく、地下アイドルやご当地アイドルまで含めれば把握することは不可能なくらいの数が存在しており、むしろ裾野は広がり続けています。一大ブームは去ったとしても、ここからしばらくの間、アイドル文化が死ぬことはないだろうなーと思います。
そんな女子アイドルを愛するのは、男子たちだけではありません。女子のファンというのは、必ず一定数存在します。しかし「女子アイドルを愛する女子ファン」というのは、おそらく今の30代後半以降には少ないのではないでしょうか。というのも、今現在の女子アイドル戦国時代の系譜をたどると、2000年頃に起こった『モーニング娘。』のブレイクが大きなターニングポイントとなっているから。幼少期に『モーニング娘。』に憧れた女子たち、つまりが今のアイドル文化を進化させてきたのだと思います(アイドルになる子も、ファンも)。
今回はそんな世代でもある「アイドルヲク」二人に集まってもらい、話を聞いてみました!
「アイドルヲク」に聞いてみた
現在、同じ会社で営業職として働く25歳のUさんと、23歳のFさん。
Fさんは今年入社の1年生ですが、入社時にアイドル好きであることを公言したことで、同じくアイドル好きとして社内で有名であったUさんと、すぐに意気投合したもよう。二人でアイドルについてひたすら語ったりしているそうです。
どんなことについて語っているの? どうして女の子なのに、そんなに女の子のことが好きなの? ジャニーズじゃだめなの? そんな素朴な疑問から、彼女たちの深い愛の世界を掘っていきたいと思います!
彼女たちが、アイドルを愛する理由
「アイドル」は、かわいいだけじゃない
――まずは、お二人が今好きなアイドルと、アイドルを好きになったきっかけを教えてください!
Fさん「わたしは、今好きなのは『ハロプロ』(※)全般です。小さい時は『モーニング娘。』が好きでした。そこから中学生くらいの時に『AKB(AKB48)』にいき、高校生はAKBを引きずりながらも、『ももクロ(ももいろクローバーZ)』や、『東京女子流』をかいつまみ……大学で『でんぱ組(でんぱ組.inc)』にいって。で、今、ハロプロに戻ってきた感じです。結構、浮気してきちゃったんですけど(笑)。でもやっぱり、アイドルはかわいいだけじゃないなってところに戻ってきまして」
※ハロプロ…『ハロー!プロジェクト』の略。アップフロントグループ系列の芸能事務所に所属する女性アイドルの総称。『モーニング娘。’16』、『℃-ute』、『アンジュルム』、『Juice=Juice』などがいる。
――「かわいいだけじゃないアイドル」というところでいうと、アイドルの中でも、ハロプロが一番なんでしょうか?
Fさん「ハロプロも、もちろんかわいいんですけど、彼女たちはアイドルというより、もはやアーティストとして生きているんです! ダンスも歌も、小さい時からすごく鍛え上げられていますし、その成長が一番顕著に見えるアイドルなんですよね。幼い頃からプロの芸能界という厳しい世界に入り、あんなに厳しいレッスンを受けて……最初は全然できていなかった子が、いつの間にかこんなところまできて……っていうのを見ると、もう、なんだこの子たちは(泣)!って、涙が出てきそうになります」
――確かにハロプロは特に小さい時に入る子が多いみたいですし、レッスンが厳しいっていうイメージがあります。みんな根性があるんですね。
Fさん「わたしなんて、今でも先生たちにあんな怒られたら号泣なのに……。それに、アイドルって、年齢が限られているじゃないですか。歌もできて、ダンスもできて、トークもできて、かわいくないといけなくて。じゃないと、世間に“もう、あいつダメだ”って言われる。そんなプロフェッショナルな子たちが、青春を全部捧げている、あの儚さといったら、もう……!(泣)」
「アイドル」という生き方に尊敬!
――Uさんも、そういう気持ちはわかりますか?
Uさん「わかります。わたし、一時期、ももクロに超ハマっていたんですけど、その時は“10代でこの経済効果を生み出しているのに、わたしは何をやっているんだ!”みたいな感じで、生きる気力にしていたんですよね。でも今の一番はと言われると……難しいですね。グループでいうと、ハロプロと、『スタダ』(※)が好きなんですけど、わたしは“アイドルっていう概念が好き派”なんで、基本DD(※)です」
※スタダ…芸能事務所『スターダストプロモーション』に所属する女性アイドルの総称。『ももいろクローバーZ』、『私立恵比寿中学』などがいる。
※DD…“誰でも大好き”の略。いろんなメンバーやグループを応援しているファンのこと。熱心なファンからすると、“気が多い”といったネガティブな意味で使われることもある。
――「アイドルっていう概念が好き派」……ですか……!? ちょっと詳しく聞かせていただきだいんですけど、それは“女子アイドル”限定なんでしょうか?
