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現役ポートレートモデルに聞く「写真を撮られる」趣味の魅力

たなか もみこ

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たなか もみこ

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「ポートレートモデル」という言葉があるのをご存知ですか?

素人カメラマンの練習台や、カメラマンが新しい機器を手に入れたときの参考例として撮影に協力する素人モデルのことで、もともとはあくまでアシスタント的な、一部でしか知られていない存在でした。

しかし、2014年あたりからTwitterやInstagramなど写真をアップする形態のSNSが一般化し、“自分のSNSにアップしたいがためにカメラマンに協力する”という女性たちが急増。それに合わせて、単なる練習台としてではなく、モデル自身も写真の仕上がりを重視するようになってきたのです。

カメラマンが素人モデルを撮影し、必要に応じてレタッチ(フォトショップ等で背景やモデルさんを修正すること)を施し、完成した作品をSNSにアップする。今ではこの一連の流れをカメラマン・モデルの両方とも楽しむことが、SNS時代のメジャーな趣味のひとつになりつつあります。他に、「被写体モデル」や「ポトレ女子」と呼ぶことも。

この趣味の黎明期には当サイトでもいくつかの記事で取り上げてきました。

参考記事:SNSでの自慢が目的?「被写体モデル」になりだす素人女子大生が急増中

高画質なカメラを搭載したスマホが当たり前、綺麗な写真はシェアして当たり前の時代となった今、彼女たちを取り巻く環境に変化はあったのか?

現在ポートレートモデルをやっているnanaさん(@nanappp6250)にお話を伺いました。

はじめるきっかけは「写真の中の自分」への驚きから

――nanaさんがやっているポートレートモデルとしての活動内容を教えてください。

「Instagramにカメラマンさんに撮っていただいた作品をアップします。すると別のカメラマンさんからInstagramのDMで連絡が来るので、やりとりをしながら撮影の約束をして、実際に会って撮影。後日レタッチ済みの作品をいただいて、それをInstagramにアップして……その繰り返しです」

photo by Kazukiさん(@kz_pht)

――最初にアップした作品はどういったきっかけで撮影を?

「知人に撮ってもらいました。ポートレートモデルをはじめるきっかけにもなった作品なんですけど、普段鏡の前では暗い表情をしている私が『写真の中ではこんな笑顔を作れるんだ!』とびっくりした1枚です」

▲実際の写真

――カメラマンさんも素人の方が多いんですか?

「そうですね。一部にはプロの方もいらっしゃいますが、私が撮ってもらったカメラマンさんは基本的に平日は会社員という方が多かったです。とはいえ、撮影から写真の現像、レタッチまで、趣味の範疇を超えているんじゃないかと思うくらい、みなさん本格的です」

「撮る」側の力が強くなってしまうリスクも考える

――ネットで知り合ったカメラマンさんと実際に会うのって、ちょっと怖い気がするのですが……。

「確かに危険なこともあると思います。私はInstagramのDMのやりとりをした時点できちんとした挨拶ができるか、言葉遣い、返信スピードなどを見て会うかどうか決めています。はじめたばかりの頃はたくさん作品がほしくて、メッセージを送ってくれたカメラマンさんにはできるだけ撮影していただこうと思っていましたが、それでも8割程度はお断りしていましたね」

――やはりモデルさん自身も自衛が必要なんですね。Instagramに載せている「お願い」もその1つですか?

▲nanaさんが実際にInstagramに掲載している「お願い」

「そうですね。DMの時点である程度は線引きしているつもりでも、撮影中に不快な思いをしたことがあるんですよね。芝生での撮影中に馬乗りになられたりとか、過度にセクシーなポーズを要求されたりとか……。カメラマンが男性、モデルが女性の組み合わせが多いのもあるけれど、どうしても撮る側に主導権を握られてしまいがちなので、注意事項を出すことにしました。

ひどいと、モデルさんが断りきれずに服を脱がされてしまうなんて話もちらほら聞くので、同じように注意しているモデルさんは多いのではないでしょうか」

自分を作品にする非日常感「自信がない人こそやってみてほしい」

――nanaさんがInstagramにアップしている作品にはなんとなく雰囲気に共通点があるような気がします。何かこだわりなどあるんでしょうか?

