Social Trend News

更新

えとみほに聞いた!スポーツビジネス隆盛のために必要なこと

あまの さき

Creator

あまの さき

Read more

Share!!

40代になるまでに培ってきたIT業界や経営者としてのキャリアから、“お役に立てるかもしれない感”があったJ2サッカーチーム「栃木SC」への転職を決めたという江藤美帆さん。彼女が新天地で着手しようとしていることは、非常に多岐に渡ります。これからのスポーツビジネスで、江藤さんが必要と考えているポイントについて伺ってみました。

ITとスポーツ、日々感じる違い

――転職をしてみて、ギャップはありますか?

「まず思ったのは、お金がないな、と(笑)。前職のIT業界は1度形が出来上がって軌道に乗れば、少ない人数でもお金が回るようになります。でも、プロスポーツは興行とそれに付随するスポンサー収入がメイン。収容人数に限りがある分、無限に儲かるということはないんです。
例えば、スタジアムに来て下さるお客様を100人増やすってすごく大変なことですが、それで増える売上は数十万円。ビジネスモデルとしては厳しい部類に入るなと、実感しています

それでも、チケットやシーズンパスポートなど、やり方を変えれば2割くらいは収益を増やせると思います。今年はすでにシーズンが始まっているので、抜本的なマーケティングの戦略にはテコ入れができていませんが、来シーズン以降は着手したいですね。それでも、その施策がうまくいったかどうかを知れるのに最低でも2~3年はかかる計算になります」

――ずいぶん足の長い話ですね。

PDCAをまわすのに時間がかかるという点も前職との大きなギャップです。たとえば、『一番収益が最大化されるキックオフ時刻は何時か?』について社内で議論しているのですが、これを検証するには、原則として同じ対戦相手・同じ気象条件で比較しなければいけないんです。ホームでは1年に1度しか同じチームとは対戦しませんから、こういったこと1つとってみても足の長い話になります」

今、考えているSNSの使い方

――江藤さんはご自身のSNSを積極的に活用していますが、チームの情報発信も含め、引き続き個人アカウントで行っていくのでしょうか?

個人のアカウントなので自由にしてくださいという感じで言われてはいますが、ツイッターに関してはフォロワー数も3万を超えて、少々やりづらい部分は感じています。スポーツチームってやっぱり、選手やその他のスタッフもそうだと思うんですが、勝てないと発信しづらいところがあると思うんです。ただ、それを言ってると常勝軍団以外は何も発信できなくなっちゃうので、そういうところも少しずつ変えていけたら、と思っています」

――今後、選手のSNS活用にアドバイスなどしていく予定はあるのでしょうか?

「すでに一部の選手からは、教えて下さいという申し出がありました。若手を中心に、Instagramをやっている選手は最近増えています。ただ、やってはいるものの、上手く使えていないな、という感覚があるようです。

基本的に、プロのアスリートはすでに個人やチームにファンがついているので、頻度高く発信していればフォロワーは増えていきます。ただ、普通に発信しているだけでは、自分のもともとのファンしかフォローしてくれないので、そこは一工夫必要かなと思います。
先日、とあるバスケファンの女性に『女子は男子が仲良くしてるところを見たいから、もっと選手同士が絡んでいるところをSNSで発信して欲しい』と言われて、なるほどなと思いました。

たとえば、栃木には栃木ブレックスというBリーグのバスケチームがあるんですが、このチームの選手と栃木SCの選手ってけっこう仲が良いんですよ。彼らが一緒にInstagramに出ていたら、お互いのファンが『この人は誰だろう?』って、興味を持ってくれると思うんです。こうやって異なる競技間で情報をシンクロさせてフォロワーを増やしていくのもひとつの手法かな、と思います

――たしかに、女性は選手同士の相関図が気になるという声はよく聞きますね。

「ここが男性と女性の視点の違いですよね。男性はトレーニングや食事内容を見たい人が多いんです。

例えば、サッカーで有名なクリスチアーノ・ロナウド選手は、全てのSNSアカウントの合計で2億5千万人のフォロワーがいます。彼のInstagramを見ていると、男性向けにトレーニング動画や自分の腹筋を載せていたり、そうかと思えば、女性が喜びそうな、彼女と仲睦まじいデートの写真を載せていたりします。自分のファン層を熟知したうえで戦略的にやっているな、と思って見ています」

スポーツビジネスの中心、興行を上げるために

――今、女性ファンのお話が出ましたが、実際女性ファンはスタジアムに来ているんでしょうか?

