ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
チェリーについて

桜井ユキ「人に期待しないほうがいい理由」

祝・桜井ユキさん チェリー最多ご登場!

傷つきながらも前を向いている(イメージの)人を追いかけがちな“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”。4回ご登場の森川葵さんを筆頭に、杉咲花さん、みうらじゅんさん、豊田利晃監督etc.……と、複数回ご登場していただく方も多くいらっしゃる中、初の2カ月連続登場で、ついに最多5回目の登場となるのは女優・桜井ユキさん。

毎回、すべての繊細に生きる人々を救うような言葉をくれる桜井さんだが、今回は「言葉にすると、その定義の中で小さく収まっちゃう気もしている」と、自分の思考を言葉にすることの危険性を感じながらも、丁寧に慎重に、自分の中から言葉を掬い上げてくれてくれた。

24歳で女優としての活動をはじめ、31歳となった2018年は『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』『大恋愛~僕を忘れる君と』『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』とドラマ出演も多い年に。
そして、今年公開される映画としては5本目となる最新出演作『真っ赤な星』は、「“2人の関係を描く”映画の中で最もしんどかった」と言わしめる作品に。男に体を売ることで生計を立てる弥生(桜井ユキ)に惹かれる、14歳の少女・陽(小松未来)との危うくも美しい関係性を描いている本作品をきっかけに、恋愛を含む人間関係、そしてその中での生き方について、桜井さんに伺った!

「絶対」は他人から与えられるのではなく、自分の中で決意するもの

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――14歳の陽が「ずっと一緒にいる!」と宣言するシーンがありますが、“永遠のオトナ童貞のための文化系マガジン・チェリー”としては「ずっと」って言えてしまえることが少年性なのかなと思いました。桜井さんはそういった言葉に関してはどうお感じになりますか?

「私自身は『ずっと』とか『絶対』って言われても『ふーん』って感じで、深く受け取らずに流すというか(笑)。そこに希望は持てないですね。もちろん、その言葉自体を否定しているわけではなくて。私だって『絶対にこうなる!』って自分の中で決意することはありますよ。でも、逆に他人に『あなたを絶対にこうするね』と言われたとして、そこに希望を持つことはないですね」

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――「希望を持ってない」という話ながらネガティブな意味には聞こえず、むしろ冷静に自分を信じている感じがします。

「物事に対して、絶対的な希望を持つことって無理だとは思うんです。でも、針穴に通すような作業をして何かを実現することはできると思うんですよね。まあ大人の男女にとっての『ずっと一緒にいる』は、ほんとに1ミリもないくらいの針穴に糸を通し続けるようなものだとは思いますけどね(笑)」

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――それでも大人になっても「ずっと一緒だね」って言えちゃう人もいますよね。

「それはそれで素敵なことだと思います。その人たちの世界観の中にその言葉があって、それでお互いに幸せを感じられるのなら、素敵なことですよね。もしかしたら言ってる側も言われてる側も、根底からはそんなふうに思ってないかもしれない。でも、それを言うことによって円滑に進むことってあると思うんですよね。『ずっと一緒』という言葉に限らずそういう言葉ってあると思うんですけど、その意味では魔法の言葉みたいなものですよね」

“違う色の2人”のほうが広がっていく

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――大人の男女という話になりましたが、桜井さん自身は、一緒にいる男性にどんなものを求められますか? ちなみに10月に出演された『ボクらの時代』で「好きなタイプは少年のままでいられる人」とおっしゃってたので、完全に僕らチェリーのことだと曲解しています!!

「そうですね(笑)。相手の方にそういう感覚があると、コントラストが生まれていいな、と思います。お互いに違う色を持っていたほうが、一緒にいたときに広がりがでるのかな、って。それは恋愛関係に限らずのことではあるのですが、特に男女は違う色の2人が一緒になったときに広がりがでる傾向が強い気がします」

関係性に形をつけること、つけないこと

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――そう考えると、この映画の弥生と陽の2人には色どころではない違いが(笑)。

「男女だったらわかりやすく結ばれることも可能ですが、この2人は年齢も違うし、お互い何に惹かれているのかもわからないまま、正解がないままもがいていますよね。でも、関係性を形づけられないからこそ生まれるもどかしさも含めて、恋愛よりはるかに複雑で繊細な関係性だなと思います」

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――とかく、みんな関係性を形づけようとしませんか?「僕たちつきあってるよね」とか、楽だからかもしれないけど、関係性を言葉で形づけたがりますよね。

「みんな『つきあおう』とか簡単に言いますけど、何を “おつきあい”と呼ぶのか、私はまだわからないですし(笑)。きっと形づけたほうが、始まりと終わりがあってラクなんでしょうね。『はい、始まりました』『はい、終わりました』ってはじまりと終わりがわかりやすい。それが具体的にないと、もどかしくて、つらいってわかってるから、形を欲しがるんでしょうね」

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――桜井さんご自身はいかがですか?