Uさん「そうです。というのも、わたし、昔から“かわいい”って言うのも、言われるのも超苦手なんです。お世辞とかも本当に苦手で、言わないでいたんですよね。でもそうしたら、高校生の時に友達が全然いなくなってしまって……。その時に、 “あ、女子って、それを言えないと、コミュニケーションしていけないんだ”ってことを学んだんです。 “このままじゃ、生きていけないな”っていうことに気づいた」
実際のUさんは小動物のようでとってもかわいらしいのですが、雰囲気はサバサバしていて、とても理性的。女子の人生の中でも特に、“説明のつかない「かわいい~!」”が横行する10代の思春期というのは、彼女にとっては少し生きづらい時代だったのかも……。
――女子の社会だと、とにかく「かわいい~!」というのが、挨拶みたいなところはあるかもしれませんね。心からの「かわいい~!」なのかは置いておいて、それが言えないと、挨拶もできないということになりかねないかも……。
Uさん「でもよくよく考えれば、アイドルの子たちって、“かわいい”って称されることを生業にしているわけじゃないですか。わたしがかわいいって言われたり、言われなかったりで、思春期の日々を、こんなにあーだ、こーだ悩んでいる中で、彼女たちは“それ”を堂々と称されるための冠を掲げて生きているわけなんです。それって、超カッコイイなって。高校生の時にそのことに気づいてから、ぐわーーーっときてしまって、アイドルという概念にハマったという感じです」
――なるほど……! アイドルをそんな風に考えたことなかったですが、「わたし、かわいいって言われるのが職業です!」なんて堂々と言い切るのは、すごく勇気がいりますよね。
Uさん「そうなんです。だからわたしは、アイドルを名乗っている子は、全員尊敬してます! アイドルになりたいって、すごく勇気のいる言葉じゃないですか。でもアイドルの子たちは、“わたし、アイドルだから!”って、そこにすごく自負を持っているんですよ。うわあー、生き様だなあー!って思います。超……かっこいい!」
――でもその感覚は、わたしもちょっとわかります! アイドルに限らず、プロ意識の高い人の姿って、心を揺さぶられますよね。
Uさん「そういうの、たまんないですよね! わたし、『ももち』(※)も大好きなんです。同世代なんですけど、すごいプロだなと思います。確かももちが11歳くらいの時に、ある雑誌のインタビューで答えていたんですけど、『きっと人生にくじけてる人がいっぱいいると思うから、歌で人の気持ちを明るくしたい』みたいなことを言っていて……。11歳で、ですよ! 超かっこいい……(泣)! そんな彼女が芸能界で10年以上、荒波にもまれながら、きっとツラいことも色々あっただろうに、最終的に開発したのが“許してにゃん”って、なんかもう……みんな、許せよーーーーー!!って思います(笑)」
一見クールな印象のUさんの、心からの熱い叫びでしたので、その点、補足しておきます。もしアンチ・ももちの人がいらっしゃったら、許してしてあげてください!
※ももち…ハロプロ系アイドルグループ『Berryz工房』(無期限活動停止)のメンバー、嗣永桃子のニックネーム。10歳頃からアイドル活動をスタートさせており、現在24歳。「許してにゃん♪」のフレーズで、バラエティ番組を中心にブレイクした。
それぞれの、アイドルから広がる愛
――お二人は、ライブではどんな感じなんですか?
Uさん「ライブも行きますけど、でも、わたしもFちゃんも、わりと“在宅”(※)だよね」
Fさん「そうですね~。わたしは基本、家でDVDを観ているタイプです。現場(※)だと、地蔵(※)なので……。ちゃんと、こう……しっかり見ていたいんですよね。ウェーーーイ!(拳を突き上げて)とかは、やりたくないんです。一挙手一投足、真剣に見ていたいので!」
※在宅…ライブやイベントにはあまり行かず、家で応援するファンのこと。
※現場…ライブや握手会など、実際にアイドルの姿を見ることのできる場所のこと。
※地蔵…ライブで振りをせず、じっと立ったままのファンのこと。ただし、心の中が盛り上がっていないわけではない。
……アイドルって、独特な用語が多い世界ですよね!
――その、地蔵の状態でDVDを観ている時っていうのは、どんな時に、どんな思いで観ているんですか?