「ひとくちにポートレートモデルといっても、服に焦点を当てたファッションスナップから、見ている人がデート気分に浸れるものや、肉体美を写すグラビア作品までカメラマンさんによって様々です。

私は男性を惹きつけるような作品には興味がなく、純粋に私の表情に焦点が当たるような作品が好きなので、そのイメージに近い作風のカメラマンさんにお願いするようにしています。普段から『#被写体モデル募集』などのハッシュタグは頻繁にチェックしていて、自分の好きな雰囲気の作品を撮る方を見つけたら、自分からお願いのDMを送ることもあります」

――SNSの「被写体モデル専用アカウント」をのぞいてみると駆け出しの女優さんが宣伝のためにやっていたり、インフルエンサーを目指してフォロワーを集めるためにやっていたりという方も多いようですが、nanaさんは何か目的などあるんですか?

「私は完全にストレス発散ですね(笑)! 仕上がった作品の良し悪しも自分基準ですし。

私が被写体モデルとして撮っていただくときは、とびきりの笑顔よりも暗い表情をするほうが好きなんです。そういう表情を作るときって必ず過去の自分が憑依してきて……。かつてのつらい気持ちを作品に落とし込むことで、ひとつずつ開放していくような感じです。だから撮影の度にスッキリするし、元気が出るんですよね! 私が被写体モデルを続ける理由はそこにあると思います」

photo by yutoさん(@yuto114

――ほかに被写体モデルをやっていて嬉しかったことはありますか?

「いろいろありますが、ひとつ挙げるとすれば何年も会っていなかった友人が私の作品を見て連絡してきてくれたことですね。『佇まいが美しいね。特に目線の外し方がグッとくる』ってわざわざメッセージを送ってきてくれたんです」

――ということは、ポートレートモデルをやっていることを、周りの人に話しているんですか?

「そうですね。フォロワーにはプライベートの友人も数名います。はじめはやっぱりドキドキしましたね。どう思われているのかなって。でも最近は、『自分のやりたいことをやってるだけだし』と思うようになって、他人の目はあまり気にならなくなりました! 趣味だし、隠すほどのことでもないと思うので、友人への近況報告で言ったりもしますよ。

私もポートレートモデル専用アカウントを作っているのですが、それは隠したいということではなく、ギャラリー的なものにするためです。私がどういう作品が好きなのかが、カメラマンさんも自分自身もパッと見てすぐに分かるように意識しています」

▲nanaさんのアカウント

――ポートレートモデルをはじめてから、何か自分の中で変わったなと思うことはありましたか?

「以前よりだいぶ自分に自信が持てるようになりました。また、いろんな撮影を経ていくうちに自分から積極的にコミュニケーションが取れるようになった気がします。そのおかげで、プライベートな相談もできるような大事な仲間と知り合えたので、ポートレートモデルを始めてよかったなと思います」

――もし周りの人に「ポートレートモデルをやってみたいんだけど……」と相談されたらどうしますか?

「もちろん背中を押します! たくさんある自分の一面を作品という形で残せるなんて、日常にそうそうないじゃないですか。

自分を表現することに興味があれば、自信がなくてもいいと思うんです。むしろ自分に自信がない人やネガティブな考えに陥りがちな人にこそやってみてほしい。私も思い切ってやってみたら『こんな作品にしたい』、『あんな作品にしたい』とどんどん前向きなアイデアが湧いてきて、今とても楽しいです! 他人に見られる機会が増えた分、外見にも気を使うようにもなってきましたし、綺麗でいられるうちはポートレートモデルを続けていきたいですね」

photo by Nico_kidsさん(@nico_kids_10

ポートレートモデルをする理由は、「いいね!」以上に得られる心の癒やし

実はこのインタビューをするまで、ポートレートモデルといえば、綺麗な写真を撮ってもらって、SNSにアップして、「いいね!」をもらうことで満足感を得ているイメージがありました。nanaさんも「あまり意識してないですけど、たぶん承認欲求を満たす目的もあると思いますよ」と話します。

インタビューに応じてくださったnanaさんは一例に過ぎません。しかしスマホで簡単に“いい感じ”の写真が撮れる時代に、危険回避能力を駆使しつつ、わざわざカメラマンと会って撮影する。その行為自体を楽しみとするのは、「いいね!」を付けられること以上に、自信を与えてくれたり、人と密なコミュニケーションをとったりすることで、心が満たされる人が多いからだと感じざるを得ません。

(文:たなかもみこ)

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