「中高生の頃は、恋愛に限らず形にこだわっていた時期もあったかもしれません。でも、年齢を重ねるにつれて、その感覚は薄れていってますね。そもそも、どんな形が、その形の正解なのか、っていうこともわからなくなっていきますよね」

人に期待しないほうが、人と接しやすくなっていく

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――やはり年齢とともに、年々形は変わっていくんですね。

「ええ、私の場合は他人に期待していない分、年々諦めの境地に近づいていっている気がします」

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――おおっ、「他人に期待していない」というと、一瞬クールに聞こえますが、もう少しご解説をお願いします!

「もともと子供の頃から人にあまり期待はしていないんですけど。今は期待をしないことに、自分がすさんでないんですよね。だからすごくラクなんです」

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――すさんでない状態の心で、人に期待をしないことはラクなことなんですね。

「期待をしていないので、がっかりすることもないですし、自由に近い感覚です。それに、人に期待していない分、人と話しやすいんです。人に期待して『◯◯して欲しい』みたいなことを思ってしまうから、関係性っておかしくなると思うんですよね。だから、期待しないほうがフラットに接することができるんですよね。もちろん私だって、誰かに何かをもらおうとする感覚がないわけではないんですが、それが年々減っていく感じですね」

自分のセンサーで生きていく

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――今のお話を聞いてより強く感じましたが、桜井さんは自分の感覚をしっかりと保ち続けられていますよね。

「自分のセンサーは大事にしたいんですよね。私の中に、譲れないセンサーがあって。自分の生存本能に近いのかもしれません。そのセンサーが危険信号を出してるのに、他人の言うことを聞いてしまったりすると、痛い目にあってしまうから」

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――それって精度の差はあれ、たぶん各々センサーはあるはずですよね。

「みんな持ってて、そこにちゃんと素直に耳を傾けるかどうかだと思うんですよね。どこかに自分で責任を負いたくないっていう思いがあると、自分のセンサー通りに動けなくなってしまいますから。自分のセンサーに従って動いて、出た結果を自分が負う分にはいいじゃないですか。人に期待しないと、人のせいにもしないから、そこで他人を恨むこともなくなるんですよね。逆は怖いじゃないですか。期待した分、とめどなく恨みつらみが出てくるのは(笑)」

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――とてもわかりやすく言葉にしていただきありがとうございます。

「難しいですよね。どちらかというと、私、感覚の人間なので、言葉にしてしまうと全部胡散臭くなっちゃう気もしていて。言葉にすると、その定義の中で小さく収まっちゃう気もしているんです。だから、センサーって曖昧な言葉かもしれませんけど、私は我を持つよりも、センサーを大事にしたいと思っているんですよね」

“人を好きになる”史上、一番大変だった役

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――そうすると、ついつい今回の映画の陽と弥生を“堕ちていく2人”と言葉で形容したくなってしまうんですが、そんな単純化されるものでもないですよね。

「ええ、2人は壊れそうなところをギリギリで保っているというか。過程が苦しいから、崩れているように見えるけど、決して堕ちているわけではなくて。むしろ私の演じた弥生に関しては、本来の自分に戻れていくという面もあるんですよね。陽も、今まで蓋をしていたものを開けるきっかけになっているから、痛々しい風には見えるけど、結果的には悪いことではない、と。もちろん正解はないし、私はそう感じるということなんですけど」

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――かなり大変な状況な2人でしたが、桜井さんはよく「演じていると本当にその相手の役のことを好きになってしまう」とおっしゃっているじゃないですか。その意味では今回、単純な関係でもない分、大変だったんじゃないですか?

今までの“人を好きになる”史上、一番大変だったかもしれませんね。相手は14歳の女のコで年も離れていますし。年が離れていても、恋愛関係ならまだしも、そうじゃないし。そして、恋愛関係のように見せればいい、という底の浅い映画でもないですし。だから“2人の関係を描く”史上、一番しんどかったかもしれません。まあ、そもそも私には、今のところ全くと言っていいほど、幸せな役がこないんですけどね(笑)」


(取材・文:霜田明寛 写真:中場敏博)

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■作品情報

【STORY】
片田舎の病院に怪我をして入院した 14 歳の陽(小松未来)。彼女はいつも優しく接してくれていた看護師の弥生(桜井ユキ)に対し、特別な感情を抱き始めていた。だが退院の日、弥生が突然看護師を辞めたことを知る。 1 年後、陽は買い物の帰り道で偶然弥生と再会する。そこにいたのは、過去の優しい面影はなく、男たちに身体を売ることで生計を立てている弥生だった。再会後、学校にも家にも居場所がない陽は、吸い寄せられるように弥生に近づく。一方、弥生には誰にも言えない悲しい過去があった。満たされない現実を冷めた目で見つめ、互いに孤独を抱えるふたりは、弥生のアパートで心の空白を埋める生活を始めていく——。

■キャスト:小松未来・桜井ユキ/毎熊克哉・大原由暉/小林竜樹・菊沢将憲・西山真来/湯舟すぴか・山谷武志・若林瑠海
大重わたる(夜ふかしの会)久保山智夏・高田彩花・長野こうへい/中田クルミ(声の出演) PANTA(頭脳警察)

ー3カ月前、童貞を捨てた。思ったほど、世界は変わらなかったー
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