Fさん「DVDは、他の人が家に帰ったらテレビをつける、みたいな感覚と同じです。朝起きたらまず、テンションを上げるために音楽も流しますね。家に帰ったら、とりあえずアイドル。もう、ひたすらかわいい……!って思って観ています。寝る時もDVDをつけながら寝て、起きて、また可愛いなって思う」
(こちらは実際にFさんがDVDを鑑賞している様子。映っているのは、ハロプロ系グループが主演している、演劇女子部 ミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』。)
Uさん「わたしの場合は、社会人2年目まではお金がなくてDVDも全部は買えなかったから、申し訳ないんですけど、あんまりお布施(※)が出来てなくて……。だからわたし、あんまりいいファンじゃないんですよね。消費をしないんです。ライブも、エンタテインメントとして楽しむんですけど、それよりは、家でバラエティー番組とかを観て、“あの子の受け答え、切り返し、まじシビれる~!!”みたいなところに萌えたりとか、感動したりしますね」
※お布施…アイドルに限っての言葉ではないが、好きなアーティストや作品の、主に公式グッズを購入すること。
――どんな場面であってもアイドルらしく貫こうとする姿に、自分なりの気づきが加わってグッとくる、ということですかね?
Uさん「たぶん、そうですね。ちょっと前だと、ハロプロのJuice=Juiceが、アイドルをテーマにした朝井リョウさん原作の『武道館』という作品のドラマ化で、初主演を務めたんです。
Juice=Juiceって、デビュー当時からの圧倒的センターで、絶対エースなのが、宮本佳林ちゃんっていう子なんですよね。だけどキャストが発表された時、センター役が別の子になって……。そのセンター役に選ばれた植村あかりちゃんという子は、すごく顔がかわいいんです。ただ、歌とかダンスは、佳林ちゃんの方がうまい。
でも結局、ドラマでセンター役に選ばれたのは、元々ビジュアル担当と言われていた、あかりちゃんなわけですよ。結果的にそのドラマは、佳林ちゃんにスポットが当たっていたんですけど……ドラマをまだ観ていない世の中的には、“ビジュアルがこの子の方が上”っていう烙印を押された瞬間だろうなって思うんです。“ああ~、やっぱこれしんどいだろうな~”って、その時の佳林ちゃんの気持ちを、勝手に妄想していました」
――実際、“しんどい”という発言をどこかでしていたわけではなく?
Uさん「そうですね。雑誌のインタビューでは全然そんなこと言っていなくても、“あ~~この表情は、きっと……”みたいに妄想して……。普段から、アイドルのツラいことを妄想しちゃうんです。 “これ、絶対揉めただろうな”とか、 “この歌割り(※)が決まった時、この子は心中穏やかじゃなかったんだろうなー”とか。それでも“こんなに気丈に頑張ってる”っていうストーリーを、勝手に妄想しています。あと、グループ内の関係性とかも妄想しますね。ブログに載せている自撮りひとつとっても、女同士だから、そのしたたかさも分かる。こういう裏側の事情って、女にしかわからないと思うんですよね」
※歌割り…ボーカルが複数いる時、誰がどの部分を歌うかを決めること。楽曲におけるメイン担当とハモリ担当も決まる。
――なるほど。でも妄想は女性の得意分野だし、お金をかけずにできるし、いいですよね!
Uさん「そうなんです。本当は、別に裏側には何も妄想したようなことはなかったかもしれないですけど、わたしの中にストーリーがあるので、いいんです。それはそれで!」
――では最後に。お二人にとって、アイドルは「勇気が出る」とか、「頑張る気になる」、とかそういう存在なんでしょうか?
「そう、だと思います。そう……。うーん?(二人で顔をつき合せながら) でも、何なんでしょうね……? 正直、自分でもよくわからないかもしれないです。アイドルのことは、息をするように好きでいるというか、共にいるので……」
――息をするように、共に、いる?…………承知しました!!
ここまでじっくりと「なぜアイドルが好きなのか」を、論理的に解明すべく深掘りしてきたつもりだったのに、最後に彼女から出た言葉はこれでした。「息をするように、共にいる」……。なんて、なんて深い愛なのでしょう……! 彼女たちにとってアイドルとは、もはや生活の一部なのかもしれません。スマホを見たり、食事をしたり。そんな当たり前の行為に対して「なぜ」なんて自問したことがない、というのであれば、ある意味納得。こういった無意識的な愛し方というのも、またひとつの「ヲクらしさ」と言えそうです。
「アイドルヲク」の愛をまとめてみる
と、いうことで! 今回のヲク女子のケースをまとめてみます。
・アイドルとは、勇気と信念を持って働くプロの職業。
・アイドルのツラさや奥深さを妄想できるヲクならば、在宅でも充分堪能できる(むしろその方がいいという説)。
・アイドルを愛することは、無意識のルーティーンワーク。
女子の“好き”は果てしない――。
次はどんな○○ヲクの心の中が明らかになるのか!?
こうご期待!
(文・イラスト:佐藤由紀奈)