「栃木SCの場合、Jリーグ平均より9%ほど女性の来場者が少ないというデータが出ています。要因についてはこれから詳しく調査しますが、個人的にヒアリングした感じだと、スタジアムに屋根がないことが1つ大きな来場のネックになっているのかなと思っています。炎天下に3時間近く晒されて、日傘もさせないというのは、美容を気にする女性には考えられないことですから。

ただ一方で、音楽フェスは野外であっても皆さん行くわけですよね。その点を踏まえて考えると、一概に屋外だからダメだというわけでもないと思います。たとえば、フェスみたいに『この場にいることをSNSで自慢したい』と思ってもらえるようなイベントを催したり場の雰囲気作りができれば、自然に女性の来場を促進できるようになるんじゃないかと。そういう点では、女性サポーターがやってる『Jユニ女子会』みたいな有志の活動はすごくありがたいですよね。

あと、少し話は逸れますが、男性サッカーファンに対する “嫁ブロック”も問題も集客を妨げる1つの要素になっていると感じていますただ、これは女性の立場からすると、すごくよく分かるんですよ。育児で大変な時に『ちょっとサッカー観に行ってきていい?』なんて言われたら、普通はキレますから(笑)。

この問題をどう解決するかはとても難しいんですが、ツイッターなどでいろんな方に話しを聞くと、お父さんが子どもと一緒にサッカー観に出かけて、お母さんはその間好きなことをしているのが一番よさそう。ちなみに、サッカー先進国のヨーロッパでも同じような“嫁ブロック”は起こっていて、その影響があるのかどうかは分かりませんが、商業施設や託児施設と一体化したスタジアムがすでにあります」

「また、全く異なるアプローチとしては、子どもにサッカーをやらせるのもアリかなと思います。たいていのお母さんは子どものことには熱心。旦那さんが勧めてもまったく興味を示さなかったような人が、子どもにせがまれてサッカーに興味を持つ場合があります。そう考える、やはりクラブとしてはより一層スクール事業を強化して、未来の選手を育成するだけでなく、そこからクラブを応援してくれるサポーターを育てていくこともできるんじゃないかと。最近、日本代表の本田圭佑選手が育成事業をやられていますが、サッカー文化を育んでいくという意味でも、育成分野には大きな可能性を感じています

その先に見据える、“働きやすい会社作り”

――伺っていると、本当に多岐にわたる問題に向き合われているなと感じます。

「そうですね、やるべきことは山ほどあるので優先順位づけが必要かなと思います。現状の私のミッションとしては、今はまず顧客満足の向上と集客が最優先です。ここをJクラブの平均水準以上に引き上げられたら、従来の収益の柱である興行やスポンサードとは違った事業を考えていきたいですね

例えば、ガイナーレ鳥取や鹿島アントラーズは芝を販売する新規事業をやっています。また、ゼルビア町田のように“ゼルビアキッチン”という、選手が食べているメニューを提供する食堂を展開する例もあります。栃木県にも栃木にしかないものがたくさんあるので、いずれはそれらのものとサッカーを掛け合わせてできる事業をやっていきたいな、と

プロスポーツクラブが普通の会社と違うのは、ただお金を儲ければ良いというわけではない、ということだと思います。極端な話をすると、1億円の黒字を出してもトップチームが降格してしまったらフロント(ビジネスサイド)はサポーターやスポンサー企業からお叱りを受けてしまいます。このため、多くのクラブはまずトップチームを勝たせるためにトップチームの人件費に投資をするんです。ただ、これをやっているとフロントスタッフの給料はいつまでたっても上がりません。それで、仕事は好きだけど辞めてしまう人も多いんです。

弊社の社長の橋本はこの点を危惧していて、栃木SCは『まずフロントに投資する』という方針を打ち出しました。私も長年サポーターをやってきて、まったく同じところを危惧していたので、橋本の話を聞いて『このクラブは面白そうだな』と。可能性を感じたんですね。いまのところは本当にお金もなくて、毎日みんなで爪に火を灯すような生活を送っていますが(笑)、魅力的な興行と収益性の高いサイドビジネスの両輪で、必ずトップチームも強くなっていくと信じています」

えとみほの視線の先に写るもの

チームを盛り上げるために必要なことを、大きな視野で考え抜いている江藤さん。「Jリーグにまだまだポテンシャルを感じている企業は多いはず」と話してくれたその眼には、ファンであふれ返るスタジアムと、その盛り上がりを笑顔で支えるスタッフの姿が、すでに写っているのかもしれません。

【栃木SC 今後の試合日程】
7月7日(土)18:00~ vs町田ゼルビア@町田市立陸上競技場
7月15日(日)19:00~ vsモンテディオ山形@栃木県グリーンスタジアム
7月21日(土)19:00~ vs大分トリニータ@大分スポーツ公園大分銀行ドーム
7月25日(水)19:00~ vs水戸ホーリーホック@ケーズデンキスタジアム水戸
7月29日(日)18:00~ vsツエーゲン金沢@栃木県グリーンスタジアム
8月4日(土)19:00~ vsFC岐阜@栃木県グリーンスタジアム
8月11日(土)19:00~ vsアルビレックス新潟@デンカビッグスワンスタジアム
8月18日(土)19:00~ vsアビスパ福岡@栃木県グリーンスタジアム
8月26日(日)19:00~ vsロアッソ熊本@えがお健康スタジアム
※チケット購入等、その他詳細はこちらからご覧いただけます。

(文:あまのさき)

PAGE TOP